2011年6月30日木曜日

キゥイジュースとライム&ミントソーダ・緑の涼感

昨日、八重洲にある打合せ場所に向かう途中、東京駅構内で立ち止まってしまった場所。それは涼感あふれたドリンクサービスカウンターでした。
DEAN&DELUCAのシーズナルメニューの中から私が特に魅かれたのは緑の2種類。ライム ミント ジュレップソーダとフレッシュキゥイジュースです。

結局ビタミンC豊富なキゥイジュースを選びました。氷とともにクラッシュされているので、少しずつ涼感を楽しみながらゆっくりと味わうことができました。冷やしたキゥイそのものを食べるよりも、口の中に拡がるシトラスグリーン調の香りとともにその酸味や甘みを堪能。午後の元気の素になったようです。

ライム ミント ジュレップソーダは、まさにアルコール(ラム)抜きのモヒートのよう。以前の私のブログ「モヒートは夏の香り・ミント&ライムのベースはラム」でご紹介した盛夏にピッタリの飲み物です。こちらも試してみたいと思います。

そして昨日はネイビーブルーの透かしブラウスを着ていたのですが、それだけで会った人に涼し気と言われました。緑も紺も、目から涼感を送る色なのだと改めて感じます。少しでも体感温度をクールダウンさせたい夏。明日からいよいよ文月、7月です。


2011年6月28日火曜日

マイヤーレモンとクランベリー&オレンジ

朝の光を受けて宝石のようにきらめく色彩のデザートをいただきました。

まずはマイヤーレモンゼリー。


マイヤーレモンというのは、レモンにオレンジかマンダリンを交配させてつくられたもののようです。三重県農水商工部マーケティング室による「バイオトレジャー発見事業」というページで確認できました。程よい酸味と苦味はありながら優しいレモンの香り。こちらのゼリーには三重県南紀産の木熟(木の上で熟すまで収穫を待つことにより糖度が高くなりより甘みを増した)マイヤーレモンが使用されているとのこと。このマイヤーレモンと蜂蜜のハーモニーの上にはグレープフルーツの柔らかい果肉が添えられています。

そしてこちらはクランベリーオレンジゼリー。


クランベリーといえば、カナダやアメリカ合衆国の人にとっては馴染み深いもの、といったことをトロント在住の友人から聴いたことがあります。水を張って木を揺らして実をとるクランベリー畑の広大なルビーレッドの風景もこの地域ならではなのかもしれません。そんなクランベリーとオレンジを組み合わせたジュースがニューヨークで人気なのだとか。オレンジ色から煮詰めたクランベリーの深紅への淡いグラデーションは光に透かすと紅茶のような色合い。落ち着いた甘さと二種類の酸味のハーモニー。ジュースでは最初からミックスされているのでしょうけれど、このゼリーでは上にオレンジがあり、徐々に熟したクランベリーの深みへと香りが移っていく流れを楽しめます。

デリケートなフルーツの色と香りを味わうために、ガラスのこの器はぴったりでした。特別な時間を楽しむための贈り物としてつくられたのでしょう。夏の思い出の一つになりそうです。

2011年6月26日日曜日

ダマスクローズの故郷に感謝をこめて

今年も5月から6月の間、薔薇の花を堪能しました。

さまざまな場所で、さまざまな種類の薔薇の姿と香りに出会い、改めて古今東西にわたり、広く愛されている薔薇の魅力を実感しています。

紀元前から存在したオールドローズの一種、ダマスクローズは、香料用の薔薇として世界的に有名であり、現在、天然香料ローズオットーとしては最高品質を産出するブルガリアの代表的産物となっています。

このブルガリアで創業100年を超える会社との連携により、その年に収穫されたダマスクローズから抽出物されたフレッシュなローズオットーを先行予約で日本の香りファンに届ける企画を実施して今年で3年目を迎えました。

今年もブルガリアから写真が届き、私は感謝をこめて、"PALECHKA 2011" を書いています。ダマスクローズの故郷がどのような環境であるかご覧いただけます。

目に鮮やかなピンクの大輪、ダマスクローズ。この植物の命が何千年もの間絶えることなく繋がれてきた理由の一つには、その香りの魅力があるのかもしれません。天然の植物に人をひきつける魅力があったからこそ、香りの文化がうまれ、香料抽出、香料合成の技術が発達したのではないかと思います。そしてその恩恵は、香水好きの人だけではなく現代を生きる全ての人が、生活を少しでも心地よく過ごすための製品を通して受けているものです。

先週も、2010年産ローズオットーで心身ともに癒される時間を持ちました。ラズベリーを思わせるフルーティーなトップノートから蜂蜜のように深みのある甘さへ。ワイルドな緑の植物の苦味とあいまって醸し出すこの植物の香りの複雑さは、何度体験しても心に響きます。2011年の香りにも会えることを心待ちにしています。



2011年6月25日土曜日

夏の新作香水チェック3

「ア セント バイ イッセイミヤケ ネロリサンシャイン」(OPENERS 記事) を表参道のイッセイミヤケブティックでチェック。ボトルに描かれたオレンジフラワーと同じ形のムエットに香りを吹き付けていただきました。ネロリが大好きな方にはご満足いただけるでしょう。まさに爽やかに香るオレンジの花。様々な香料とともに、この太陽の恵みを受けた花の魅力が際立っています。清楚な印象を大切にしたい人、アロマテラピーでネロリ精油に魅かれている人は要チェック。

「ロードゥ イッセイ サマーフレグランス」(OPENERS 記事)
も同じく期間限定。目の醒めるような鮮やかなブルーに赤い珊瑚礁のカラーリング。ムエットも同じカラー。海に行きたくなりますね。2種類ありますがどちらも男女とも使えそうな爽やかさ。軽くフローラル、シトラス、ハーバル、スパイシー、ウッディ…様々な香りがライトなBGMのように夏風に流れていきそう。

5月に大阪三越伊勢丹にも出店したルラボ(FASHION PRESS記事) の新作「サンタル33」はこれぞウッディ。滑らかで繊細。この香りを手首につけていただいて帰宅した私は、帰路の間ずっと猛暑で疲れていたにもかかわず、自分が奥ゆかしくミステリアスな淑女であるかのような気分に浸りました。サンダルウッド、白檀の本物の木から漂う香りを5月の「香り かぐわしき名宝展」で体感したときのあの高貴で雅びなイメージを想起。それでいてどことなくワイルドな強さもあるのです。奥ゆかしくミステリアスであるものは強い生命力を秘めている、そんな、現代の男女がともに理想とする香りのドレスかもしれません。

フレグランスの奥深さを感じる上で、天然香料そのものの本物の香りを知っている体験は貴重。アロマテラピーを学んでいる人がだんだんフレグランスの良さを実感していく例が多いのもわかります。




2011年6月23日木曜日

PARFUM夏号(158号)発刊

急に夏らしい陽射しとなった昨日、6/20発刊のPARFUM 夏号が届きました。表紙のPARFUMの文字は、淡いラベンダーカラー。もうすぐラベンダーの花も最盛期を迎えるころです。


今号の注目記事は、「ルラボ」(ニューヨーク発のフレグランスブランド)の最新情報。代官山の第一号店、銀座三越店、伊勢丹新宿店に続き最近大阪にも出店しました。ルラボといえば、世界中にファンをもつ「ローズ31」がいまやブランドを代表するシグネチャー的存在ですが、この香りについての特別インタビューあり、最新作「サンタル33」の紹介あり。ルラボの香りのネーミングは香料名と数字だけなのですが、これは購入された方のパーソナルなイメージを大切に考えてのことだそう。私の知人にも「ローズ31」愛用者がいますが、また印象をきいてみたくなりました。

夏の新作フレグランスとしては、香料ベルガモットの紹介とともに、夏風のようにすがすがしい印象の7種が紹介されています。「キットソン ハッピー トゥインクル」はカナリアイエローのボトル、ボトルに一輪のネロリの花が鮮やかに描かれた「ア セント バイ イッセイミヤケ ネロリ サンシャイン」、淡いグリーンの液体が涼し気な「フローラ バイ グッチ オーフレッシュ」等々。

その他、毎回何度でも読み返したくなる「匂いの随筆」。今回の建築家の方による文章は興味深いコーヒーの香りの話題から始まります。前回はお休みだった"BOOKS"では香水、文化誌、音楽、美術に関わる選りすぐりの4冊をご紹介。充実した夏のひとときに…ぜひどうぞ。

2011年6月21日火曜日

一人の時間にグルマン・フレグランス…左手首との程良い距離感

明日は夏至。これから夏本番、となるとフレグランスも爽やかな夏バージョンが増えてくるとは思うのですが…久々の休日、クローゼットを開けて目にとまったのは昨秋発売された資生堂・マジョリカ マジョルカの赤いパルファムボトル、「マジョロマンティカ 」

まるでグロスのような真っ赤なボトルとスパチュラ、とろみのある練り香的なパルファムの感触を試し、10代後半から20代の女性に大人気であることが実感できました。ハーゲンダッツのフォンダンショコラとコラボレーションされたほど甘く美味しそうな香りなのです。

赤いベリー系フルーツを筆頭にザクロ、イチジクやマンゴスチンなど私には媚薬的イメージのフルーツの香りが柑橘類とともにトップノートに用いられ、ミドルには優雅なローズ、ジャスミン、スイートピー等、ラストノートにバニラ、メープルシロップ、ブラウンシュガー、ムスク…等。まさにスイートな世界。

この世界観に浸るための企画としての、パークホテル東京(汐留)とのコラボレーション も好評だった様子。一人だけで宿泊し、この気分に浸り切る体験の提供は面白いと思います。

さて、私はそんな10~20代の女の子ではないのですが、こうした香りは嫌いではありません。ティエリー・ミュグレーの「エンジェル」というグルマン系フレグランスも好きでした。全身を包む衣服のように「着る」ことはできないけれど、ほんの一箇所、ブレスレットのようなアクセサリーとして身につけることもあります。手を動かしたときにだけ、ふわりと甘い香りが広がって、気持ちを優しくさせてくれます。

そして今日の休日、誰にも会わない一人の時間。衣服としてよりも気分のためにマジョロマンティカを左手首に1滴。
コーヒーカップを持つ左手が私の口元に近付くたびにこのスイートな香りが漂い
実際に甘いお菓子を口にしなくても満足できてしまいました。

マジョロマンティカの外箱にこんなことが書いてあります。
…いくつになっても
永遠の「女の子」で
いたいのなら
この香りを
いつもあなたのそばに…

女の子、女子という表現があふれていますが、これを私は文字通りの意味ではとらえたくありません。生まれて初めて自分が男の子とは違う生き物であることを自覚し、それを肯定的に受け入れたときの初々しく愛らしい気持ちを維持する女性、と言い換えたいものです。いくつになっても、一人で何かに浸り切る時間を持ち、これぞ私の好きな世界、と自覚する、そんな気持ちを育て続けていきたいと思います。





2011年6月19日日曜日

「シャネルNo.5の秘密」(原書房)から見えた女性美の表現

先週入手して一気に読み終えた一冊。
ここ1世紀のうち、最も世界で売れた香水が「シャネルNo.5」であることは専門家の方から聴いて知ってはいた。しかしながら、具体的にその驚異的なロングセラーぶりを文章で読むとその秘密が知りたくなる。

まずはこの事実。2009年12月初旬、「女性対象の調査で、もっとも魅力的な香水の一位はシャネルNo.5」と世界に配信されたニュースが存在したということ、その調査で上位20位に名を連ねる香水のうち、シャネルNo.5以外すべてが1980年代以降につくられたものだということ。なぜ1921年(日本では大正時代後半)にデビューした香水が90年も愛され続けるのか。

原書房新刊案内 にはこの本の目次が一覧できる。私が特に興味深く読んだのは第一部。シャネルが10代から20代前半に経験した環境とその中で育んだ美的感受性(何かを美しいと感じる感受性)には深く共感した。このベースがあってこその「シャネルNo.5」であるとしたら、それは時代を超えて求められる女性美の一つの表現にもなっている。

女性の美しさ、好ましさには二つの理想像がある。清潔感を保つ清楚さと華やかな官能性。どちらか一方だけでは片手落ちだ。ココは香水を通じてそう教えてくれたように思う。

そしてもう一つ大切なことがある。人間の女性はあくまでも人間であり、女性である。いかに花が美しかろうと人は植物ではない。薔薇でもなくジャスミンでもない。これらの香料を使うとしたらそれぞれがもつイメージを、絹やカシミアのような素材として使うにすぎず、イメージを完成させるためのアーティフィシャルな要素も必要としたにちがいない。なぜならフレグランスは、女性が自分のイメージを表現するために「着る」ドレスなのだから。

この内容の監修者である調香師、新間美也さんのブログ「シャネルNo.5の秘密」(2011,4,14) には、監修者じきじきのご推奨のお言葉とともにこの本の写真もアップされている。シンプルに黒と白の装丁。



2011年6月18日土曜日

薔薇の香り付き切手・切手の博物館にて

「薔薇の切手 香りのイメージ展(切手の博物館)」を鑑賞してきました。世界中にはなんと薔薇模様の切手が多いことでしょう。いかに世界中で薔薇が愛されているかをまたも再認識。切手でチョットした薔薇文化史まで楽しめました。

タイ、インド、ドイツ、などの香りつき薔薇切手の香りも体感。ほんのり清楚な薔薇の香りが漂う切手なんて、送られた人にとって手紙そのものがかけがえのないプレゼントになりそうです。

中でも、タイの切手はまさに薔薇の花束さながらに清楚な薔薇の香りがついていました。タイでは2002年からバレンタインデーの時期にちなんで薔薇の切手が発行されているほど。バレンタインデーには日本では女性から男性にチョコレートを送る形式が主流ですが、タイでは男性から女性に薔薇の花を送るのだとか。タイの香りつき切手2種類を買うこともできたので早速入手。



オーストラリアやドイツの香りつき薔薇切手もありました。どれもほんのり優しく香っていました。切手によって微妙に香りは違いますが、共通しているのは清楚な印象です。



初めて香りつき切手がつくられたのは1955年、西ドイツにおいてだったそうです。そのときはハッカの香りだったとか。いまや紙への香料印刷技術も随分進歩しているようです。

切手は小さな絵画。印刷技術の進歩により、切手収集家の楽しみも増えたことでしょう。そもそも切手はなんと便利なものかと思います。この切手というものが初めてつくられたのはいつ、どこで?と想像してみました。……世界に先駆けての産業革命の国、イギリスで1840年。絵柄はビクトリア女王の横顔だったそうです。美しい絵柄だけではなく香りまで載せてしまう…まさに切手は時代を映す鏡であり、文化の象徴です。

2011年6月16日木曜日

THANN発日本デビュー3種の香りは、視覚的にも"Enigma"

3月のブログ「アジアの素材で世界に発信・THANN」でご紹介のブランドの新製品が、明日6月17日から日本の直営ショップでも発売されると関係者からうかがったのでご紹介したいと思う。これは、数種類の天然精油がイメージごとにブレンドされたもので、タイではすでに発売されており、本国サイト 中、"Pure Essential Oil ・Limited Edition" の表示を探していただければそのラインナップを見ることができる。

日本で発売されるのは3種類の香り。

1,Enigma ・ボトル外観は白地にピンクの縦ラインが1本。ユーカリ、ローズウッド、ゼラニウム、ローズ等のブレンド。リフレッシュしたいときやホルモンバランスを整えたいときに。

2,Woody Floral・ボトル外観は白地にライトブルーの縦ラインが2本。トロピカルなイランイランを中心に、スパイシーシトラス、ジュニパー、ベルガモット等がブレンドされ、心和ませる甘くフローラルな香り。ストレスを感じているときや、ゆったりと時間を過ごしたいときに。

3,Flower & Vanilla・ボトル外観は白地にネイビーブルーの縦ライン3本。甘いバニラとラベンダーがブレンドされ、甘くエキゾチックで気持ちを明るくさせる香り。優雅にリラックスしたいとき、緊張を和らげたいときに。

主に空間を香らせて、その中で過ごす人の気分に働きかけるためのプロダクト。その時々の求めるイメージでBGMを選ぶように香りを選んでみたくなる。

さて、1の香りの名前のみ、香調そのものを示すものになっていない。エニグマとは、英語enigma、仏語énigme。謎、謎めいた人、不可解なこと、暗号などの意味をもつ。なぜこれだけがこのネーミングなのかは、香りを体験してからのお楽しみということかもしれない。

そもそも、このラインナップのボトル&パッケージデザインそのものが暗号のようでもある。色と数字。それぞれに縦ラインの色があり、ラインの本数が違う。意味はないかもしれないし、あるかもしれない。自由に想像すればよい。

THANN店舗情報はこちら




2011年6月14日火曜日

香草ローズマリー&マージョラム・控えめで清涼感、多めでスパイシー


香草を生かす料理は色々あると想像しますが、特に肉料理が素晴らしいのです。肉をより美味しく頂くためには香草や胡椒などのスパイスは欠かせないものではないかと思います。以前、ご紹介した「茹で鷄で美しく」でも、肉を焼くときにローズマリーやマージョラムを多めにちぎって散らしながら焼くと、非常にパンチの効いたスパイシーな風味に仕上がります。今日は、水にさしてあるローズマリーとマージョラムからほんの数枚だけを拝借しての控えめ使用で焼いたところ、これらの香草自体の風味はさほど表には感じませんが、全体的に肉自体のくさみがあまり感じられない、爽やかな味になったと思います。

香草が生かドライかということも関係あるでしょう。ドライは水分がとばされて風味が凝縮されているので、生よりも少量でスパイシーさが感じられそうです。香草やスパイスの量はどんな食べ方をしたいかによって変えるもの、と改めて思いました。例えば、暑いときに作るカレーに少量生レモングラスの葉を刻んでいれたことがありますが、食べた人にはレモングラスの存在に気付かれず、「今日のカレーは生姜がきいて爽やかだね」と言われたこともありました。

香草をこんなふうに食事の中でも味わい、その豊かな香りを日常的に体感していると、香料に対する感受性が培われていくのでしょう。それら一つひとつの香料から感じられるイメージやキーワードがいつのまにか記憶に蓄積され、香りのイメージを言葉に置き換え、香りで様々なイメージを表現することに通じていけるのではないかと感じています。

ローズマリーやマージョラムから、ただ食べ物しかイメージできないのではなく、食べたときに感じる様々な印象を記憶に残していくと、様々な形容詞やストーリーが言葉として置き換えられ、そうした言葉のイメージを表現するときに香りを使うようになれたら面白いはずです。


2011年6月11日土曜日

スイートマージョラム・スパイシーな葉と可憐な花

マージョラム、英名Marjoram と呼ばれるこのシソ科植物は、スイート(Sweet) がつけられてスイートマージョラムと呼ばれることもあり、そのスパイシーでほのかに甘く香るハーブの特徴を想像させます。鑑賞用にも愛らしく、その上品なスパイシーな香りは料理にも使われます。










葉から水蒸気蒸留法で抽出された精油も、独特の深みの中に軽やかな甘さがあり趣きのある香りなのですが、今も多くの日本の人にはあまり知られていないハーブでもあるせいか、不慣れな違和感とともに警戒心ゆえに苦手感を示す人も少なくありませんでした。

そこで、私はこの植物に関しては精油の香りをいきなり鑑賞してもらうのではなく、まずはマージョラムの本物の生葉を見せて、その愛らしい卵形の小さな葉やいずれ多数の花をつける緑の蕾のような形をじっくり観察してもらう機会を設けるようにしています。見るだけでなく、葉をこすって自然の清々しい香りも体感してもらうのです。たったこれだけのことで、マージョラムが大好きになり自分で育て始めた学生もいました。彼はその後精油販売の仕事に就いたときいています。

私もスイートマージョラムの植物としての姿には毎回心を動かされます。一見動かないように見える華奢な植物が、光と水と空気の中で、確実にユックリと動き始めます。料理に使った残りのひょろっとした茎を水にさしておくと、日々少しずつ艶やかな緑となり、日のあたる方向を向いて、小さな小さな花を少しずつつけていくのです。









古代より料理に医療にと用いられてきたこのハーブ。私もこの精油を、疲労困憊したときの熟睡のために、または疲労と緊張でこわばった身体をゆるめ、温められる癒しを求めて用いることがよくあります。

1990年代後半、フランスの "JEAN COUTURIER"から発売された"MARJOLAINE"
というフレグランスに出会ったことを回想しています。トップノートにマージョラムの香料が使われていました。ピンクのパッケージに緑の文字というシンプルなパッケージそのままに、素朴なハーブの一面を生かした落ち着いたフローラルの香りでした。


2011年6月8日水曜日

香水のゴールデンルール・読後2


香水のゴールデンルール・読後1でご紹介した本の著者である新間美也さんに昨日お会いすることができました。国際香りと文化の会 における講演会「フランス香水事情 ~香りの嗜好と香りの流行をめぐって~」講師としてたっぷり90分間、様々な香水や貴重な合成香料の香り鑑賞とともに、興味深い内容をお話しいただきました。

調香師として、香りを愛する繊細さとともに、自分だけではなく第三者にもその世界を知って喜んでもらいたいという情熱と誠実さにあふれたお人柄。実際にお会いして深く実感できました。このような女性が、生まれ育った日本とは異なる国フランスを拠点とし、日本とフランスを頻繁に行き来されながら活動されていることを私は非常に嬉しく思います。改めて「香水のゴールデンルール」を永久保存版にしたいという思いが強まり、さらに多くの人にもお勧めしたいと感じています。

ご講演内容から私が特に共感できた部分を挙げ、*にコメントを記します。

1,日本人に大変好まれるレモンの香りが、フランス人のおよそ半分に好まれないという事実…最近発売されたフランスの某ブランド香水も軽やかで日本ではかなり人気があるようなのに、本国では「ちょっと物足りないね」の反応。


…ものを綺麗にするという用途で使われることの多いレモン。第一印象の鋭さとあいまって機能が最初にイメージされやすいですから、私もレモンの香りとしては嫌いではありませんがあえて意図的に周囲に香らせたり身に纏う香りとしては使わなかったなと回想。フランスではすでに生活の中で空間や食事のあらゆるところで香りを意識してふんだんに活用していますから、こういう反応が出てくるのもわかる気がします。逆に日本では、実際には香りが存在しても感じられるか感じられないかの微かさが好まれるというか、はっきり意識することが嫌悪に結びつくこともあるというか。レモンは明らかに食品として安全なイメージもあり安心感がありますし、揮発が早く鮮烈ながら後まで残らない軽やかさがあります。「クセがない」とか「後味スッキリ、キレがいい」などが褒め言葉として存在する日本ではレモンは愛されるのでしょう。

2,香水が、嗜好に深く関わるものだからこそ可能となる香水の選び方がある。フランスでも香水販売員に教育される、パーソナリティ(スタイル)からの香水の選び方。…文化を超えての活用も可能。


…この考え方は、香水に関する香りの専門用語を特に知らない方であっても、着るもの、身につけるもの全般において自分の見せ方や表現を考えている人にはわかりやすい目安になると思います。「自分はどんな立場でどんな場所で、いつ何をするために、どのような存在でありたいか。」この考えがハッキリ言える人であれば、それらのイメージに属する香りのカテゴリーから試していくことができるということです。自分の見せ方、ファッションに敏感な人から真っ先にフレグランスが好まれ愛好されるわけです。

そして改めて「香水のゴールデンルール」を読み返しました。第一印象で魅かれたパーソナリティのページはやはり、自分にあてはめても思い当たることが多く、これならば香水に詳しくない方にとっても選び方の指針になると納得できました。すでに香りの知識のある人は、「ノート(香調)で選ぶ」からも楽しめます。用語説明も調香師ならではの専門性が、日本とフランス両国の文化を知る新間さんならではの視点で磨かれ、わかりやすく表現されています。







2011年6月6日月曜日

フローラルハンドクリーム・薔薇と芍薬と桜…


フローラルハンドクリームトリオ。昨日ご紹介したロクシタンのピオニーのハンドクリームがこの中に含まれています。手に潤いと花の香り。素敵です。

そういえば一昨年の夏、ブルガリアに出かけたお土産に買ったのも薔薇の香りのハンドクリームでした。普段フレグランスを使うかどうかわからない女性にもこれなら大丈夫、とその優しい香り方を確かめてプレゼントしたら喜ばれました。

手先はちょうど腰のあたりに位置し、上下よく動きます。まさにふわりとさりげなく香らせるのにもピッタリかもしれません。その昔ヨーロッパの姫たちは手袋を花の香りで香らせたということです。艶やかでかぐわしい手肌に3種の花。
フレグランスではないけれど、自分へのお手入れが自然に自分の香りになっていくのも楽しいと思います。

おやすみ前、一日のリセットにもおすすめです。




2011年6月5日日曜日

すれ違ったのはパウダリー・フローラルの香り・ピオニー(ロクシタン)

昨日午後。一瞬ふわりと漂う甘い香りとすれ違い、視界をかすめたベリー系ピンクの色彩も気になって足を止めました。若い女性数名のつぶやく声も耳に。
「チョットなに?いい香りがするんだけど…」

振り返るとそこはロクシタンのお店。爽やかな印象とともに柔らかく香る甘い花のイメージそのままに、なだらかに丸みを帯びたボトルデザイン。幾重にも花びらが重なったようなふくよかさがピオニー(西洋シャクヤク)を象徴しているかのよう。新発売のこの香りの近くには、すでに若い女性がたくさん集まっていました。確かに彼女たちに似合いそう。

ロクシタン・ピオニー。夏に向けて甘い花の香り、香調はパウダリー・フローラル、と聴くとなんだか重いような気がするかもしれませんが、トップノートに使用されたベルガモットやグレープフルーツが爽やかで清楚なイメージも提供しているようです。

スプレー形式のオードトワレやオードパルファンでは量が多いなあという人にはオードトワレロールタッチという少量サイズの選択肢もあります。さらにフレグランスとしてよりも、まずはボディケアで香りを堪能してみたい人にはシャワークリームやボディミルクも。私ならこのボディミルクの残り香をまず手肌や足元で試してみるかも。

昨夜、ある女性からこんな質問を受けました。
「いつもふんわりいい香りのする素敵な女性の知人がいるのですが、彼女は香水は使っていないって言うんです。どういうことでしょうね。」
そこで、最近買ったばかりのルームフレグランスや、夕方にすれ違ったピオニーを思い浮かべながらこう答えました。
「もしかしたら、そもそも素敵な香りのする部屋で過ごしていたり、その香りが移った服を着ていたり、その女性がいい香りと思える 化粧品で身体や髪をケアしているのかもしれないですね。」



2011年6月3日金曜日

忘れ難い神秘性・ムスクという名の香料

香りを表現する言葉には、その源である香料そのものの名称が多く含まれ、その香料自体を知らない人にとっては、想像も理解もできないかもしれない。

ムスク。
私はこの動物由来の天然香料の名前を10代の頃からごく自然におぼえてしまった。某フレグランスの名前に使用されていたことからその言葉を知り、そのフレグランスにまつわる忘れ難い思い出から、香り自体を好ましい存在として記憶するに至った。そのときは本物の天然ムスクの香りを体感したわけではなかったが、この香りの言葉に対して私なりに記憶したイメージフレーズは「温もりのある人肌から優しく漂う甘さ」であり、自分の女性という性がうっすらと意識させられる力も感じていた。

ムスクという天然香料については、1989年に朝日選書から発行された「香りの世界をさぐる」(中村祥二 著)の中の著述が非常に興味深い。第二章「天然香料を求めて」の中で挙げられているのはバラとムスク。調香師である著者の専門的知識とともに、本物の天然ムスクを体感したときの様子も詳しく記されている。その中からムスクの基本知識を一部引用して*間にまとめてみる。


…ムスクは、雄の麝香鹿(ジャコウジカ)の香嚢(コウノウ)から得られる。麝香鹿は、中央アジアの山岳地帯に生息…香嚢は、雄の下腹部のへそと生殖器の間にある。雄は、香嚢の中央の小さな穴から出されるムスクと糞で定期的ににおいづけを行う。…英語のムスク"musk"は、元をたどればサンスクリット語のムスカ"muska"で本来は睾丸の意味。太古の人は睾丸と思ったようだがそうではなく、香嚢である。…ムスクは漢字では麝香。…この漢字は、鹿の放つ香りが矢を射るように遠くまでとぶ、ということを表している。…麝香の文字は中国最古の薬物書「神農本草経」の「上薬」に明記されている。…


ムスクが他の香料にも見られたように薬として用いられている歴史があるのも面白い。薬といえば貴重品。しかも自然界の動物由来となればなおのこと。

著者の中村氏によると、この極めて希少価値の高い天然のムスク(香嚢を切り取って乾燥させたもの)そのものには独特の獣臭があり決して快いとはいえないが、ごくわずかの量を香水に加えるだけで香りにコクや温かさ、セクシーさなどを与え、広がりのあるものに変えてしまうとのこと。

確かにムスクが使われたというフレグランスには長く持続する温かみのある優しさが感じられる。何日たってもどこか切ない位に残っている。花や葉など植物由来のものにはないものかもしれない。

以前はムスクのために多くの鹿が殺されていたが、人口飼育や香嚢を切り取らずに反復採取する方法も困難ながら研究されているとのこと。さらにムスクの主成分ムスコンの合成も可能となり、こちらも広く調香に用いられるようになったという。いかに人が素晴らしいものを求めた結果とはいえ、貴重な種の動物が絶滅しないことを祈りたい。

つい半年前、私も天然ムスク(乾燥した香嚢)を嗅がせて頂く機会を得た。もうずいぶん時間が経過したものと見られたが、知識で得ていた印象を裏切らない、深く複雑な生き物の香りだった。


参考文献:
「香りの世界をさぐる」中村祥ニ 著
朝日新聞社より朝日選書として1989年発刊



2011年6月2日木曜日

"EVASION"(気晴らし・開放) は今春デビューのルームフレグランス

仕事で八重洲まで出掛けた昨日、徒歩圏内の日本橋タカシマヤ4階・デザイナーズワールドの一角にある"アン・フォンテーヌ"を訪れました。ほんの気晴らしのつもり。買うか買わないかは別として、このブランドのブラウスであれば、私の体型(サイズ)に合うものが必ずあるという安心感があるのです。

以前、私のブログ「服と人と空間と」でご紹介したこのブランドは、身に付ける香水ではなく、空間を香らせるルームフレグランスとキャンドルを、数種類のバリエーションで展開しています。

「新しい香りなんです。いかがですか。」

手渡されたムエットから香ったのは、眩しい夏の光を象徴するような甘いフルーツの弾けるような明るさに、スッキリとした花と緑の陰影が漂う感じ。柔らかく残っていく香りはムスクかな?と思っていたら、やはりムスクは使用されているとのことでした。


EVASIONというその名の意味として、「開放」と説明されました。現実からの逃避、気晴らし、などの意味をもつフランス語です。そういう気分に浸りたいときに空間に香って欲しい感じ、確かに共感できました。確か2011春夏テーマは「半年先へ旅気分」で書いたように、リラクシングなムード満載の"Summer Story"。このイメージを背景にデビューしたようです。


今日は一日雨。外出せずしなければならないことも多い日。
でもEVASIONの香りがごく軽くふんわりと漂う中、穏やかにすごしています。

2011年6月1日水曜日

「東京のフレンチはうまい」の勘違い …から感じた味と香りの文化理解に必要なこと

本日午前零時にアップされた、日経ビジネスオンライン・新ローカリゼーションマップの最新記事ー「東京のフレンチはうまい」の勘違い フランスで成功した日本人シェフの軌跡ーを読み、深く共感。この記事はまずは今後海外でビジネスを展開しようと志す多くの日本人に読んでもらいたいと思った。

私は大学でフランス語を専攻したが、その動機は日本とは異なるフランスという国の文化を少しでも理解したいという思いだった。世界史を学ぶ過程で強烈に魅かれたこの国の理解は、言語の理解なくして有り得ないと感じたからである。

さらに短期間でもフランスで滞在し、その生活様式に浸る経験を持った。(フランスの家庭にホームステイさせて頂いた)パンの美味しいパリに来たのだからご飯なんて食べなくてもいいとさえ思うようになったこと、環境を変えて生活する、適応することで見えてくる文化があると感じたものだった。

こうした体験を通じ、フランス人の大切にしている価値観を頭で理解した上で、日本で生まれ育った感受性を振り返り、初めてその両者の違いや共通点、相互理解に必要な論理展開があるのではないかと思えた。

現在私は香りの文化をテーマに仕事をしている。そのような私の立場からも、この記事の文中至る所に共感できるところが多い。「料理」という言葉をそのまま「香りの文化」と置き換えたくなる。

たとえば、文中こんな言葉が登場する。
「料理人は農家の通訳なんです」
まさに。素材の素晴らしさを味で伝える料理人ならではの姿勢。
この言葉を私は
「アロマセラピストは植物の通訳なんです」
と置き換えたくなった。ひとつひとつの芳香植物の香りとその用いられ方、文化背景、活用法を伝える役割はまさに通訳かもしれない。そして植物の豊かな言葉を用いて芸術的な文学や音楽のような形に作り上げるのが調香師なのかもしれない。

味覚と嗅覚は深く関わりあい、感覚表現の難しさがよく指摘される。だからこそ、文化背景とその感じ方の違いを言語によって説明する論理展開は不可欠。自分の感性がイチバンなんて思うところからは何の進歩もない、それはそれ。かつての日本人が繊細な日本茶(緑茶)の日本人の感じ方にとらわれすぎて、世界市場でインドの紅茶に敗北した歴史も思い起こしつつ、持ち前の繊細な感性が文化理解と適合に生かされていくことを期待したい。