2012年2月29日水曜日

春色を想う…ナルシソ・ロドリゲスとリナーリの新しい香り

如月も最終日。
よりによって29日という有難い日に雪とは。

ますます春が待ち遠しい。

ここ数日の新作フレグランス発売のニュースから
ますます春が待ち遠しくなるものをご紹介。

まずは、ナルシソ・ロドリゲスの新作ニュース

特にオードパルファムのパッケージの色。
まさに、枕草子の「春はあけぼの…紫だちたる…」の世界。
デリケートな春の空気感が
淡い色彩のグラデーションで感じられる。

もうひとつ。
ドイツのリナーリの新作 。桜。日本とヨーロッパの桜感覚がどうコラボレートされてつくられたのか、その香りには興味あり。本物はいつ開花することでしょう…

先週世界らん展を見ていた時につくづく感じたが、日本人の比較的高年齢の人たちは、香りも色も「強くハッキリとしている」ことをあまり好まない様子。洋蘭の自然の花の香りですら、そんなコメントをつぶやいている人が多かった。わかるかわからないかくらいのはかない香り方とか、淡い色合いをみて上品だとかどうとか。なにごとも周囲とのコントラストによって上品さや美は生まれるものだと思うので、ただ淡ければよいというものではないとは思いますが…。


2012年2月28日火曜日

ペイズリー文様に感じる・人が大切にしたもの

1月にエトロの新フレグランスとともにコチラでご紹介していた展覧会に行ってみた。

ペイズリーに詳しい知識のない私がこの文様に深い興味を持ったのは20代のとき。カシミア、ではないがウールの大判ショールを上半身に纏っての外出中。電車から降りてホームを歩いていると一人のマダム(私より明らかに年上の綺麗な女性だったのでこの呼称が相応しい)に呼び止められてこう言われた。
「とっても素敵な香りをまとっていらっしゃいますね。もしよろしかったら何という名前の香水をおつかいでしょうか、教えていただけませんか。」
ちょっと戸惑う。非常にシンプルなティーローズの香りをショールに吹き付けていただけなのに。今は日本では見かけないが当時は比較的容易に入手できるフレグランスだった。そんなに素敵??きっとこのペイズリー柄の視覚との相乗効果が魔法のように働いたのでは?…

以来、ペイズリー柄のこのショールを宝物のように大切にしている。

カシミアショールがインドからヨーロッパに輸出されたころ、虫喰いの害からショールをまもるために、エキゾチックな香りのパチュリーの葉が一緒に挟まれたというのは有名。パチュリーの香りはオリエンタルな高級衣料のサインともなり、カシミアでもないショールにフランス人がこの香りをつけて高く売ったという話も聴いたことがあった。必ずしもペイズリー柄かどうかはわからないけれど。

さて、展覧会。
ペイズリー文様 発生と展開(文化学園服飾博物館)

まず、「ペイズリー」という言葉は発祥地インドとは関係なく、スコットランドの地名であったことに驚く。ちなみに、「バンダナ」はインド・グジャラートで「絞り染め」を意味する「バンダーニー」に由来するのだという。
ペイズリー文様とは、先端が片方に曲がったしずく形の文様を指す。起源は、インド北部のカシミール地方の可憐な花文様。徐々に様式化し、さらに18世紀に入ってインドの染織品がヨーロッパや周辺地域にもたらされたことで、それぞれの地域に広がる。展示では、起源となったインドの花文様から、ヨーロッパで流行した細長く複雑なデザイン、アジア・アフリカ各地域で取り入れられて独自の解釈が加わったものまで、ペイズリー文様の変遷と地域的な広がりが見られる。

ある地域では、花や葉ではなく、唐辛子がしずく形のモチーフになっていたとされ、疫病が流行したときに唐辛子が役立ったから、と大切な頭部に身につける帽子の柄にされていた。

また、アフリカ地域では、豊穣のしるしとしてナッツや木の実がしずく形のモチーフとして大胆に描かれていた。

人は、人にとって役にたつもの、大切なものを忘れないように柄にして目に焼き付け、後世にも身に付けるもののヴィジュアルとして伝えたかったのではないかとふと感じる時間だった。

展覧会は3/14まで。



2012年2月26日日曜日

「線の旅」に感じたもの・「難波田史男の15年」展

現実には見えていないのに
見たこともないのに
見えるように表現したくなること。

私には小さな頃に何度かあった。
それが何なのかを確認したくて。

夢をみたとき。
こわい、と思ったとき。
未来の自分を想像したとき。
世界中の物語を読んだ時。

10代のころ、私はピアノと声楽に親しんだ。
音、リズム、残響から風景や香りを想像し
メロディのリズムに合わせて文字を描くことも好きだった。
私にとって、文字は絵のように描くもの。
美術の課題でイニシャルのSをモチーフに曲線と色で画面構成をしたら
先生がこっそりなにかのコンクールに出していて賞状をもらった。

大人になってから
焼きものの絵付け体験をする機会があり
周りがみな花柄やハートやら具象を描く中
私は迷わず、線だけでその時の気持ちを描いた。
曲線の連環。

以上の記憶が蘇り、何度も意識に上るようになったのは
難波田史男の15年 を見てからこの数週間のこと。

難波田史男。
彼のことは何も知らなかった。
一度チラリと作品を見たとき
音やリズムを感じて忘れられなくなった。

彼の作品をオペラシティ・アートギャラリーで鑑賞した。
やっぱり音楽を感じた。特に1960年代の作品に。
あるときはピアノ。
あるときはメロディにはならない原音がリズムとともに。

線だけで、見える世界がつくられていた。
線と色で、複雑な言葉のさざめきが感じられたこともあった。
ますます忘れられなくなり、図録を買った。

なぜか「道化師の蝶」を読んでしばらくすると、あの図録、と思い起こし、難波田史男の作品や書き残した日記の言葉を今日初めて読んだ。

その日記の中のこんな言葉が強く響いたので書き出しておく。

「私が点を打つと、私の意識は上下、左右に働きだします。音楽の繊細な旋律の中を変化してゆく音のような形象を追いながら、私は線の旅に出ます。[作者](『芸術生活』1969年7月号、第七画廊での個展告知欄に掲載した短文より)」
…東京オペラシティ アートギャラリー展覧会資料第50号 難波田史男の15年 p234

線の旅。

その旅はこんな感じなのだろうか。
内面に浮かんだなにものかを追いかけていくうち
線は音符になり、言葉になり、カタチになり。
見る人の記憶という背景の中に像を写す。

3月になったら、また観にいこうと思う。



「旅」快適ポイント8。うち2つは香り。

昨日の日経新聞オリコミ、「NIKKEIプラス1」の特集は
「旅を快適にしてくれるグッズ」。

ということで私はタイトルだけを見て
まずは自分ならばどんな状態が快適と思うか書き出してみようと思ったものの
「旅。旅?これはどこまでの意味をしめす?」としばし考えこむ。

泊まらなくても自宅を離れて普段行かないところに行くことも含めて?
たとえ遠くても、何度も繰り返し訪れているところへは「旅」とは言わない?

などと自問しながら「旅」の条件としては、

非日常性(自宅、お馴染みの場所を離れての経験であること)
不確定性(未体験ゆえに予測不可能なことが起こりうる確率が高い)

この二つが含まれると想定してみる。

1,移動手段は様々あれど、動きやすく寒暖調節可能な服装であること。
2,目的地での靴を含めた服装がシワにならずコンパクトで軽く持って行けること。
3,服装の一部として違和感のない、貴重品が入れられるミニバッグを斜め掛け。
4,メインバッグは軽く容量は自在変化可能。鍵つき。手にも肩にもタイプ。
5,携帯用の「身につける香り」(アトマイザーまたはソリッドパフューム)。
6,リラクシングアロマスプレー(「室内香」または「嗅ぐための香り」)
7,お金はコイン多めコインパースに入れて。すぐに飲み物調達するためにも。
8,どっと疲労したときのための蜂蜜キャンディ数個。

…挙げはじめたらキリがない。
でも上の8ポイントは、日帰りだろうが長期の海外旅行だろうが私にとっては絶対に外せない。単なる仕事外出時ですら、移動時と目的地での服装を変えることは多い。自分が身軽でその場に合ったスタイルであることが何より快適。たとえば…春先の不安定な時期には…行きは春っぽい薄着で出かけても、一枚大判ショールをバッグに入れていけば帰りは寒くなってもかなりしのげる。

そして、改めて新聞を読む。
内容をみると、これは海外旅行対象のようですね。
トップは変換プラグ。これは「快適」以前に海外旅行では必需品ですね。
ともあれ、3月は何かと旅の多い季節。

「旅を快適にしてくれるグッズ」(日本経済新聞)



2012年2月24日金曜日

蘭の香りに癒される・世界らん展にて

世界らん展日本大賞2012
火曜日に行ってきました。
会場の東京ドームは平日にもかかわらず盛況。




会場内にうっすらと漂う蘭の香りに、疲れを癒されました。事実、ほんとうに疲れていたのです。あえて元気をもらうために訪れたようなものでした。

フレグランス部門にて、東洋蘭の香りが奥ゆかしくも妖艶。
薄紫のリボンをかけられた受賞花。名前は忘れてしまいました。
花はとても小さかったのですが、最初にデリケートな香りが感じられたかと思うと徐々に白百合ともイランイランとも思えるような甘くエキゾチックな香りが瞬き、気がつくと薔薇やスミレのような清楚さが残っていました。
ほぼ数秒間での出来事。
この花の複雑な進化の記憶が香りで伝わってくるようでした。

色も形も模様も多種多様。香りは…嗅ぐほどに深く複雑にて繊細。
蘭という花の魅力です。

会場内には大きな資生堂のブースもあり
今回限定のフレグランスも販売されていました。
カトレア トリアナエの香り。




すべてを見尽くすことはできませんでしたが、フレグランス部門の展示の香りを堪能し、会場内を一巡しただけでほんとうに気持ちよくなりました。まさに香りのおかげ。ちょっと痛かった喉まですっきりし、気分も明るく頭の中も晴れやか。

植物は開花にかなりのエネルギーを使い、生殖に文字通り命懸けでのぞんでいるように感じます。そしてなんとしても花である時間をまっとうするために自らを護り協力者を誘う香りを発するのだろうと想像。薔薇や蘭などは、その多様化のために人をも協力者としてしまっている気さえします。こんなにも人に愛され、せっせと種類が増やされているのですから。

「世界らん展日本大賞2012」は日曜日26日まで開催です。


2012年2月23日木曜日

服を変えると音まで変わる

タイトルは、女性フルーティストの言葉。
実際に音楽家にそう言われると、説得力を感じる。

誕生31年目のアパレルブランド、LOUNIE が今春からはじめた試みはコチラ

「服を変えると、自分だけでなく、音まで変わることに驚きました。」

フルーティスト、難波薫さんの言葉はストレート。
インタビューページでさらにその魅力が感じられるはず。

服は生き方そのもの。
自分も知らない自分を引き出しながら生きていこう。
このブランドは今回の企画でそんなエールを送っているように感じる。

ちょっと思い起こしたことがある。

私は学生時代にアマチュアバンド活動をしていた。
アマチュアとはいえ、大学の学祭や年に一度のライブハウスでのステージなどに立った。そのときの衣装はきわめて重要。本来人前で歌うなんてことはよく考えると当時の自分にとってかなりハズカシイことであった。「自分」というものの意識など蹴散らして、身体は楽器、容姿は表現素材、と割り切らねば出来なかった。だから素顔の自分では到底できない。音に合わせて「変身」するしかない。
そこで私は初めてかなり念入りに化粧をしたり、小道具を使ったり衣装を工夫したりした。いくつかの街を探しまわってアイテムを入手。パリにステイしていたときも、翌年のライブのために日本では入手できそうにないアイテムを買ってきたりした。ただ音楽のために。

おかげで「自分」など蹴散らして表現に没頭できたかといえば、まだ人生修行が甘かったのか照れがあった。未熟だった。まだまだ変身が足らなかったのだと思う。この経験は教訓となり、役割に合わせた表現として服を着るということを意識するようになった。まさに服は生き方。



2012年2月22日水曜日

新月に・春の光香る・EAU CLAIRE DES MERVEILLES

2,22の日。

魚座にて新月。

これから3,8の乙女座での満月に向かって、見かけ上、月がだんだん膨らんでまあるくなっていくその始まりの日。

心新たに何かを決めたり、願いごとをしたくなる気分です。
困難なこと多々あり、としても、一旦忘れて気分をリセット。

まあるい気分で春の光が射し込んでくることを想像。
そんなイメージにピッタリなのが、このボトルのこの香り。


EAU CLAIRE DES MERVEILLES。
(オー クレール デ メルヴェイユ と呼ばれているようです)

フランス語で EAU は「水」。
CLAIRE は「明るい」、「澄んだ」。
MERVEILLES は「すばらしいもの」、「驚異」、「不思議」の複数形。

春の光が近づいて
キセキのようにすばらしいことが起きますように…
と、このキラキラ澄んだ光のような香りとともにお祈りします。


レギュラーサイズよりも小さな限定ボトル。
まるで小首を傾げた猫のよう。
まあるい気持ちになりたくて思わず手にとってしまいました。
裏側のカッティングも、まるで魔法のキラキラのよう。

調香されたお方はコチラの著者です。



2012年2月21日火曜日

円城塔 著『道化師の蝶』・言葉の連環がひらく世界

先月から楽しみにしていた一冊を、数日かけて読んだ。




この作品は、予感したとおり、私の好きな世界を感じるものだった。
予感とは、「わからないものにこそ、魅かれる」や、「多言語生活のおもしろさ」で書いたとおり。

すぐにでももう一度、最初から読みたくなる気持ちをおさえて、物理的に一読した直後の生々しい気持ちで今ブログを書いている。

もはや「小説」といったジャンルを示す用語で言い表せないような気がする。強いていうならば「言葉の連環がひらく世界」。生まれ出でた言葉の行間には、本来その時空にいなければ感じられない香りや音や手触りがあり、見えない想念や閃きや記憶が無数にまたたいている。時空を超えたその複雑さを読み手は自由に想像できる。そこが楽しい。そんなふうに言葉を選び、レイアウトしながら連ね、環状に文章をめぐらせていく作者の表現は現代アートそのもの。

あらすじ、とか、登場人物。
そんな概念で説明しようとすると複雑なのでこの作品のことを難解だという人が多いのだろう。一通り読まない限り味わえない。だから本の帯に書いてあることだけ読んでもサッパリわからないという人も多いはず。そもそも理解しようと思って読むものではない、感じるものだから。

感じること、これこそ実は無意識の理解であると思う。
感じることのうち、人はいったい、どれ位を言語化できているというのか。

感じる。
読みながら私の場合は、日頃時折り思い起こしてはあれやこれやと想いをめぐらす深い疑問に何度も再会した。そして改めて想像を拡げた。
ドキンと響いて忘れられなくなったフレーズもたくさんある。
私の脳の中に既にあったのに、忘れていたコトたちとの出会い。

とりあえず、一回読んだ時点での第一印象はこのくらいでやめておく。
一週間以内にまた最初から読み始める気がするから。


2012年2月20日月曜日

「世界らん展日本大賞2012」は26日まで

寒いながらも春は近づく如月二十日。

白梅模様の切手も愛らしく、親しい女性から一通の封書。

「世界らん展日本大賞2012」のチケット。

思い起こすのは、「形も香りも進化系・蘭の魅力」

花は植物の知恵の結晶のようなもの。

姿も香りも多様で複雑。
生き延びるために。

私もこの春をもう一度生き延びるため、花に会いに行く。



2012年2月19日日曜日

風邪をひけないこの時期・静かに香らせて

何があろうと体調を崩してはいけない時期。

日本中の多くの人にとって、これからしばらくの日々は特にそういう時期であろうと思います。25,26日は国公立大学入学試験(前期)、26日は鍼灸師国家試験、東京であれば都立高校の入学試験も確かこの位の時期。他にも年度末ということで色々あるのではないでしょうか。

私が「自然科学概論」という科目の講師として主にアロマテラピーについての講義を担当している専門学校でも、国家試験を控えた学生のために職員の皆さんが風邪予防のために心遣いをされています。

先週月曜日、リクエストに応じてエアフレッシュナーを制作しました。
そのときのことが学校のこちらのブログ でも紹介されています。

イメージとしては、
「香りのスプレーを吹き付けてありますね~」
ではなく
「なんだかこの部屋、清潔で気持ちがいいな〜」
くらいに感知してもらえたら十分な香り方。

身体に負荷をかけず、負荷をかけるリスクをそっと減らしていくような 静かな香り方であれば、香り自体わからなくても
「快適な環境にいる、安心。」
と本能が感じてくれるはず。

我が家にも受験生がいますので、彼が気づかないうちにシュッシュッと枕元あたりにスプレーしておきます。昔から彼が親しんできたラベンダーやユーカリ、ペパーミント、ローズ、ゼラニウムなどのブレンドで。おかげで今のところは風邪をひいていませんが。

免疫力を落とさないように食事や休養も勿論大切ですが、生きている限り皆呼吸をするのですから、少しでも快適な空気の状態を保てるようにと思います。




2012年2月18日土曜日

"Despite being complex individuals"・ICB の海外再進出


ICB
オンワード樫山のレディースアパレルブランド。
"Despite being complex individuals" (多様でありながら潔い) とは、上記サイトのブランドコンセプトのページより引用。

私もかつてベイシックなアイテムを購入したことがある。
確か、チャコールグレイのパンツ。某百貨店の中で、シンプルなグレイのパンツ…とブランド名など気にせずアイテムのみを目で探し、見つけたのがこのブランド名だった。

2月16日の日経新聞朝刊13面に、このブランドが今秋から北米、2013年には欧州に再進出するという記事を発見。1995年に同様に北米と欧州に進出したものの、当時は日本での企画商品を展開し、現地での流行などの取り組みが遅れて浸透せず、北米は02年、欧州は11年秋までに撤退したと記されている。失敗を糧に再進出するにあたり、今回は海外デザイナーと契約、現地ニーズに応じた商品を新たに投入するという。

海外事業における現地化。ローカリゼーションの実践。

日本国内のアパレル市場低迷、という背景も確かに感じられる。
先月コチラ で書いた事例もある。

そもそも" ICB "とは、"International Concept Brand" の略。
「現代」という時は共通。
その共通の時を生きる女性は、世界の多様な地域で多様な事情の中を生きている。
一人ひとりの女性が、各々の地域の多様な事情に合わせて着られる服を。
日本のきめ細やかな気配りと丁寧な技術で提供できますように。

日経新聞のサイトより
オンワードの婦人服「ICB」欧米再進出



耳をすますように聞きたい香り・柑橘ピール

ときどき嗅ぎに行きたくなるとっておきの香り。
それは、耳をすませて音楽を聞くときのように。
ドライピールにしてかれこれ一年、大切に木箱に入れてあるのは、
ブラッドオレンジ(タロッコ)・紫のコクと爽快な香り
木箱に顔をうずめるようにして香りを聞く。
うっすらと、優しくあのブラッドオレンジの香りが囁きかけてくる。

こんな楽しみを覚えてしまった私は、特に果皮の香りがフレッシュに強く立つものをドライピールにしようとこの時期を楽しみにしていた。
2週間前の、柚子・ゆず・yuzu と数日前のたんかん。



左上が昨年3月から腐りもせずほのかな芳香を保つブラッドオレンジピール。
その右が剥いて2週間経過のゆずピール。
その手前が5日前に剥いたばかりのたんかんピール。

ゆずピールは数日カラリと乾いた段階ではまだフレッシュに香りが立つ。
でもだんだん…こちらが嗅ぎにいかないとわからないくらいの奥ゆかしい香り方になっていく。

柑橘果皮の偉大なところは腐らないところ。
実があればすぐにカビが生えてしまうのに、果皮のみ乾燥させると腐らない。
柑橘果皮精油に抗菌効果がありそうなことを実感。

今は、たんかん(2007 )の美味しい季節。まだまだこの濃いオレンジ色の果皮でピールを作る予定。



2012年2月17日金曜日

時刻と場所・ケンゾー パルファム 10:10A M シシリアオーデトワレ

昨日、まとう香りも一新! 春の新作フレグランスカタログの中でチョット興味を持ったのが
ケンゾー パルファム 10:10 AM シシリア オーデトワレ 。

10:10 AM シシリア。
「時刻と場所」が香りの名前。
まるで待ち合わせのよう。
本当に待ち合わせのメッセージに使われたとしたら…かなり粋。

ボトルのビジュアルからも、この時刻のシシリー島での柔らかな陽光に包まれた風景を想像。そこにはさまざまな植物が呼吸し、春の空気に溶け込んで…。

いまだ厳寒の日本にいる者にとって春の陽光は待ち遠しい限り。
ふんわりとした甘い果実や花の香りに混じって、地中海の海風も感じられそう。

発売は一週間後の2月24日。
もしこの香りを贈られたとしたら、謎めきつつも深い愛情を感じられそうな気がするのも独得なネーミング故でしょうか。

心の中で春に旅立てそうなフレグランス。




2012年2月16日木曜日

携帯できる靴・バタフライツイスト(BUTTERFLY TWISTS)

洋服を着る以上、足元も含めてのスタイルを考えるもの。
靴は非常に大切。
私は行先や目的にあわせた服装を考える時、靴を最初に決める。

しかし…履いていく靴とは別の目的に合った靴が必要となる場合がある。
代表的なケースは以下3例。
1,内履き持参指定の場所(例えば学校など)に行くとき。
2,旅行で飛行機を利用する際、ラフな靴を履いて行きつつ現地正装用が必要。
3,盛装でハイヒール、の帰りは楽な靴で見映えを崩さず帰りたい。

特に…日本で母親になったら必ず1を経験する。
仕事帰りに子供を迎えに行ったりしたときなど、服装に合わないスリッパに履きかえるとそれだけで気分が下がるし似合わない。かといってスリッパに合わせた服装なんてできない。卒業式や入学式だからとせっかくオシャレした母親(オトナの女性)の足元がスリッパなんて残念。

今や、携帯できてなおかつベイシックにフェミニンなスタイルをキープできる靴は女性にとって不可欠と考えていた私にとって、英で大流行のポータブルフラットシューズ、バタフライツイストが高級感を漂うデザインでリニューアルは嬉しいニュース。

バタフライ ツイスト(BUTTERFLY TWISTS)は2007年イギリス・ロンドンにて大学時代の親友4人によって考えられ、2009年にデビューしたシューズブランドとのこと。4人のメンバーの一人の妹がこう言ったのがきっかけらしい。

「ヒールだとスタイルは良く見えてもつまずきやすいし、すぐに疲れてしまう。でもはき替えたいと思うような可愛いフラットシューズがない。」

ブランド名の「Butterfly」はフェミニンで洗練された美しく、繊細というイメージであり、「Twists」は靴が折りたためるというユニークで革新的なアイディアを象徴しているとのこと。

シーンに合わせて服装が変わるのだから靴も変わる。
ヒールの高さにこだわる女性ゆえに…
今後日本でも需要が高くなりそうなポータブルアイテムであると思う。

2012年2月15日水曜日

口紅との付き合い方

口紅。
笑顔を華やかに明るく見せるためには欠かせないもの、と思う。

でも。これは見せるためのものであって、食べるものではない。
今日、口紅に含まれる鉛成分についての海外の警告的な記事を見た。
改めて口紅との付き合い方を慎重にしたい…と備忘録。

鼻に近い場所に使うため、これには余計な匂いがついていないことが有難く、何かを飲んだり食べたりするときにもついていてほしくない。
せっかく美味しいものを口にする度にあちこちに口紅の色がつくのもつらい。何よりも、食べ物や飲み物と一緒に口紅成分も体内に…と想像したくない。

以前、つけてすぐに乾き食事をしても落ちない、つかない、という口紅が発売されたことがあった。しかし。塗ったとたんデリケートな唇がコーティングされたかのようにピリッとし、薬品様の辛い匂いも感じた。ああだめ、と思った。

様々な失敗と経験を重ねて私がたどりついた口紅との付き合い方1~7。

1,なるべく無臭で刺激の少ないものを選ぶ。
2,思い切り食事を楽しみたいときは、口紅なしのメイクを考える。
(素の唇が荒れないように、血色を落とさないように心掛ける)
3,口紅をつけるときは外側中心。ラインをきちんと描くためにリップペンシルで エリアを定め、エリア周辺の色を自然の唇の色に違和感なく続くようぼかす。
4,撮影でもない限り、内側の上下の唇が触れ合うところにはつけないようにする。
5,口紅をつけた状態で飲食しなければいけないときは4の内側部分だけでもティシュで抑えておく。口紅はなるべく食さず、移さず。
6,口紅は、大切な瞬間の直前までつけない。たとえば大切な人と会うときなど。その場所にたどり着くまでに混み合った電車に乗ったり鼻をかんだりする可能性があるときはつけていかず、目的地の化粧室にて密やかにつける。
7,数年間は腐らないように防腐剤が入っているはず。鉛もコワイが私はこの事実も想像するとコワイ。腐らないからといっても1年経ったら残っていてもあきらめる。だからこそ似合う色、定番色を選ぶ。




2012年2月14日火曜日

バレンタインデイに

バレンタイン。
きのう私は、ここ数週間探し求めていた自分のための香りを発見。
その香りを纏う自分の姿が春の風景とともにイメージできた。
こだわっているわけではないけれど、今回もフランス発のブランド。
最新のものではないけれど、出逢えたときが縁だと感じた。

私が似合う香りを纏っていれば、その香りは大切な周囲の人と共有できる。
というわけで…自分という存在をまずは春めかせることから。

バレンタインの思い出としては笑えるエピソードがひとつ。
あれは小学生の頃だったと思う。
当時の親友M子ちゃんと、アルファベットチョコを大量に買って手作りしてみようということになった。湯煎して溶かし、型に入れて固めて待つこと数時間。
「なにコレ?」
一口噛みしめたとたん、「ガジッ」という砂を噛むような悲しい食感。
アルファベットチョコのままで食べた方が数段美味しかった。
この日以来、M子ちゃんと私は
「お菓子は甘くみてはいけない。特にチョコは。」
と深く悟った記憶がある。

もちろん上手なひとはつくり方を研究されて美味しく仕上げられるのだろうが、私はすっかり、チョコはショコラティエというプロにお任せしている。素晴らしいショコラティエはたくさんいらっしゃる。尊敬。

バレンタインにちなんで、フレグランスと音楽の話題をご紹介。

10代から20代の女性向けに、バレンタインデイ発売のフレグランスを一点ご紹介。
《ラブパスポート》ココロ華やぐチェリーブロッサムで 毎日をドレスアップ ラブパスポート フローティブリス(フィッツコーポレーション)。トップノートのピーチが初々しい甘さで爽やか。チェリーブロッサムも優しい。私の講義を受講していた21~22才位の女子大学生約70名にも概ね好評。

とっておきの音楽でスイートな夜を体感したい大人の男女には、ピアニスト、コンポーザーとして国際的にご活躍のアキコ・グレースさんをご紹介。
AKIKO GRACE VOICEでもご紹介のコンサートは今夜。3年前に私とは薔薇の香りの音楽表現でご一緒したグレースさんは、今回チョコレートとのコラボレーションにチャレンジ。詳細はこちら、アキコ・グレース・バレンタイン・ナイト・コンサート より。
彼女のこれまでのアルバムもお勧めしておきます。

634mスカイツリー・数字から香水を考える

今朝の日経新聞31面に、小さいながらもこんな記事。

「スカイツリーにちなんだ香水 資生堂、6万3400円で634個」
ツリーが一般公開される5月22日に発売されるとのこと。
香水のテーマは「温故知新」。クリスタルガラス容器に日本伝統の切子で麻の葉模様を表現、香りは杉、緑茶などを配合したという。

さっそく画像をさがしてみたところたくさん発見。
その一つをご紹介。
朝日新聞デジタルのコチラの記事

高さの数字が価格と個数になった。
少なくとも私はこのニュースでスカイツリーの高さをしっかりと記憶してしまったので、こうした縁起物発売の広報効果って大きいものだと思った。価格に驚く人も多いかもしれないが、そもそも香料というものは高価であることに加え、今回は切子でつくられたクリスタルガラス容器なのだから、記念オブジェの価値も含むと考える。香りはきっと…長い年月を生き抜いて高くそびえる樹木の息吹も感じさせてくれるだろうと想像。

数字と香水、といえば忘れられない名香二つ。

まずはシャネルの「No.5」。サンプルの5番目を選んだという説がある。この1921年生まれの香水は、この100年間で世界で最も売れた香水であるという。

そして1972年生まれ、ジャン・パトゥの「1000(ミル)」。違う魅力をもつ全ての女性に向けて、それぞれの個性に合った1000の夢を叶える香水として誕生。調香師が中国に行って香料を採取してきたと言われ、最初の限定販ボトルには購入者の名前が刻印されたのだとか。(平田幸子著『香水ブランド物語』より)

数字は人にとってなくてはならない記号であり、その表面的意味は単純明快でありつつ、イマジネーションを喚起される深さは果てしない。まるで見えているようで見えない、存在しているのに見えない香りのようにミステリアス。



2012年2月12日日曜日

カタツムリエキス~香りのボディクリームからの考察

週末。知人から「香りのプロデュースに関わったので」と数種類の香りのボディクリームを頂いた。早速一部愛用中。

そのクリームの整肌成分の一つが、遅ればせながら初耳だった。
カタツムリエキス。

かつての正直な感想を言ってしまえば、カタツムリといえばあまり触れたくないという印象があった。見た目には可愛らしいけれど。

しかし、フランス料理のエスカルゴに使われるものは衛生的な環境で養殖されるときいていたし、ハーブの勉強をしたときには、野生のカタツムリに殺菌効果の強いタイムの葉を一定期間食べさせて体内環境をいわばキレイにする話なども耳にするようになって少しは抵抗無く受け入れられるようになっていたところ。

いくつかのサイトで調べてみた。
「カタツムリエキスの効果」のコチラのページ

「YAHOO!JAPAN 知恵袋」のコチラのページ

化粧品に使われるエキスもどうやら人の管理によって養殖されたカタツムリを使用するという。そもそもエスカルゴ用カタツムリの養殖業者の手肌への効果からこの整肌効果が研究されるようになったらしい。あのプルプルがよいのねと想像。

紀元前の昔から、自然観察によって得られる知恵の恩恵は深い。
カタツムリからも美容成分を発見する人間の探究心には限界がない気がする。
日々発見、の精神で生きたい。

そういえば最近香りのボディクリーム人気が高い。
こう寒さと乾燥が続くと…
全身に塗ってからでないと怖くて外出できないと思う日々も続いた。
保湿とともにさりげなくほのかな香りを纏えることも魅力。

もしかしたらアルコールベースの香水が、「苦手」とか「酔ってしまう」などと抵抗をもつ日本人が多いのは基材がアルコールのせい?オイルをはじめ、ジェルやクリームなどのぷるっとした保湿成分となるものがベースであればその香り立ちを好む人が多いのかもしれない、とチョット思い、今後このタイプの香り立ちを色々調べてみたいと考えている。

2012年2月11日土曜日

森爽香気・AYURA ウェルフィットボディーミスト

爽やかなブルー。
翠、とも呼びたくなるような緑の入った青です。
目でも感じる、アロマティックフォレストの香り。


AYURAの新製品だそうで、身体を動かしたあとの肌を冷涼に、さらさらにしてくれるボディ用化粧水。富士山麓水100%使用。この色もボトルの形もイメージをうまく伝えています。

最近、女性のランナーも増えました。身体を動かしてリフレッシュする楽しさはお洒落な女性の間でも話題にのぼることが多いようす。そんなひとたちがさりげなく手にしていても違和感のないビジュアルです。

私はランナーではありませんが、一日の外出後のシャワーの後はもちろん、自宅で原稿を書いているときに手足に吹き付けて一瞬森林浴気分になりたいときに使いたいと思っています。

3月下旬発売予定のこのシリーズには、ソリッドパフュームや日焼け止めアイテムなどもあるとのこと。春から夏へ、アウトドア派の女性からも注目されそう。

イタリアとブルガリアに感謝…の夜

週末の夕刻。
疲れはピーク。

今週はほんとうに忙しかった。
なんとか丁寧に取り組むことができ、フィニッシュさせた仕事。

帰路にて…
美味しいものを食べたいと思った。
新宿駅改札を出てすぐに見えた百貨店。
地下を物色してみつけたのがこちら、EATALY
試食したプロシュートが美味しくて
生ハム盛り合わせとナポリ産スパゲッティを購入。
帰宅後すぐにパスタを茹でる。小麦の香り抜群。

ここ数日の乾燥で肌もかさつきがち。
かさついているとリラックスして眠れない。
家族と自分にアロマトリートメント。
頑張った一週間だからこそ、今夜は幸せな夢を…と選んだのは
今入手し得る最も新しい2011年産ローズオットー。
先月もコチラ で書いたように、その香りを思い起こすだけで幸せな記憶に満たされる、ブルガリア産ダマスクローズの香りの雫で心も肌もしっとり。

2012年2月9日木曜日

「アロマジュエル」…衣類香りづけプロダクトに思う

衣類の“香りづけ専用製品”発売、量と組み合わせで香りメーク自在
(2012年2月9日 東京ウォーカー)
のニュースを見て。

第一印象。
機能としては、日本ではニーズは高いと思う。
ただ、製品のパッケージデザインはあまり私の目には好ましくないので、入手したとしても見えないように収納するスペースを考えなくてはならない。

アメリカではすでにこうした方式が広く普及しているらしい。さすが合理的。
「ほのかに違和感なく香る人」を洗濯とともに演出できるという機能は便利かもしれないが…かつて日本で平安時代に伏籠(ふせご)に着物をかけ、下から香を焚いて雅な香りを着物に移したという、枕草子に描かれたシーンのイメージとはますます離れていく。

「なにか(今回の場合は洗濯)のついでに、香りをつける」
というのと
「綺麗にした上で、さらに目的に合わせた香りを纏う」
というのとでは根本的に違うようには思うが、それでもこのような製品の登場によって少しでも身の周りを心地よい香りにと意識を向ける人が増えるとしたら、その価値は大きいのかもしれない。洗濯によってリラックス、リフレッシュできるという価値の提供も確かに重要。

2012年2月8日水曜日

梅香

本日は満月。

日曜日に出会った梅の香り。
優雅。どこか懐かしく遠い記憶に近づくような一瞬…
この素晴らしい香りを愛でたという昔の人の美意識には深く共感。




上の写真の梅は「八重野梅」という。
2月5日、羽根木公園の中で幸先よく開花していた種類の一つ。きっと来週は周囲の蕾もほころんでいるにちがいない。

小田急線梅が丘駅近く。羽根木公園での「せたがや梅まつり」は2月4日から2月26日まで。日一日と芳しい空気に満たされて…春へ。

2012年2月6日月曜日

髪に春風を描いて

雑誌の2月号、ともなればもう春の話題。
例えば、ヘアスタイル。

コチラも、いちはやく春から夏へのヘアスタイルを提案。今春はボリュームがポイントらしい。といってもホントにボリュームが必要…というより、髪の一本一本が流れるように見えるスタイルが春っぽいのだと思う。

数年前まではある一定の長さをキープしていたけれど、この一年位はフェイス縦ラインの2倍を目指して伸ばしてみた。これでわかったことは沢山。センターパーツかサイドパーツかによって服の着方を変えたり、髪先やサイドの流し方一つで印象が変わり、気分も変わる。

一日外出してくると髪は様々な匂いを吸い込んでくる。でも比較的イヤな匂いにならずに済む方法の一つは、お気に入りの常用フレグランスを一拭きしたティシュを髪全体に包み込み、軽くクシュクシュさせてからブラッシングしておくことかもしれない。そのティシュは…捨てずにコートのポケットにでも入れて。こんな身につけ方だけで、すれ違ったときにかすかな芳香を含む春風をなびかせられるかも。

防寒も兼ねて長い髪をガードしたければ大きめのストールで首まわりをグルグル巻きにした中に髪をしまいながら歩きましょう。実際今日の私はそのおかげで、帰宅したときに煙草のにおいも外気独特のにおいもあまりついておらず、たったそれだけのことで疲れを感じずに済んだことも嬉しい。



2012年2月5日日曜日

柚子・ゆず・yuzu

柚子、と書く。厳寒期の木に実る、光のような柚子色を思い起こす。



ゆず、と書く。やわらかく拡がる香気を想像。



I try to write "yuzu". It reminds me of special aroma.

レモンのようなインパクトがありながら、レモンよりも優しく香る。
グレープフルーツのようにほのかな苦味をかすませながらも、鮮やかに香る。

春へと近づく如月に。

2012年2月4日土曜日

「恋は香りから始まる」(新間美也 著 / 飛鳥新社 刊)

先月お会いした雪の日からもう2週間。東京でユックリとお話を楽しんだ調香師の新間美也さんから素敵なご著書をお送り頂きました。
「恋は香りから始まる」(2006,10,7 飛鳥新社より発刊)。




まず、タイトルから感じたことを。
私の初恋は確かに香りから始まりました。
それは6才のとき。相手は異性でもなければ他人でもなく。
香りから拡がった想像の中で描いた、未来の「私」に対して。
ふと出逢った外国製フレグランスの香り。それが香水と呼ばれるものであることも知らず、その香りを手首や髪に纏い…一瞬のうちに「大人になったら私はこんなふうになりたい」と着ている服や髪型や話し方を想像しました。そしてこの秘密が芽生えてから、私のこれまでの「生きた」時間が続きます。…確かに私にとって、後に深いつながりを持つことになった人たちとの間には印象的な香りの記憶がありました。

「少しずつユックリと読んでくださいね」とメッセージを頂いたので、仕事の合間に少しずつ、柔らかな物腰の美也さんを思い起こしながら、様々なパリでの香りのエピソードを楽しく読みたいと思っています。

富士山の眺めと美味しい緑茶産地として名高い静岡県ご出身の新間美也さんは、大学でフランス語を専攻され、1997年渡仏。パリにある香水学校にて調香師に師事。2000年には「Miya Shinma」ブランドを立ち上げ、フレグランスをはじめとする様々な商品を展開。その後日本にも香水学校を開設されて現在はパリ、東京、静岡を行き来されています。

「Miya Shinma」ブランドは、フランス・パリにある老舗デパート「ル・ボン・マルシェ」との取り引きをきっかけにスタートしたそうです。木箱に入ったフレグランスの名前も、HANA、TSUKI、YUKI、MIZUなど…日本の気候風土に育まれた香りの感性がフランスの人たちへのメッセージの形となっているように感じます。フランス以外にも、日本、イギリス、ドイツ、アメリカなどでも販売されています。(著書巻末の情報より)

Miya Shinmaブランドについての情報はコチラ 。著書によると、商品は山形県の「広重美術館」、磐田市香りの博物館はじめ、静岡県内のいくつかの場所でも入手できるようです。


2012年2月2日木曜日

楽しいからこそ疲れることも承知して

美術館で全く背景を知らない作家の作品を鑑賞するのは楽しい。
私は鑑賞に時間がかかるので一人で行くことが多い。
全ての作品をくまなく観るためではなく、
心魅かれるものと出逢ったときの余韻を大切にしたいから時間をかける。

詳しいことはよく憶えていないが、私が忘れられないインパクトを受けた美術館の一つはパリのピカソ美術館、そして鎌倉・神奈川県立近代美術館で観たスペインの彫刻家、エドゥアルド・チリーダの作品。今日浮かぶのはその二つ。

先週末から99名の学生による、香りのビジュアルデザイン作品を鑑賞している。
ただ眺めて色々感じるだけでなく、この課題を課した私は一つひとつ評価しなければならない。正直に言ってしまえば、成績評価提出期限までの時間さえもっと余裕があれば、こんなに刺激的で楽しいことはない。半年間私の講義を受けてきた学生が、自身の背景と向き合い、一つの香りと向き合い、ファッション観を視覚化する。大変な作業だったことと思う。表現の楽しさと苦しみを同時に感じたことと思う。だからこそ提出作品一つひとつにかけがえのない重みがある。

彼らの作品を丁寧に観ていくことは、世間の評価がある程度つけられてしまった美術作品を鑑賞するよりもはるかに面白いと思うことも多い。それは私の考え方として、ふたつの鑑賞法を持っているからかもしれない。

1,表現から感じることを受け止めた私の第一印象をまずは大切にする。
2,表現に至るプロセスや背景も合わせてよく読み、表現とのつながりを考える。

1には直感というか直観というか、素早い感覚反応が働く。シンプルな驚きであったり、ミステリアスな謎であったり、次々と想像の扉を開くようなインパクトであったりする。時には「ああ、残念、時間がなかったのね、」と完成度のレベルが一目でわかることもあるが、それでも表現の一端は感じ取れる。美術館などで鑑賞するならここまででも十分楽しめる。しかし、大学の私の課題ではこの段階だけでは評価しない。2を踏まえて総合的に評価する。

一つの作品には一人の作者のこれまでとこれからへの気持ちが凝縮されている。自分の講義でこのような課題を課すことを7年続けてくると、2を踏まえなくても、1の初見だけで全体的なことが感じられるようになってくる。だから楽しいだけに余韻も残る。余韻を考慮せずに次々と作品を眺めると、私の感覚はまるでデリケートな嗅覚のごとく疲弊する。

楽しいからこそ疲れることも承知して。
驚きも謎もインパクトも脳のエネルギーを消耗させる。
一つの作品から多くを感じたら、その余韻を楽しみながら次の作品を見る前に軽く気分転換する。お茶を飲んだり、音楽をきいたり。前の作品の余韻を消してからフレッシュな感覚で次へ。こうすれば疲れないし、疲れた感覚では鑑賞も評価もできない。次の作品への好奇心を待つのも楽しい。



2012年2月1日水曜日

多言語生活のおもしろさ

母国語は日本語。
情報収集のために英語とフランス語もよく使う。
いわゆる「ペラペラ」ではないがそんなことはどうでもいい。一つの言語習得に終わりはないのだから、日々必要に応じて少しでも語彙を増やしていけばよい、くらいに思っている。間違って笑われようとも積極的に使う。そもそも母国語ですら完璧だという自信はないので手紙を書くときも辞書は手放せない。
植物の学名はラテン語なので、これはなるべく覚えるようにしている。なんといっても植物学名は万国共通。英語やフランス語にはラテン語由来のものが多い。

イタリアに取材出張したとき、事前に挨拶フレーズと数字と疑問詞だけは憶えていった。街中で買い物したり道をきいたりするだけならこれだけでも事足りた。ブルガリアに出張したときも同じ。全ては必要の頻度の高い言葉から始まった。

化学記号も数式も、ある意味初めて学ぶ側にとっては「外国語」。
このきまりごとの中で表現する手段をもつと、考える方法も増える。

行く場所、会う人、会う目的によって身に纏う香りや服装を替えるのであれば、言語も使い分けできたら面白いだろうとよく思う。基本は母国語で考えるのだろうけれど、発する言葉はたとえ一言でも意志や思考の表現。服装と同じく。

そんなことを日頃から考えていたので、なおさら気になるのが今月発刊されるという「道化師の蝶」。第146回芥川賞受賞作。1/29日経新聞19面の「文壇往来」でこんなふうに紹介されていた。

…世界中を旅しながら30を越える言語で書く「友幸友幸」という正体不明の作家が無活用ラテン語で記した唯一の作品『猫の下で読むに限る』。これが書かれた謎を解明しようと「わたし」は調べていく。多重人格の「わたし」によってつづられ、入れ子細工ふうの構造でつくられた難解な作品だ。…

30を越える言語とか、無活用ラテン語…。難解という先入観はさておき、この文学は体験してみたいと思う。そもそも難解だからこそ面白いものが多く、簡単と感じるものに情熱など湧かない。