吉本隆明の著書で「匂いを讀む」。
これは、1990年から1996年の間、断続的に香りの専門誌"PARFUM"
に連載された吉本氏の文章と、香水評論家でありこの雑誌の編集長である平田幸子氏と吉本氏との対談がまとめられたもので、1999年に刊行された。
この本は、「匂ひ」という古語について吉本氏が3冊の古語辞典を引用し解説する文章で始まる。さらに日本文学史上、この言葉の使われ方が変化した時期があったことについて「古今集の匂い」の章の冒頭にて次のように記されている。
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『万葉集』と『古今和歌集』のちがいは?こうたずねられたら、ここではただひとつ「にほひ」とか「香り」という言葉が、光や色に染みた雰囲気の意味と、嗅覚に感じる匂いの意味とに分かれる以前の歌集と、分かれた以後の歌集のちがいだ、そう答えるのがいちばんいい気がする。
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さらに著書は、日本文学の中における「匂い」の表現について、源氏物語をその表現の卓越したものの筆頭に挙げ、さらには近代以降、夏目漱石、芥川龍之介らの小説中にみられる細やかな描写を多く引用。はっとするほどリアルに、匂い漂う空気が想像できるそれらの表現に改めて、読書の中で、言葉から「匂いを讀む」面白さを思い起こす。
「現代における匂いとは何か」と題された吉本氏と平田氏の対談もリアルな空気に満ちている。吉本氏が日頃から人が身につける香水について考えていることをズバリ平田氏に問いかけるところから始まる。日頃それぞれのご専門を深く探求されている姿勢が、互いに一方の専門分野という未知への好奇心にあふれて際立つ。この対談も何度読み返しても面白い。
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