2010年10月30日土曜日

音とリズムの空気感


晩秋を思わせる午後。雨音のBGM。

香りと同じく、心地良い空間をつくるのは音。クラッシック音楽好きの両親のもとで育った私はごく自然にピアノの音が好きになりました。学生時代の楽しみもバンド活動。異なる音源をもつ仲間と、同じ空間で音が絶妙に調和する瞬間を共有することがたまらなく快感でした。身を置くならば芳香の中にと思うのと同じく、その時々の心にフィットした音に包まれることを望んでいます。

いわゆる言葉も、私は音楽のように感じています。幼い頃、自分の地域で話されていた方言がどうしても好きになれず、外国語歌詞の曲に魅かれ、そのような言葉を話す生活がしたいと子供心に思ったことも憶えています。以後母国語をなるべく聴きやすく心地良い音の流れをもって話すことを心がけるようにもなりました。文章を書くときも、たとえ声に出して読まれなくても、心の中で音楽のように伝わることを理想にしているかもしれません。

服飾史家である中野香織さんのWEBトップページに記された一節に共感しました。イギリスの詩人、Samuel Johnson の言葉です。
"Language is the dress of thought."「ことばは思考の衣装である」

心地良い韻で綴られた詩を憶えてしまうように、抜群の間をもって楽しく語り合えた人のことも忘れられません。音とリズム。それらはまるで香りのように、再び出会うと鮮明に記憶によみがえります。幸せな空気感の源を大切に。


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2010年10月29日金曜日

空間を香らせるエレガンス

芳香浴、という言葉があります。これは、心地良く感じられる芳しい香りの漂う空間の中に身を置いていることを示します。見えないけれど、芳香を浴びている、そんな感じでしょうか。

一枚の扉を開けて新たな空間に入るとき、そこには目に見えない空気が流れます。ヒトの嗅覚はそれまでに感知していたものと違う匂いに関しては極めて敏感ですから、ほんのささやかであっても、扉の前にはなかったものを瞬時に感じ取ることでしょう。本来、生命をまもるために備わっているこの感覚を、さりげない思いやりの感受に生かしたいものです。そう、エントランスをほのかに香らせるのです。掃除や換気を行った上で、たとえばルームフレグランスをひとふきする、あるいは事前に香りを焚き来客時にはその残り香のみが漂うようにするなど…。特に個人宅などの生活空間の場合、その生活のあるがままを匂いで感知させてしまうよりも、
「特別な方にお越しいただきました。ようこそ。嬉しく思います」
そのような歓待の心が第一印象として伝えられるほうがずっと素敵です。

香り方はあくまでも優しくさりげなく。確かに感知できるものの、いつしかフェイドアウトしていく程度がよいでしょう。数分経てば香りがあったことすらわすれて、ただなんとなく心地良い場所に来たのだと思っていただければそれで十分ではないかと思います。手段は「香らせた」本人だけの秘密のままで。

2010年10月26日火曜日

ビターな熱さ・ジュニパー

初めてこの植物の精油の香りに出会ったのは真冬の午後。
嗅いだ瞬間、身体の奥が温まったような感触。好感と共に再度香りを確かめると、ほとんど黒に近い深い緑が見えたように感じ、つづいて男性とも女性ともつかない知的な瞳の人物がイメージできました。ビターな熱さとでもいうか、静かな厳しさのような魅力を感じて、きっとこれは私を助けてくれる香りになるだろうと直観して入手したのです。

以上は、この植物について詳しく知識を得る前に私が感じ取ったことです。私は、香りとの出会いにおけるこうした感受の記憶を大切にしています。

名前の音の響きにも魅かれ、語源について書かれている文献を探し、ガブリエル・モージェイという、東洋医学とアロマテラピーに精通した専門家の著書に辿り付きました。"juniper"という英語名は、ラテン語の"juniores"、すなわち"young berries"という意味を持つ言葉に由来するとのこと。一方、フランス語で"genièvre" と呼ばれ、その由来はケルト語の"gen"、すなわち"small bush" を意味する言葉と、"plus" 、すなわち "hot and bitter"を意味する言葉にあるということでした。そして、この"gen"から、ginという単語
、ジュニパーベリーで香りづけされたお酒を示す名称が生まれたと記されていました。

アロマテラピーの講義中、ジュニパーの精油の香りを体験してもらったところ、一人の学生が心地よさそうな表情を見せました。彼はお酒の中で特にジンが大好きとのこと。一方で顔を歪める学生もいました。何か強い化学的な薬のように感じると。ジュニパーという植物そのものの自然な香り方ではなく、揮発性の芳香成分だけを人為的に抽出した精油なのですから、嗅ぎなれていない人が強すぎると感じることも勿論あります。水蒸気蒸留法によって抽出された精油というものの実体は、水にほとんど溶けないことから油という文字で表現されてはいますがその実体は、多種多様な有機化合物の集合体です。植物が、水と二酸化炭素と光から行う光合成にはじまり、生き抜くために体内で作り出したCやHやO等からできた成分と考えると精油の香りが単純なわけはありません。最近の講義では、精油だけではなくドライハーブなど自然の植物の状態に近い香りも合わせて体感してもらうようにしています。ジュニパーベリーのドライハーブは、球果をつぶすと香りを感じることができます。

ヒノキ科のこの植物は、北欧と南西アジア、北アメリカ等が原産とされ、荒野や山の斜面、針葉樹に育つということで厳しい環境が想像できます。球果の遺物が欧州の湖畔の先史時代の住居跡から見つかったという報告もあります。その芳香と殺菌作用により古代から伝染病予防に使われたという記録があることからも、この植物が人を助けていたことは間違いなさそうです。

私の知人に多忙で疲労困憊するまで働いてしまう男性がいますが、彼はこの香りを好みます。徹夜明けに仮眠したあと、この香りのお風呂に入ったり、精油を希釈したトリートメントオイルで足をほぐすと非常に楽になるといっていました。私も同感です。疲れたときに楽にしてくれたもののことは忘れません。そして疲れていないときでもこの香りから
安らぎを感じるようになっています。ビターな熱さ。回復を想起させるイメージです。

参考文献

"AROMATHERAPY FOR HEARING the SPIRIT"
GABRIEL MOJAY
1997 Gaia Books Limited,London
Healing Arts Press

2000年に前田久仁子訳の日本語版
「スピリットとアロマテラピー」(フレグランスジャーナル社)も刊行

2010年10月25日月曜日

ブログスタートしてみました

ツイッターを始めて5ヵ月。140文字のスケール感とテンポは呟やきやすいものの、もっとまとまった文量で伝えたいと感じるようになり、SAWAROMAブログをスタートさせてみました。
アロマセラピストと名乗ると、アロマテラピーの専門ですかとよくきかれますが、私の定義する「アロマ」というのは、人をより良い状態に導く芳香、と広い意味での「香り」を示します。
「テラピー」というと、治療という意味に直訳されますが、これも私は「問題解決」と広義でとらえています。

アロマテラピーに出逢う遥か前、幼少時から香水は私の密やかな楽しみであり、表現手段でした。
大学ではフランス語を専攻し、在学中のパリでの生活体験から最初の就職先をデザインの会社と志した私は、プランナー、ライター、編集者、広報、アロマトリートメント施術者、講師など様々な仕事を経て今日を生きています。そうした視点から感じるあれこれを綴っていきたいと思います。