2013年5月27日月曜日

大場秀章著『バラの誕生』を読む・1

バラの季節。

ブルガリアでは5月後半から6月初頭にかけて
香料バラとして世界的に名高いダマスクローズ収穫の最盛期を迎える。

ダマスクローズ。
紀元前の昔から存在したといわれ
ギリシャ・ローマ文化においても
その香りから高貴なイメージとして
広く愛されたオールドローズの一つである。

私もこの香りに心を動かされ
2009年以来
ブランド『パレチカ』の監修者としてバラについてそれまで以上に学び始めた。

ようやく入手できたこの本。
著者は大場秀章氏。
東京大学名誉教授、リンネ学会(ロンドン)フェロー、NPO栽培植物分類名称研究所理事長であり、植物分類学、自然史科学、植物文化史などを専門分野とされる理学博士。日本におけるシーボルト研究の第一人者ともいわれる。
1997年発刊のこの本はすでに絶版になっており、入手には時間を要した。




国際香りと文化の会 会報誌 VENUS VOL.22の特集テーマはバラであり、その中に私も論文を寄稿している。
巻頭の大場氏と中村祥二氏(国際香りと文化の会会長)との対談『バラの文化史』が花と人との関わりの歴史から、バラと人との関わりまで非常に興味深く記されていて、その中で紹介されていた上記の本を是非読んでみたいと思っていた。

さてこの本を今週はゆっくりと読みすすめていきたい。

本日はその1。
以下の…から…で挟まれた部分は
読みながら私が考え、つぶやいたメモである。

第一章には、『クノッソス宮殿の謎』と題して
4000年近く前に描かれた絵の中の花が
バラかどうかという考察が展開される。
これまでの植物学者や考古学者の見解を比較検討し
それがほんとうにバラなのかという問題提起から
バラという名前がつけられる前の
単なる花の一つとして認識されていた可能性を大場氏は示唆する。


数ある花の中から人に「バラ」と名付けられ
特別なイメージとともに必要とされるきっかけがなければ
原種を中心とするオールドローズだけでなく
人口交配技術によるハイブリッドなモダンローズとともに
これほど人によって増やされ、愛されてきた歴史はなかっただろう。

写真技術のない時代
ある生物の始まりは少なくともいつからなのかを探るには
描かれた絵や呼称の文字による記録
もしくは化石の存在が手がかりとなる。

実体が存在した時点を「誕生」とするか?
その実体が他と明らかに異なる特徴を持つものとして名付けられ
バラという呼称が文字記録に現れ始めた時点を「誕生」とするか?



第二章『ギリシアとバラ』では
バラの芳香を明らかに意識していたギリシア人のことが綴られる。
ギリシアで紀元前1200年ごろと推定される板書が発見され
そこにミケーネ人の文字で書かれた記述に
紀元前12世紀にはバラが芳香のある油作りに利用されていたことを示す
重要な証拠があると指摘し、大場氏は次のように続けている。
「ギリシア時代のバラ愛好の焦点は花のかたちや色彩よりも
はじめはバラのもつ芳香にあったことがわかる。」


気がつけば「バラ」と呼ばれるようになっていた花を
現代の私たちは愛でている。

名付けとともに
必要とされ大切にされる歴史の始まりのきっかけに
その芳香が重要な役割を果たしていたとするなら
私のダマスクローズの香りとの出逢いの感動も
改めて深く納得できると思った。


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