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2014年4月25日金曜日

香りで表現する喜びを・調香師新間美也さんの著書『アロマ調香レッスン』


パリ在住の調香師、新間美也さんの新しい著書が今春発刊されました。

数年前から
時々お会いし楽しくお話させていただいている新間さんの
その繊細でやわらかな語り口が聴こえてくるような文章です。

『アロマ調香レッスン』新間美也 著 原書房



アロマテラピーで用いられる素材は
そもそも香水の素材でもあるということ。
素晴らしい、かけがえのない表現素材です。
このシンプルな事実を受け入れ
広い視野と柔軟な精神で「香り」そのものを愛する人ならば
初心にかえって楽しく読める本であると思います。

基礎、初級、中級、…という順で素直に読んでもわかりやすいですが
香水愛好者であればいきなり上級編から読まれても面白いはず。
あの数々の名香の基本構造が天然香料でこんなふうに置き換えられ
表現され得るのかと、新たな感慨をおぼえることでしょう。

精油という天然香料は
様々な美的イメージを表現する香水の原材料の一種ですが
この豊かな素材はかつて
人がその心地良い芳香や
さまざまな問題から人の生命活動をまもる薬効、治療特性から
発見され貴重なものとしてその存在が現代に引き継がれてきたもの。

確かに薬効や治療特性も重要かもしれませんが
においの感覚というものは
そもそもその人の身体が嫌がるものは受けつけません。
においは心地よいものであって初めて人体に受け入れられ
それでこそ、その香りも効力を発揮するはずです。
ゆえに…

たとえ各精油の伝統的効能を学んだからといって、最終的に、感受する人に心地よい香りを提供できる表現力がなければリラクセーションを目的とするアロマテラピーは成立しない。

それが、アロマテラピーよりもずっと前から香水の素晴らしさを知っていた私の考え方でもありました。そんな考え方を著者の新間さんと改めて共有できたような嬉しさとともに、これからこの本を、初めてアロマテラピーを学ぶ香水経験者にも是非勧めていきたいと感じています。


2014年1月24日金曜日

「香り」の未来を考える〜 Michel Roudnitska 氏の言葉より


未来のことを考えるとき
原点を見つめ直すために時折読み返す本の一つが
『香りの創造』エドモン・ルドニツカ著 /曽田 幸雄訳 (白水社)。
4年前、香りの音楽表現をテーマとする論文を執筆したときも
この本を参考文献としていた。

エドモン・ルドニッカ(Edmon Rondnitska)。1905~1996。
20世紀に活躍した偉大な調香師の一人。

ちょうど今月読みなおしていた矢先。

マグノリアに魅かれてチェックした記事
Magnolia Grandiflora – Michel
01/21/14 18:08:43
By: Jordan River
の中で
ルドニツカ氏のご子息であるミシェルさんも
現在調香師として香りを創造していることを知った。
彼は最初は写真家として、ビジュアルアーティストとしての
表現活動を積み上げた後
40才になって本格的に調香の仕事に取り組んだという。

そんな彼への貴重なインタビュー記事も発見。
彼は過去の人ではない。
父親譲りの繊細な感性、観察力、洞察力をもって
現代に生きるデザイナー、表現者である。
ゆえにこのインタビューでは過去の功績話で終わってはいない。
21世紀の現代
「香り」のマーケットが置かれている深刻な現状を
鋭く簡潔に指摘し、これから成すべき歩みに言及している。
Exclusive Interview with Michel Roudnitska
07/24/09 15:34:05
By: Michelyn Camen

この記事が書かれた2009年は私にとって忘れ難い年。
文化としての香りの価値を伝えるべく
稀少な天然香料の一つであるダマスクローズ香料のブランド、
パレチカの監修をはじめた年でもあった。素材あってのクリエイションの発達、その可能性を現代の解釈で再構成できる感性こそがこの先求められるはずであるし、前世紀に使い放題で枯渇しつつある天然資源と自然環境のサステナビリティを考える上で重要なアプローチになればと考えていた背景があった。

この長い記事の前半、父エドモンさんの弟子でもあったジャン=クロード・エレナ氏(現在エルメスの専属調香師)とミシェルさんとのエピソードも実に興味深い。
調香の修行を積んできたエレナ氏。
一方で幼い頃から父と暮らし様々な香りに触れてきたとはいえ
20代以降写真家や視覚表現におけるキャリアを積んできたミシェルさん。
二人が同時に別々の考え方で調香した香りのクオリティレベルが
二人で互角と認め合えたらしい。
表現者としてのキャリアが確実に活きていたと言えるだろう。

視覚表現、音楽表現それぞれでキャリアを積んだ経験が
調香のクリエイションに活きた例は他にもいくつか知っている。

人は、生きるために呼吸を止めることはできない。
何かを視ているときも周囲の匂いを同時に感じ
耳栓をしていない限り音も感じている。
見えないものを同時に「視て」いる。そして感じる。
三つの感覚が響きあってこそ感じられる。

2年前に書いた記事。
見えなくても確かに存在するもの
この記事後半に記した大学でのアプローチを
今年度まで9期にわたって実験的に行ってきた。
結果、クリエイターを目指す若い彼らによって
未来へと開かれていく「香り」活用の可能性を
私自身が期待しているところでもある。

2013年10月16日水曜日

赤という色・赤いボトルの香り・赤に感じるもの

6月に記憶をベースに、ヒトは五感で香りを感じるで取り上げたJohn Biebel氏による、色と香りに関する最新記事を発見。

Twin Perceptions Color and Scent: Fire
10/08/13 12:30:21
By: John Biebel


今回は鮮やかな紅葉や燃えるような炎の写真からもわかるように
赤系統の色がテーマ。

この色が、人にとってそもそもどんな意味を持つのか、
西洋、東洋での捉えられ方について、
そしてこの赤という色をテーマにしたフレグランス、
赤やオレンジ色をボトルカラーにしたフレグランスの紹介、
そしてそれらがこの色に込めた意味への考察へと続く。
非常に面白い。

今さらながら
自分と赤という色の付き合い方を振り返る。
まず
この色を鮮烈な印象を醸し出すバランスで眺めるのは好き。
眺めていると元気になってくる。

コムデギャルソンのように赤色で
スパイシー、ホットなイメージを打ち出している
フレグランスもあったけれど
自分はスパイシーなものを食べるのが好き。

そして
好奇心から魅かれたものに対しては結構熱い体質なので
このすでに熱い内面をクールダウンさせてバランスをとるような
例えば青、紫、白、黒などを
最近はよく着ているかもしれないと振り返る。
赤も着ないことはないけれど
なかなかグッとくる赤に出逢えない。

東西を問わず、赤は特別な立場の人や高貴な人が身につける色として
用いられている。そう!私にとっての赤のイメージはこれに近く、
言葉にするならば、〈奥深い神秘性〉。

そういえばと思い起こしたゲランのサムサラ。
これも深い赤のボトルだった。
サムサラとサンダルウッド

2013年7月15日月曜日

Lemongrass ・Aroma for well-being


Lemongrass
07/14/13 07:48:56
By: Dr. Chandra Shekhar Gupta


猛暑で厳しい日々を過ごす人にとっても
このレモングラスは
タイムリーな快適性を提供してくれる。

まずその香り。
鮮烈なレモンを感じることから
爽やかさという親しみを持てる人も多い。
そして草のグリーンでビターなインパクト、
甘いような辛いようなシャープな余韻。

今年6月に私が専門学校で指導したエアフレッシュナー制作でも
学生がブレンドしたいと希望した精油のトップが
このレモングラスだった。
結果、彼らが疲れて帰宅した空間の居心地が良くなったり
蚊が侵入してこなかったり
さわやかな気分で勉強に集中できたり…
と喜びの声がレポートにたくさん書かれていた。

こういうことは
いわゆる「病気の治療」という範疇には入らない。
少しでも
不快な状態を心地良い状態に
心身を「良い状態」すなわち"well being"にするために
「心地良く感じる香り=アロマ」を用いる手法となる。

アロマテラピー、
というと「治療」だから
嫌いなにおいでも効くから我慢して使う、
というものだと解釈されている方もいらっしゃるが
それならわざわざアロマ「芳香」という必要はないだろう。
ただ効くから使うだけなら「植物療法」と呼べばいいのだから。

そもそも「治療」とは
医師免許をもつ人にしかできない行為である。

レモングラスは
そのさわやかな香りで気分をリフレッシュさせながら
殺菌効果も感じさせてくれる。
なぜならば、
猛暑の時期、数日自宅を締め切って外出すると大抵
帰宅直後にこもった不快なにおいを感じていたが
レモングラス精油を垂らしたトレイを数カ所室内においていくと
断然空気の質が違っていた。
そして何より嬉しいのは、
蚊が嫌がるにおいであること。
夏に元気をくれるスパイシーなタイ料理にも使われる。
レモングラス精油で作ったバスソルトで入浴すると
暑さで疲れた身体が筋肉からリフレッシュするように感じる。

この記事の冒頭で紹介した
Dr. Chandra Shekhar Guptaによる英文記事には
もっと具体的にレモングラスの使われ方が書かれている。

最近では日本でも九州でレモングラス栽培が本格的に
行われている。このことは専門誌「アロマトピア」2009,5月にも詳しく記されている。
高温多湿の猛暑を乗り越えるためにも
この植物の香りはさらに親しまれ、活用されていくことだろう。

2012年12月30日日曜日

2012年の8展に感謝をこめて

ブログを書き始めてよくわかったことは
自分の興味の対象でした。

美術鑑賞の楽しさは
22才でパリに滞在した頃に美術館巡りに没頭した日々の
かけがえのない記憶です。
自分とは違う時間、場所で生きた人が
何をどう感じたのかを、描かれた表現を通して感じる面白さ。

さて。
26日、27日と今年の8冊、8香を記しました。
本日30日は今年の8展を
記事中に綴った私の忘れ難いフレーズとともに
記したいと思います。


1.
「線の旅」に感じたもの・「難波田史男の15年」展

内面に浮かんだなにものかを追いかけていくうち
線は音符になり、言葉になり、カタチになり。
見る人の記憶という背景の中に像を写す。


2.
ペイズリー文様に感じる・人が大切にしたもの

人は、人にとって役にたつもの、大切なものを忘れないように柄にして目に焼き付け、後世にも身に付けるもののヴィジュアルとして伝えたかったのではないかとふと感じる時間だった。


3.
18 visual works from 12 kinds of aromaー 文化学園大学 けやき祭にて

I'm a lecturer of "Fashion and Aroma" , the name of subject,
in Faculty of Liberal Arts and Sciences at this university.
In "Fashion and Aroma", each student tries to design visual work
inspired by each 1 aroma of natural plants.


4.
セザンヌのパレットー セザンヌ パリとプロヴァンス展より

初期は人も風景の一部ととらえていたというが、年月を経て、妻や彼の晩年の身の回りの世話をしてくれたという庭師への心の距離感が絵に表れている。


5.
パリに学んだ二人の日本人画家

美術史には詳しくはないが、この二名の画家の名前と印象は私の記憶に刻まれたと思う。人生は長いようで短い。できるものならば、限られた時間はこのような出逢いで満たしたい。


6.
日本初のレーピン展 ・"Ilya Repin master works from The State Tretyakov Gallery"


「…気がつくと美術はいつもそばにある、…」というような言葉をレーピンが残していたが、この類い稀な感性と技術を持つ画家にとってはまさしく生涯のほとんどがそう感じられたはず。


7.
「薔薇は美しく散る」・40年前の出逢い

その絵は色がないほうが印象的であり、かつ絵そのものよりも、登場人物と空間の境である線の流れ、セリフの表現に目が注がれる。この表現は黒と白の漫画独特の表現。


8.
優れた美術品収集こそが一族の栄誉…『リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝

こうした展覧会を眺める楽しさのひとつに
描かれた当時の建築、装飾、服飾などの様式を鑑賞することがあります。

2012年11月21日水曜日

美濃和紙で「聞く」・花香の囁き

私の講義の中では
さまざまな単一天然香料の香りを「聞く」体験を提供しています。

毎年、その終盤で登場するのが花の香り。
花は植物の生殖のための戦略のかたち・色・香りであり
その香りはきわめて複雑です。

花が咲いているときの自然な状態の香りと違い
精油など
香り成分のみが凝縮されたものは
そのままで香りを聞こうとしても
慣れていない人にとっては、複雑な芳香成分が一気に押し寄せ
強力なものとしてのインパクトに一旦麻痺させられるケース…
あるいはその反動で
数ある複雑な成分の中で記憶にひっかかる特定成分のみが
クローズアップされてしまい
花香全体のイメージが描けない、と訴えられるケースに
よく遭遇します。

「香り」とは
多種の有機化合物である香気成分の集合体が
時間経過に伴う静かなるハーモニーを奏でる音楽のようなもの。
その繊細な存在を全体としてとらえるには
「聞き方」が極めて大切であると私は思います。

昨日の講義では
調香師にとってもアロマセラピストにとっても重要な花香
ネロリ(ビターオレンジ)精油と
ローズオットー(ダマスクローズ)を鑑賞。

香りを聞いていただく媒体は紙。
コチラ にてご紹介の岐阜、美濃にて
サンプルとしていただいた美濃和紙です。
うっすらとした紙ですが、非常に丈夫。自然の透かしが素敵です。

小さくカットしたその和紙に
コチラ の方法にて香りを移しておきました。

結果。
精油原液を直接染み込ませた紙を聞いていただくよりも
花本来のふんわりとした優雅さや
フルーティーな花香のトップノートのみずみずしさが
例年よりも多くの学生に伝えることができたようです。

2012年9月24日月曜日

香りの記憶がくれた贈り物

医療資格を目指す専門学校で、一年生に「自然科学概論」という名の講義を担当して三年目。

内容は、天然植物精油の香りを扱うもの。アロマテラピーの考え方と活用を実習を通して学び、嗅覚を通し対象の植物だけではなく、自分という人間の感覚と身体、他人の感覚と身体という「自然」を体感する機会を提供する。

半期20回の講義。体感と知識の提供に全力を注いできた。医療に携わる人がまず興味をもつべきは人間という複雑な自然。その入り口に立った学生たちのガイドが私の役割でもある。

毎年アロマテラピー検定受験を目指し、幅広く医療の可能性を考えたいという探究心旺盛な学生がいると思えば、勉強することそのものに意欲を見出せていない学生もいる。どちらも私にとっては大切な対象。レベルは出来るだけ高みを目指しながらも、感受性の異なる一人ひとりの学生の感じ方を真摯に受け止める。

今日は今年度前期最後の講義。一年生がいなくなった教室にひとり残り仕事をしていると、昨年、一昨年の教え子たちが次々と立ち寄り、笑顔で近況を話してくれる。講義で好きだった香りのことも。

そんな彼らの笑顔は、香りを媒介に彼らと共に過ごした時間からの贈り物。