2013年10月31日木曜日

あの「イタリアのK」から新香水・Krizia Pour Femme and Krizia Pour Homme

かつて取材で初めて訪れたイタリアで
ひときわ印象的だったブランド、Krizia(クリッツィア)。
このロゴタイプと黒の組み合わせは鮮烈でした。

イタリア語のことは詳しくありませんが
フランス語ではKから始まる単語は少なくほとんどが外来語。
私にとっては強くインパクトのある文字であり
ブランド創業者は
あえてこの文字を冒頭に持ってきたのではと思うくらいでした。

Kriziaから90年代初頭に発売されていたフレグランスも
なんともユニークで、愛らしさとコケティシュな魅力に
あふれていたことを回想。

そして2014年の初めに新香水がデビューするというニュース。

New Fragrances
Krizia Pour Femme and Krizia Pour Homme
10/29/13 12:16:12
By: Sanja Pekic


過去に発売されていたものに比べ
Pour Femme(レディース)、Pour Homme(メンズ)というシンプルな名称を掲げていることから、ブランドイメージの原点を振り返って構築された印象。今年はフランスのブランド、カルヴェンでも同じようなアプローチがあったので、なんだか2013~2014年は本質回帰の時期として注目されているのかと感じます。

Krizia Pour Femme。
レモン、ベルガモット、ブラックカラントをブライトノートとしてトップに掲げ、
グリーンアップル、アプリコット、リリィ・オブ・ヴァレィのハートノートへ。
続いてサンダルウッド、ヴァニラ、ホワイトムスクとくれば最近のお決まりの組み合わせですが、ここにあの深い深いオークモスを加えているあたりが…
なんとなくKrizia。

Krizia Pour Homme。
こちらのトップはエナジーを感じさせるマンダリン、ベルガモット、ブラックペッパーのスプラッシュで始まるマスキュリンな魅力。続く調べはウッディなエレミ、スパイシーなナツメグ…シナモン…ラストにサンダルウッド・ヴァニラ・ホワイトムスクの組み合わせはレディースと共通するものの、イリスやセダー、トンカビーンで滑らかな大人の男性のエレガンスが表現されているかどうかが興味深いところです。

日本でも発売されるかどうかはわかりませんが
忘れたころに体験してみたい香りの一つ。

Kriziaの公式サイトはイタリア語または英語で読めます。
今覗いてみたら
音楽とともに2014春夏のショーを動画でみることができました。


2013年10月30日水曜日

18 visual works from 8 kinds of aromaー 文化学園大学 文化祭にて


いよいよ11月。文化祭シーズン到来です。

文化学園大学 第63回文化祭(11/2,3,4日・新都心キャンパス)

教科展示において、私が講師をつとめる「ファッションとアロマ」2012年度学生課題作品から8種類の香りのヴィジュアル作品が展示されます。
場所はC館5階です。

文化学園大学 小平キャンパスでの 6月開催けやき祭にて展示された内容が
11月は新宿の新都心キャンパスに展示されています。

昨年のようすと、この科目については
18 visual works from 12 kinds of aromaー 文化学園大学 けやき祭にての記事で説明しています。

今年は2012年度学生課題作品から
8種類の香りのヴィジュアル作品が展示されます。

オレンジスイート
レモングラス
フランキンセンス
ラヴェンダー
ローズオットー
ジャスミン
イランイラン
サンダルウッド

違う背景をもつ人それぞれ
香りから感じ取るイメージが違うということが
目で改めて確認できます。

想像力が捉えた形の多様性。

香りという抽象的なものを視覚表現する経験が
目に見えない時代の空気感を服に表現していこうとする
かれらのクリエイティビティに反映されていく…
そのような期待感を毎年実感しています。

2013年10月27日日曜日

隠されていたローズの魅力を引き出す・Marni Rose

ローズ。種類も多いし、含まれる香り成分も多種多様。
人によって「これがローズの香り」と感じるトーンが違っても致し方ない。
言い換えればローズの香りにはそれほど無限の魅力がある。

Marni Rose。
初秋に日本で発売されるというニュース記事をみかけてはいたが
改めてアメリカのFragranticaで確認。

New Fragrances
Marni Rose
10/18/13 06:14:38
By: Sanja Pekic


イタリアのファッションブランドから2作目のフレグランス。
スパイシーでダークなブルガリアンローズの魅力と
ウッディの調和が特徴らしい。
これは
ブルガリアのダマスクローズオットー
(ダマスクローズの花から水蒸気蒸留法によって得る精油)
ファンとしても魅かれる。

トップノートからカルダモンとミント。
どちらもローズの香りのある側面に共鳴する。
ミドルに薔薇とすみれ。
ラストにパチュリーとシダー、ヴァニラにホワイトムスクの温もり。
あたたかくて、清涼感があって、官能的。
複雑な薔薇の魅力が、他の香料とのハーモニーによって
解き明かされていくことを想像すると面白い。

2013年10月24日木曜日

香りを着る(3)肌に重ねてこそ

フレグランスは肌に重ねてこそ。

生きた人の皮膚に乗り
本来の皮膚の匂いと一体となり
体温で温められ
ゆっくりと衣服の間からこぼれるように
動きとともに香る。

その香り方が
さりげなくイメージを喚起させるものであるかどうか。
それが大切なのであって
ボトルからスプレーした試香紙の匂いだけでは
立体的な香り方は確認できません。

いわば、服を服として見ているだけでは
似合うかどうか最終的に確信できないのと同じこと。

服を着るときも
最初に下着、ブラウス、上着、というように重ねます。
香りの場合は、清潔な皮膚が前提というのがベスト。
最初につけるスキンケアローションやクリームが下地になるなら
その上に重ねるフレグランスは見えないドレス。
身につけてこそ美しく香るもの。

先日、
お菓子のような甘さを感じさせるボディクリームをいただき
私は足先に塗りました。
ウエスト周辺から手首に微量纏ったフレグランスは
フローラルウッディタイプのものでしたが
遠くからかすかに立ちのぼる甘い香りと穏やかに調和。
複数の香りのレイヤーで
深みのある香り方を楽しむことができたと思います。

私の場合は
纏っている香りがいくつかレイヤーになっているので
「なんていう香りをつけていますか」と聞かれても
答えられません。

纏っているフレグランスが
何というブランドの何という名前のものか、
ということなど
露呈される必要もなく
あくまでも纏う人の存在感が主役。


2013年10月23日水曜日

…苦さの果ての、そのつぎのよろこびを。『買えない味2 はっとする味』より

パラリと開いたページの一文だけで
一瞬笑顔になれた本。

「酸いも甘いも噛み分けたおとなであればあるほど、パセリの本懐を真正面からひるむことなく受け止める。だってちゃんと知っているのだもの。苦さの果てのそのつぎのよろこびを。」本文16p〜17p

本当に!
パセリの素晴らしさを知らないまま一生を終えるのはもったいない。
付け合わせのただの飾りだと見切ってしまうにはあまりにも残念。
私も…。
思い立って買ったパセリ1束を
ザクザク刻んでたっぷりとピラフに混ぜてみたことがあり
そのフレッシュな苦味の後に、これぞ緑きらめく香りのシャワー!
そんな香味体験を著者の文章から回想。

平松洋子 著『買えない味2 はっとする味』筑摩書房


思い立ってためしてみたらこんなに素敵だった…
そんな味や香りの体感あれこれが
リズミカルな音楽のように語られていく。
ところどころのカラー写真で気分もほっこり。

パセリに始まり、
ミント、胡椒…もちろんいわゆる香辛料だけではなく
あじわい深い魚の骨や卵、鰻…
わざわざ焼き網で焼くトーストの美味しさなど。

曇りのない感受性は
(特に貪欲な嗅覚は大切)
日常のほんのささやかなことに
はっとできるし
笑顔になれる。
その幸せに感謝したくなる一冊。

sillage(残り香)の洗練とimpact(衝撃)の強調

1980年代の流行がこのところ復活しているという話を聴く。
当時の人気ドラマが再編されて特別番組になったり
当時のアイドルが再び脚光を浴びるとか。

とはいえ今は2013年。
当時とは社会環境がまるで違う。
たとえば'80年代は
インターネットも携帯電話もメールも普及していなかった。

ツールが違えば行動は変わり、服装も変わる。
表面的なところだけを見ていても、今は今でしかない。
決して1980年代のファッションや髪型が
そのままリピートされているわけではない。
復活しているといえばあの頃にあった
〈華やかさへの熱い想い〉かもしれない。

ドラマティックでこれ見よがしなほど
インパクトの強い出来事にときめくような筋書きが
80年代の華やかさであるならば
淡々とした日常の中に光る小さな宝石のような喜びを
真摯にすくい上げ、より洗練させて輝かせようというのが
2013年の今、求められている華やかさかもしれない。

個人的に、80年代に大好きだったフレグランスをいくつか鑑賞し直す。
やっぱり香りとしては好きで素晴らしい、とは思う。
香りの系統としては今も好きなジャンルであることには変わらない。
でも、そのまま同じ香りを今の私が纏いたいとは思わない。

最近のフレグランスは強烈な個性が無いとか
軽くてつまらない、という声をきくこともあるが
もっと丁寧にラストノートまで肌で試し
sillage(残り香)まで確かめてみてほしい。
肌に残る香り方は優しく、清潔感を失っていない。
インパクトはあっても特定の香料の特性だけが
剥き出しになるようなラストノートにはなっていない。
20年以上前のフレグランスには
インパクトはあっても
残り香が生々し過ぎるものもあったことを憶えている。

こうした余韻の洗練が、
2013年ならではの〈華やかさへの熱い想い〉ととらえたい。


2013年10月20日日曜日

キアラ・マストロヤンニからヴァンサン・ランドンへの回想


18日の記事「Fendi L'Acquarossa・生命力と揺るぎない芯を秘めた赤」で注目したフランスの女優、キアラ・マストロヤンニ。

彼女の母はカトリーヌ・ドヌーヴ、父はマルチェロ・マストロヤンニ。
確かにその風貌、佇まいは二人を受け継いでいる。
内に秘めたような情熱の魅力。
現在41才という年齢を迎えて輝く彼女を2013年の今
Fendiが赤をテーマとしたフレグランスのミューズとした。
納得。そして嬉しい。

Fendi以外にも
キアラ・マストロヤンニの写真を
2013カンヌ国際映画祭の記事で見かけていた。
鮮やかな薔薇色の衣装。
写真の中で隣にいる男性は
フランスの名優(と私は思っている)、ヴァンサン・ランドン。
この二人、フランスで今夏公開されたばかりの映画『Les Salauds』
(英題『Basters』)で熱く共演している。

この映画については、東京国際映画祭プログラムディレクターの矢田部吉彦氏によるブログ(2013,5,22)の中で少し触れられている。日本で公開されるかどうかはわからない。

ヴァンサン・ランドン。
私は20代の頃、彼が初めて主演した映画『L'Etudiante』(1988 クロード・ピノトー監督)を観てその表情の豊かさに驚いた。
この人の眼差しや表情は、時に深いフランス語の台詞を見事に体現していたし
当時28才の彼が、少年のようなひたむきさと成熟した大人の優しさを香らせていたことも記憶に残っていた。
ゆるいようでありながら熱い情熱と行動力を秘めた
素敵なミュージシャンを演じた彼は
もう一人の主役、当時絶大な人気者であった22才のソフィー・マルソーに比べ
話題にする人は少なかったが、私は彼のほうに魅かれた。
彼はこの映画で
有望な若手男優に授与されるジャン・ギャバン賞を受賞。
50才を過ぎた現在も次々と話題作に出演している。

映画『L'Etudiante』の中でヴァンサン・ランドン演じる音楽家が
恋に落ちる瞬間に着ていたのは真っ白な雪に映える真っ赤なスキーウェア。
音楽機材に囲まれた自室で彼女を迎えるベッドも
彼女に会うためにパリの街並からフランスの高速を走らせる愛車も赤。

80年代後半ならではの音楽とファッションの中で
教員資格試験を控えた生真面目な大学生役のソフィーが好んで着るネイビーブルーとは対照的に彼が使う赤は引き立っていた。

赤を上手く生かす大人は素敵。
キアラ・マストロヤンニから
ヴァンサン・ランドンへの回想から改めて思う。

2013年10月18日金曜日

Fendi L’Acquarossa・生命力と揺るぎない芯を秘めた赤

赤のボトルと香りについて考えていたら
この秋の新作に目が留まった。

BEAUTY scene
Fendi L’Acquarossaby | on 3 Jul, 2013


イタリアのブランド。

直線によるシャープな形。
生き生きとした赤を縁取るブラック&ゴールド。
ながめるだけでもエナジーを感じる。

イメージヴィジュアルの女性がキアラ・マストロヤンニ。
この強く凛とした表情、
生命力がみなぎっている。
揺るぎない芯を秘めた女性。

トップノートにはイタリア産シトラス。
シチリアのマンダリンにカラブリアのベルガモットが使われている。
ミドルにはお決まりのローズやオレンジフラワー、マグノリアと共に
なんとあの鮮やかな色と繁殖力の強さが印象的なランタナが。
ランタナは
ランタナ・あの不思議な花の植物も香料になっていたに書いたように私自身、かなり驚かされた植物。
レッドシダー、ムスク、インドネシアの神秘的なパチュリー。
さてどんな香り?
来週日本でも発売されるとのこと。

2013年10月16日水曜日

赤という色・赤いボトルの香り・赤に感じるもの

6月に記憶をベースに、ヒトは五感で香りを感じるで取り上げたJohn Biebel氏による、色と香りに関する最新記事を発見。

Twin Perceptions Color and Scent: Fire
10/08/13 12:30:21
By: John Biebel


今回は鮮やかな紅葉や燃えるような炎の写真からもわかるように
赤系統の色がテーマ。

この色が、人にとってそもそもどんな意味を持つのか、
西洋、東洋での捉えられ方について、
そしてこの赤という色をテーマにしたフレグランス、
赤やオレンジ色をボトルカラーにしたフレグランスの紹介、
そしてそれらがこの色に込めた意味への考察へと続く。
非常に面白い。

今さらながら
自分と赤という色の付き合い方を振り返る。
まず
この色を鮮烈な印象を醸し出すバランスで眺めるのは好き。
眺めていると元気になってくる。

コムデギャルソンのように赤色で
スパイシー、ホットなイメージを打ち出している
フレグランスもあったけれど
自分はスパイシーなものを食べるのが好き。

そして
好奇心から魅かれたものに対しては結構熱い体質なので
このすでに熱い内面をクールダウンさせてバランスをとるような
例えば青、紫、白、黒などを
最近はよく着ているかもしれないと振り返る。
赤も着ないことはないけれど
なかなかグッとくる赤に出逢えない。

東西を問わず、赤は特別な立場の人や高貴な人が身につける色として
用いられている。そう!私にとっての赤のイメージはこれに近く、
言葉にするならば、〈奥深い神秘性〉。

そういえばと思い起こしたゲランのサムサラ。
これも深い赤のボトルだった。
サムサラとサンダルウッド

徒歩圏内で焼きたてフランスパン・墨繪

徒歩圏内に
長らく焼きたてフランスパンのお店がなかった。

パリに滞在していた頃大好きだったバゲットが
気軽に買えない、食べられない。
それは結構悲しいことであり
ちょっと遠出するたびに
美味しそうなパン屋を物色してはバゲットを買ってきていた。

台風で外出を控えようかと思っていた今日、
徒歩圏内に
焼きたての美味しいフランスパンのお店がオープン。

墨繪

オープン初日は行列。
焼きたてのゴーダチーズとローズマリーのパンや
マカダミアナッツが練りこまれた生地のイチジクパン。
どれも幸せな気分を呼ぶ香ばしいフランスパン。

墨繪というお店のWebサイト、
店主のごあいさつを読み
嬉しい気持ちに。

美味しいもので人を幸せにしたい、
特に忙しい女性が気軽に一人でも息抜きできるレストランを
つくりたいという思いの延長上に
この丁寧に焼かれたパンがあるかと思うと
2号店の場所として
私の徒歩圏内を選んでいただけたことに感謝。

2013年10月13日日曜日

西郷山公園の坂道と紅い実


渋谷から代官山へと歩いた。
通りかかった蔦屋書店。
人が多過ぎて
書物を選ぶには薄暗すぎて
早々に素通りしてしまう。

そして
緑の一角が見えたので立ち寄る。
西郷山公園

坂道が素敵だった。
高低差が描く陰影。




坂を降りると
秋の陽だまりにきらめく紅い実。
画像検索すると
これはどうやらバラ科のピラカンサのようだ。

眺めも空気も素晴らしく
リラックスできる場所だった。

満月まであと6日。
見上げると
木漏れ日の中に
うっすらと月の姿も。

2013年10月12日土曜日

Ma Griffe (1946)〜Vétiver(1957)〜Carven Le Parfum(2013)

日本調香技術普及協会 主催、第5回フレグランス香調トレンドセミナーを聴講。

今回紹介された8点の新作フレグランスは、いずれも柔らかな甘さとデリケートな優しさをたたえたものでした。清潔感、初々しい可愛らしさ。女性であることを楽しむ自由な気持ち…忙しい日々の中でもいつもささやかなエレガンスをまとっていたい女性、そして、初めてフレグランスを使おうとする若い女性に勧められるラインナップとしても随分参考になったと思います。

そんな8点の中で
特に私の記憶に響いた香りは
1945年、マダム カルヴェンによって創業されたオートクチュールブランド、
カルヴェンから今年発売されたCarven Le Parfum。

イメージヴィジュアルの女性さながらの柔らかな優美さが
一瞬のうちに心に染み込んでくるようです。
瞳をきらきらさせながら初々しく微笑むパリジェンヌを想像。

香りを吹き付けられてから7時間経過した試香紙に残る余韻を聴くと
第一印象で感じた穏やかな気品がさらに深みを増しています。

私はスイートピーの生花の香りが大好きなのですが
ミドルノートにこの香りが使われていると知りました。
さらにベースには滑らかに香るパチュリーや
金木犀のフルーティーフローラルな一面も確かに感じられました。

モダンでありながら
どこかクラシカルなエレガンス。
調香師であるフランシス・クルジャンが
このブランドの服作りの歴史をよく理解し
2009年からデザイナーとなったギヨーム・アンリの
構築的かつ華やかで高貴な印象を香りで表現したのでしょう。

このブランドの香りの歴史について
フランス語で書かれた記事を発見。

Les Flacons de Parfum.com
Carven


1946年のMa Griffe。
1957年のVétiver。
いずれもこのブランドを象徴する香りでした。

英語で記されたアメリカのWebサイト、Fragranticaの
Carven Le Parfum Carven for womenをチェックすると、新作はもちろん、上記2作がどのような香調であったかも確認できます。


2013年10月11日金曜日

少しの創意で"美"を生む心・芦田 淳 著『髭のそり残し』


何者であるか、ありたいか。
そんなことなど未知数だった10代の頃、
私が着る服は私の自由にはならず
母によって選ばれていたということを思い起こす。

17才のとき。
とある身内のお祝い事のパーティーのためにと
私にあつらえられたのは、ジュン・アシダのワンピースだった。
素顔の私の紅潮した頬のような薔薇色。
そのときの私にはピッタリの色だったのだろうと振り返る。
この服によって私は私を知り始めることになる。

芦田 淳 著『髭のそり残し』角川学芸出版

懐かしい記憶からこの新刊を手に取り、本日一読。
今年他界したばかりの私の父とそう変わらない年齢、
現在83才の芦田淳氏は
日常生活の中で
もっとこうしたらもっと素敵に幸せに、
という気持ちを大切に過ごされてきたことがよくわかる。
そして
このような心は生きている限り続く。
心映えの美しさに老いはない。

ほんの少しの創意があることで
人は笑顔になり
美しくなり
周囲を幸せにすることができる。
具体的なエピソードの数々。

髭のそり残し、というタイトルに
細やかさが滲み出ている。
服装を大切に考える姿勢と同じく
言葉の選び方、使い方を大切に考える人は
生きている限り、みずみずしさを失うことはないだろうと思う。

2013年10月9日水曜日

香りを着る(2)・フランス映画から感じたこと

とある映画の中で。
20代の男女が日常生活で交わすフランス語。
かなりスピードも早く、省略も多ければ流行り言葉もあるので
ネイティブでないとなかなか瞬時には聴き取れない。

しかしその行動は
時として言葉よりも多くの背景を感じさせてくれる。

たとえば初めてのデートのために出掛ける女性が
ポーチに真っ先に入れるものは、と観察すると
それは手鏡とフレグランスのアトマイザー。
プラス、迷いつつ歯ブラシを。
ファンデーションのコンパクトも口紅もマスカラも特に入れていない。

そして忙しい合間をぬってつかの間の逢瀬、
彼との待ち合わせの駅に着く
直前のTGVの化粧室で彼女がしたことは
リップクリームを指でつけること(冬のパリは乾燥がつらい)、
そしてフレグランスを
セーターの首もとから入れた手からウエスト方向へ2プッシュ。

ああやはり香りは欠かせない。

ところが、この映画の感想を書いた日本人のブログを読んでいて
ちょっと考えさせられてしまった。書き手は男性なのだが、
香りに対する文化的ギャップとはこういうことかと実感。
この人は、映画のヒロインが愛しい人に会う前に衣服の下に吹き付けたものを
「制汗剤」と書いていた。

…制汗剤?真冬にパリジェンヌがそんなもの使いますか!…

と一瞬目を疑うが
これは香水文化観の違い。
日本では、ニオイとは抑えられるべきものであり、
香りとして装うものであるという認識を持っている人は
フランスほど多くはないことを改めて実感。

制(マイナス)でゼロにするのではなく、
歯磨きやシャワーで清潔を最大限保った上での装い(プラス)であってこそ、
香りは、視覚的なメイクアップを凌ぐ魅力になるというのに。

香水評論家による秋の「香りスクール」/10月21日開催


香りの専門誌"PARFUM"167号(秋号)発刊にも記しましたが、9月末発売の雑誌『リシェス』に、香水評論家、平田幸子氏による香りの特集記事が掲載され、イメージごとに洗練された新作香水の数々が紹介されています。

洗練された美意識のもとで生み出された香りは
ほんの少し纏うだけでも
気分とともに笑顔や立ち居振る舞いまでも
優雅なものへと導いてくれるもの。

この特集記事のテーマを実際に香水を体感しながら掘り下げたい方、さらに、いわゆる名香とよばれた香水にまつわるエピソードについて興味を持っている方に楽しんでいただけそうなセミナーが10月21日、銀座にて開催されます。

詳しい情報はコチラに。

かわいた空気が心地よい秋は
風とともにさり気なくお気に入りの香りを纏っていただきたいと
思います。そんな香り選びの参考にもなることでしょう。

2013年10月8日火曜日

Zipooの新しいフレグランスは、年齢層の設定がユニーク

Zipoo。
ライターを思い起こす人が多いはず。
アメリカで1930年代に生まれたこのブランドは
煙草に火をつける道具を重要なアクセサリーとして
新しい価値を造った。

そのZIpooからは2010年からフレグランスもデビュー。
そして今年も新作のニュース。

New Fragrances
Zippo Fragrances: Zippo Stardust, Zippo Dresscode Black
10/07/13 03:55:20
By: Sandra Raičević Petrović


まずボトル。
まさにライターさながらのアクセサリー。

Zippo Dresscode Black は
自信とエレガンス漂わせる25才から50才までの男性のための
夜の香り。
スパイシーなウッディ。
ミドルにはジャスミン、ラベンダー、
ラストにはベンゾインも用いられ
官能的な優しさも想像。

一方、Zippo Stardust は
おとぎ話の世界を信じつつ
ロマンティックでドリーミングな感覚を大切に生きる
18才から36才のキュートな女性のためのフレグランス。
白バラ、クチナシの甘美なエレガンスに溶け込む
フルーティーな愛らしさ。

面白いのは具体的な年齢幅の設定。
男性は25才で築き始めたキャラクターが50才まで成長し続ける、と考えるのも
素敵であるし、女性の愛らしさは18才から開花し36才でひとつの完成に至る、と考えると、その先のステップが楽しみでもある。


Zippo Fragrance

2013年10月6日日曜日

OUDの奥深さがつややかに香る・メゾン フランシス クルジャンの黒ボトル

以前、香料OUDを用いたフレグランスのことをコチラの記事にて書いていましたが
この香料の奥深さがつややかに香るフレグランスと出会いました。

3時間前にひと吹きされた試香紙からは
東洋の神秘がフランスの官能的な感性によって洗練されたかのごとく
奥ゆかしい魅力が漂っています。

なめらかなパチュリーを深く感じました。
香料素材のクオリティの高さに加えて
現代的なデリケートな美の余韻。

メゾン フランシス クルジャン
MAISON FRANCIS KURKDJIAN
ウード オードパルファム


もはや女性、男性という区別を超越した
スパイシーでウッディなオリエンタルノート。

カシミヤ、ベルベット、シルクの質感にぴったりです。


緑を抜けて、21_21 DESIGN SIGHT

カラリとした空気。

清々しい秋の植物の香りを感じながら
ミッドタウン横の遊歩道を通って
21_21DESIGN SIGHT へ。安藤忠雄さんによる建築。


「カラーハンティング展」最終日。

これは空の色々。



朱鷺の羽の色々が飛び交う中
自然の中のさまざまな色々が再編集。



これは東京のイメージを一つの色で表すなら?という問いに
答えた来場者たちによって貼られたカラーチップの集合体。



実際の自然の中からさまざまな色々を採集し再編集する面白さと
抽象的なイメージを自由に色々に置き換えていく試み。
それは、香りの創造にも通じるクリエイション。

2013年10月5日土曜日

香りを着る

「香水をどのようにつけると他人に不快な印象を与えずにすみますか」
ときかれることが本当に多く、そうした質問自体がネガティブ前提で
あることがやや悲しい。

あくまでも主役は人、その身体、動き。
せっかく綺麗に着飾っていても
違和感のあるにおいを発していては台無し。

「無臭がいいんです」という人もいますが
人間は生きているので無臭ということはありえません。

社会の中で、服を着ないで裸でいることが難しいように
香りも着るものと考えた場合、注意することは主に3点。

1. 外側だけでなく、体内も清潔に
2. まず自分が不快感を感じず、
自分のイメージとして表現したい形容詞に合ったフレグランスを選択
3. 衣服に隠れ、体温高めで、動作とともに風を起こす部分の皮膚に
少量馴染ませる

1については
皮膚、頭皮、髪、口腔内を綺麗に保つだけでなく、
偏食せず、内臓機能を正常に保つことも大切。
日々の食べるもの、飲むものも体内を通ってにおいとして出ていきます。
服を着るときに、ボディがまず大切なのと同じこと。

2については
服を選ぶときと同じく
気候や体調・場所・会う人・時間帯・行動という条件の中で
存在する自分をイメージして言葉に置き換えられるならば
それを元に選ぶことも可能。

3については
香りをいかに
強すぎず、ほのかに
一瞬のイメージで描けるかということで
ヒトの敏感な嗅覚にうっすら届く
わかるヒトにだけ届く奥ゆかしさが望まれます。
皮膚と衣服の間の見えないドレスをさり気なく。

2013年10月3日木曜日

ヴェール・アシッドな葡萄色に感謝をこめて


山形産のシャインマスカット。




このプルンとした皮の中には白く透き通った果実。
種もなく爽やかな酸味と上品な甘味。

喉を通る瞬間にかすかに
皮のもつグリーンフルーティーな香りが
ほのかに優しく抜けていきました。

大きな一房を
四日間で大切にいただきました。

目と舌と鼻から幸せを有難う、と感謝。

この宝石のようにきらめく色に近いものを
フランスの伝統色から探しました。
Vert Acide(ヴェール・アシッド)。
私の現在のブログ背景の色にも似ています。

TOKUJIN YOSHIOKA _Crystallize ・東京都現代美術館にて


吉岡徳仁 クリスタライズ /東京都現代美術館が本日より開催。

昨夜、大盛況の内覧会にて鑑賞。

光や音が
カタチをもつ透明なものを媒体に
再視覚化され、カタチを持つようになる面白さ。




改めて
「見える」ということの本質が
全身で体感できます。

何故それはカタチを成したか。
何故それは色を映したか。

人間が五感を通して
外界の自然、たとえば空気の振動や光の屈折から受けるもの。
音楽であったり、色であったり。
時間の経過と反射物が媒体となって。

この広い空間全体でこそ見えるもの。

淡い蒸気ですら温度と風と色を描き
通りすぎる人間の動きによって一期一会のシーンを生む。
実は有機体である人間自体も
見えない匂いやエネルギーを空間に描きながら。

2013年10月2日水曜日

ハニーサックルの静寂感・ La collection 1920 (JARDIN DE FRANCE)より


JARDIN DE FRANCE より
La collection 1920 のクラシックなオーデコロン3種を試しました。


左からミュゲ。
爽やかなフローラルグリーン。
シャープなすずらんが明るくまろやかに変化。
元気で溌剌とした笑顔を想像します。

中央はラヴェンダー。
まさに涼やかなラヴェンダーの気品。ゆっくりとコクのあるウッディフローラルへ。これは大人の男性がさり気なく香らせると奥ゆかしいですね。

右端はハニーサックル。
トップから白い花たちのささやきにつつまれて
ハニーサックルが甘く静かに香ります。
可憐で清楚。
元気な笑顔というよりもあたたかい微笑。
私はこの香りと数日過ごし
いそがしいスケジュールの中で
心を静寂に保ち
穏やかな笑顔でいられたと思います。

20年以上前に香料素材として出会ったハニーサックルの
甘くフルーティーな香りを回想。

そのユニークな造形美が楽しめる写真と植物学的背景が記された
ページを発見。

Honeysuckle /Fragrantica