2013年5月30日木曜日

ボルドー発・ヴィノテラピーとフルール ド ヴィーニュの香り

フランスで創刊80周年を迎えた美容雑誌"VOTRE BEAUTÉ"。
美容・化粧品情報に関して20年以上前から信頼している媒体です。

今日も興味深いニュースを発見。
クイズに答えて応募すると、"CAUDALIE"のオー・フレッシュ・フィーグ・ド・ヴィーニュが抽選で当たる、というコチラの記事

フィーグ。イチジクのこと。
この味も香りも大好きな私は、さぞ心地よい香りだろうと思い
この記事にリンクが貼られていたブランド"CAUDALIE"のWebサイトに飛び
ついついおもしろいのでフランス語のまま読みふけってしまいました。

ヴィーニュ、とはブドウのことですから
ボルドー発祥の事実はすぐに納得。

ブドウのポリフェノールによる抗酸化作用は知ってはいましたが
ただワインとして楽しむだけではもったいない
ということで
ブドウの茎から特別な成分を抽出して美容に生かすなんて
さすが農業国かつ美容先進国フランスです。

このブランド。
すでに日本でも知られているのでは?と
「ブドウ」「 美容 」「フランス」の3語で検索したらやはり。
ブランド名『コーダリー』がカタカナで見つかります。
ちゃんと日本語でも概要がわかるようになっていました。

しかし…
フランス人というのはすぐに
◯◯テラピー、と造語する傾向にありますね。
アロマテラピー、
タラソテラピー、
そして
ヴィノテラピー(コーダリー社により商標登録されているそうです)。

いずれも
イコール医療かといえば、
医師だけの領域にとどまらず
「より心地よく、より良い状態にする」美容やリラクセーションにも
つながっているようです。

コーダリーのトリートメントが受けられるスパも大人気だとか。
抜群のロケーションでしょう。

「テラピー」の意味がだんだん広範囲に拡がっています。
私は「問題解決」とか「知恵」なんていうふうにとらえたいと
思っているくらいです。

このブランドのスキンケア商品やフレグランスには
フルール ド ヴィーニュ(ブドウの花)と呼ばれる香りが使われているそうで
植物由来の成分のみから花のイメージを再現して調合されたのだとか。
フルール ド ヴィーニュもコーダリー社により商標登録されています。
(さすが!)
このちいさな白い花が咲くのは6~7月の一週間のみとのこと。

地域の特性が生かされた美容の好例として記憶に残りそうです。

18 visual works from 8 kinds of aroma ー 文化学園大学 けやき祭にて

文化学園大学 小平キャンパスにて毎年6月第1土曜に開催される
けやき祭 。今年は6月1日に開催されます。

昨年のようすは
18 visual works from 12 kinds of aromaー 文化学園大学 けやき祭にて

今年は、学内教科展示室において、「ファッションとアロマ」2012年度学生課題作品から8種類の香りのヴィジュアル作品が展示されます。

オレンジスイート
レモングラス
フランキンセンス
ラヴェンダー
ローズオットー
ジャスミン
イランイラン
サンダルウッド

違う背景をもつ人それぞれ
香りから感じ取るイメージが違うということが
目で改めて確認できます。

香りという抽象的なものを視覚表現する経験が
目に見えない時代の空気感を服に表現していこうとする
かれらのクリエイティビティに反映されていく…
そのような期待感を毎年実感しています。

ミントグリーンのボトルから

ミントグリーン。
色も香りも
イメージしただけで
クールダウンできる気がする。

ミントの葉は濃い緑。
ミントの香りからはみずみずしいクールなひんやり感とともにかすかな甘い余韻。

そんな色を見つけた。

Kenzo Madly Kenzo! Kiss ‘n Fly
05/26/13 11:17:19
By: Sanja Pekić


このマドリー。
最初はピンクのボトルでデビューしていた。香り自体も…なかなか身体の深い部分にグッと響く重低音のようで印象的だった。

今回の夏タイプの香りは
グレープフルーツのトップノートやミドルのフリージアから想像して。やや軽やかに清涼感が増しているのかもしれない。

とはいえ、個人的にはこの香りにはこの色が似合うような気がする。香りと色とのコントラストのドラマティックさは重要。

ミントの香料なんて
実際には使われていなくても
清涼感というイメージの風が
一瞬でも流れたら
その上でこそ
静かに秘められたパッションが魅力となって引き立つのだから。














2013年5月29日水曜日

大場秀章著『バラの誕生』を読む・2


大場秀章著『バラの誕生』を読む・1に続き
ひととおり読んだ上で改めて
特に印象に残った三つのことを記しておきたい。
*~*は私の印象の背景となった
本の記述をまとめたものである。


第一に
著者、大場氏の論じ方から
一貫して自然科学研究者としての謙虚で冷静な「事実」の見方を感じた。
わかっていることと、わかっていないことを明快に示すことをスタートラインとしなければ、それらの情報を材料としてどのように考えたかという筋道を示すことはできない。筋道がなければ第三者に納得のいく説明はできない。

第二に
美を発見する人間の感性が導く
影響力の重要性を感じた。
今回の場合はバラという生物種への影響力である。
数ある植物、花々の中で
人はバラに特別な価値を感じとり、特別な意味をもたせた。


そうした関心が遺された文献から推察できるのは
古代ギリシア・ローマ時代からであるという。
紀元前7世紀、エーゲ海のレスボス島に住んでいた
ギリシアの女流詩人サッフォーはバラを花の女王と呼び
バラについてのたくさんの詩をつくっているとのこと。
ローマ時代にはバラはさらに
高貴な花というイメージに加え
熱情、献身、秘密のシンボルと認められていったという。
そうした関心は、「より多く」いつでも欲しい時期に求められる要因となり
適切な場所での栽培へと導かれる。
さらに、「より強く」「より美しく」という願望がついには
19世紀の人口交配による初のハイブリッド・ティー・ローズに
始まるモダンローズ時代へと繋がる。


第三に
香料バラとして現在も世界的に名高く
栽培技術、香料製造技術ともに発展し続けてきた
ダマスクローズの歴史の古さである。


どうやら
古代ギリシア、紀元前の時代に植物学の祖と呼ばれた
テオフラストスの記述に登場する
「最も甘い香りのするバラ」
は大場氏によると
現在「ダマスクローズ」と呼ばれるバラであるらしい。


もし本当にそうであるとしたら。
少なくともこのバラは人との関わりにおいて
二千数百年の歴史を持っていることになる。
いまもその名で呼ばれ存在するのみならず
多くの新種の親でもある。

きっかけは
必要に迫られてのことだったかもしれない。
遠くからでもハッキリと伝わる強い芳香から
古代の人が特別な何かを感じていなければ
現代に生きる私はダマスクローズの香りには逢えなかったであろうし
これを原料とした香水にも出逢えなかっただろう。

さて
この本は一読した位では
到底全てを把握できるレヴェルの本ではないと思う。
私が触れた部分はほんの一部であり

バラの植物学
バラの園芸化の歴史
オールド・ガーデン・ローズ
モダーン・ガーデン・ローズ
バラの花譜
世界の野生バラ
………

豊富な内容が連なる。

まずは興味ある視点から一読すればよいと思った。
最初に私はバラの誕生の根拠と、香りについての関心度の歴史を追った。
これからもバラに想いを馳せるたびに開きたい本である。


2013年5月27日月曜日

大場秀章著『バラの誕生』を読む・1

バラの季節。

ブルガリアでは5月後半から6月初頭にかけて
香料バラとして世界的に名高いダマスクローズ収穫の最盛期を迎える。

ダマスクローズ。
紀元前の昔から存在したといわれ
ギリシャ・ローマ文化においても
その香りから高貴なイメージとして
広く愛されたオールドローズの一つである。

私もこの香りに心を動かされ
2009年以来
ブランド『パレチカ』の監修者としてバラについてそれまで以上に学び始めた。

ようやく入手できたこの本。
著者は大場秀章氏。
東京大学名誉教授、リンネ学会(ロンドン)フェロー、NPO栽培植物分類名称研究所理事長であり、植物分類学、自然史科学、植物文化史などを専門分野とされる理学博士。日本におけるシーボルト研究の第一人者ともいわれる。
1997年発刊のこの本はすでに絶版になっており、入手には時間を要した。




国際香りと文化の会 会報誌 VENUS VOL.22の特集テーマはバラであり、その中に私も論文を寄稿している。
巻頭の大場氏と中村祥二氏(国際香りと文化の会会長)との対談『バラの文化史』が花と人との関わりの歴史から、バラと人との関わりまで非常に興味深く記されていて、その中で紹介されていた上記の本を是非読んでみたいと思っていた。

さてこの本を今週はゆっくりと読みすすめていきたい。

本日はその1。
以下の…から…で挟まれた部分は
読みながら私が考え、つぶやいたメモである。

第一章には、『クノッソス宮殿の謎』と題して
4000年近く前に描かれた絵の中の花が
バラかどうかという考察が展開される。
これまでの植物学者や考古学者の見解を比較検討し
それがほんとうにバラなのかという問題提起から
バラという名前がつけられる前の
単なる花の一つとして認識されていた可能性を大場氏は示唆する。


数ある花の中から人に「バラ」と名付けられ
特別なイメージとともに必要とされるきっかけがなければ
原種を中心とするオールドローズだけでなく
人口交配技術によるハイブリッドなモダンローズとともに
これほど人によって増やされ、愛されてきた歴史はなかっただろう。

写真技術のない時代
ある生物の始まりは少なくともいつからなのかを探るには
描かれた絵や呼称の文字による記録
もしくは化石の存在が手がかりとなる。

実体が存在した時点を「誕生」とするか?
その実体が他と明らかに異なる特徴を持つものとして名付けられ
バラという呼称が文字記録に現れ始めた時点を「誕生」とするか?



第二章『ギリシアとバラ』では
バラの芳香を明らかに意識していたギリシア人のことが綴られる。
ギリシアで紀元前1200年ごろと推定される板書が発見され
そこにミケーネ人の文字で書かれた記述に
紀元前12世紀にはバラが芳香のある油作りに利用されていたことを示す
重要な証拠があると指摘し、大場氏は次のように続けている。
「ギリシア時代のバラ愛好の焦点は花のかたちや色彩よりも
はじめはバラのもつ芳香にあったことがわかる。」


気がつけば「バラ」と呼ばれるようになっていた花を
現代の私たちは愛でている。

名付けとともに
必要とされ大切にされる歴史の始まりのきっかけに
その芳香が重要な役割を果たしていたとするなら
私のダマスクローズの香りとの出逢いの感動も
改めて深く納得できると思った。


2013年5月26日日曜日

全方位へのびのびと・スイートマージョラムの優雅な曲線

窓辺の一輪挿しのスイートマージョラム。
かすかにスパイシーでほのかにフローラルな香りが
緑の小さな葉から漂い
なごみます。




一週間前に講義で使った後
肉料理にも使いましたが
葉の開き方が愛らしく丈夫そうな茎をもったものは
水に挿しておいたのです。




数日後。
有機的なその曲線はゆるやかに上へと伸び
水の中では根を張りはじめました。
なんと愛らしい。

学名 Origanum majorana
Origanum = refers to a plant that stretches and grows in all directions,
majorana = the large form
("375 ESSENTIAL OILS AND HYDROSOLS"/ JEANNE ROSE)

ラテン語の学名が示す意味はまさに上記英語そのもの、
「全方位に向けて伸び成長する」大きくなる植物。

まさに一輪挿しで
この植物の成長力を日々実感。

今年も
スイートマージョラム・スパイシーな葉と可憐な花で撮影できたような花に出逢えますように。


2013年5月24日金曜日

花はなぜ香るのか…静かなる巧みなコミュニケーションの魅力

先日、このような質問を受けました。
「柑橘果皮も、花も、植物は自分のために香りを発散させているのであって
ヒトのためにではない…ヒトは勝手にそれを利用しているんですよね」

「確かにある意味そうですね、」
と同意した後に私は
「ただ、薔薇の花などはヒトの手を借りなければこれほど多くの種類には増えなかったでしょうし、…ヒトは花にその香りや姿の魅力でもって多様化の手伝いをさせられているのかもしれないと花の研究者の方とお話したことがあります」
と続けました。

その花の研究者とは
2005年秋に開館した香りの図書館 での2006年6月に行われたセミナーで花の香りについてご講演された渡辺修治先生(当時 静岡大学創造科学技術大学院教授)と、半田高先生(当時 筑波大学生命環境科学研究科助教授)。

花がいかに
多種多様な香気成分を受粉の媒介となってくれる虫や鳥などの生態・行動に合せて発散するか。
その発散が効果的となるよう、空気との接触面積が大きくなるよう円錐形の花弁となっているか。
一方で、受粉の妨げになるようなカビや菌を寄せ付けない成分で防衛するか。
香気成分を作り出す指令は遺伝子が行うのだそうです。

先生方のお話から
子孫を残すために確実に受粉できるよう
その香り成分と外観によって巧みに周囲の生物を誘引したり、忌避したりする、
この花というものの静かなるコミュニケーション能力に深く感じ入ったことを思い起こしました。

翻ってヒトは
なぜ自らを香らせるのでしょうか。
改めて再考してみました。

異性を魅きつけるため、
と簡単に言われがちですが、
ただ魅きつければよいというものではないでしょう。

花は魅きつける相手を選びます。
自分の遺伝子情報が選ぶ確実な受粉の協力者のみを呼ぶのです。
「誰にでも愛される」
なんてことは考えないほうがいいかもしれません。

これは
生きものの遺伝子レヴェルの深いコミュニケーションに関わっています。
自分の遺伝子が結合したらより強い種が生まれる可能性へ
導かれているとしたら…
唯一無二の自分を表す、
自分にとって最も自然な笑顔でいられる
(花であれば咲いていられる)
香りをほのかに漂わせたいものです。

植物から得られる感動は日々続きます。
その姿からも香りからも
ヒトは心地よさとともに
生きものとしての知恵を感じられるはずです。