2011年12月31日土曜日

Styling with Fragrance 2011 ② (バッグとコートとハンカチと)

今春、今夏、今秋。
私を笑顔にしてくれた三つの方法。

春。
まだ寒い日曜日の朝。新幹線に乗り込む。
遅れた電車の影響で走ってホームへ。
息切れしそうになるくらい走った。
やっと席に座ったとき。
バッグから薔薇の香り。
ブルガリアのダマスクローズ。
香りを1滴含ませたコットンをバッグの内ポケットに
昨夜入れておいたことを忘れていた…
同時に自分の身体から体温ととも立ち上がる香水の香り。

夏。
盛夏でも正装。
ブラウスにスカート。
打ち合わせの場所に行くまでの電車。
乗り換える前にすでに汗。
次の電車を待つホームで折りたたんだハンカチを襟元へ。
ちょうどブラウスの襟に隠れるサイズと厚み。
ハンカチの真ん中に予め吹き付けられたフレグランスは
汗を吸いながら体温であたためられたハンカチの中を
ユックリとふんわりと通り過ぎ
清々しい風になった。

秋。
明日は初コートの日と決めた。
一度風に通す。
そして
フレグランスを吹き付けたコットンのセーターに
そのコートを羽織らせてハンガーに掛ける。
コートに裏地はないけれど
目に見えない暖かな香りのヴェール。

…この冬。
何度か素肌に着用した香水の香りが
いつのまにか
素肌からは遠いジャケットにうっすらと移っている。
忙しかった仕事の時間に着ていたはずなのに
残り香が華やかであることは嬉しかった。

2011年12月27日火曜日

Styling with Fragrance 2011 ①(髪と手帳と襟元と)

20数年前、知人に頼まれてフレグランスのセミナーを行ったことがありました。対象はデザイナーとして企業に勤める30代前後の女性の方々。視覚的にはファッショナブルでも香りは??という女性のために私が作った当時のレジュメタイトルが"Styling with Fragrance"。

今日そのレジュメを発掘して再読するに、昔も今も変わらない興味の対象を愛おしく思いつつ、今年2011年に特に私の気分を上げてくれた方法を三つご紹介しようと思います。

まずは髪。
すれ違ったときに、髪に揺れる動きが生まれます。この髪先に少しだけお気に入りのソリッドパフュームを馴染ませるのです。オードトワレを吹き付けたコットンやハンカチで軽くねじった髪先を包むようにしばらくおさえてもよいでしょう。(香水を髪に直接吹き付けると強く香りすぎるためおすすめしません)伸ばした髪先がバストの下あたりであれば、やや鼻からも程よく遠い距離。首の動きとともに空気が揺れて髪先から香ります。

手帳。
私の場合は、手のひらに収まるサイズのこちらでもご紹介のノート。このノートに今年もたくさんの名言や知恵、貴重な情報の数々を書き残すことができました。この中にはいつもお気に入りの香りを吹き付けたカードを挟んでいます。たとえば、自分の身体に直接纏うわけではなくても、手元からふわっとラストノートが香ると優雅な空気が流れそうなタイプ。打ち合わせのとき、自分だけでなく共に近くにいる方にとっても心地よく感じられるために。

襟元。
特にシャツブラウスの襟元のお手入れは大切。最も皮脂がつきやすくその皮脂が酸化したにおいがつきやすいところ。コチラ
でもご紹介したように薔薇の香りでふんわり洗い上げるのも良いですし、明日着る予定のクリーニングしたばかりのシャツの襟元に、ローズ、ラベンダー、ベルガモットなどの天然精油の香りを含ませたハンカチを細長く畳んで織り込んでおくのもグッド。ローズもラベンダーもベルガモットも、オーデコロンをはじめとする香りに使用される天然香料であり、精油自体に濃く強い色もありません。鼻に近い位置でも天然のシンプルな香りであれば、自分の清楚な笑顔の源になることでしょう。

2011年12月25日日曜日

クリスマスイヴに温かなトリオの響き(THE GLEE 神楽坂)

クリスマスイヴ。
神楽坂へ。
12月にオープンしたばかりのTHE GLEE は飯田橋から歩いても5分もかからない。



Christmas Eve Special 2011(AKIKO GRACE VOICE )
真新しいウッディな空間の中で、トリオの演奏はどんな風に響くだろう。


暖炉のある空間でボストン在住時代に音楽仲間とセッションしながら過ごしたクリスマスイヴを思い起こす…と語りしなやかにピアノからイヴの空気を映すAkiko Grace、5弦の大きなコントラヴァスを身体の一部のように駆使しながら深く熱い音を紡ぎ出すMasashi Kimura、2か月前にボストンから戻ったばかりのKazumi Ikenagaのリアルで有機的なリズムのドラムス…

シンプルなオレンジ・ブロッサムのカクテルとともに心温まる一時。

鍵盤とローズオットーで記された「ピアノ・アロマティーク」コンサートでご一緒して以来、私もAkiko Grace、そしてそのトリオのファン。移籍後初のライヴにてグレースさんにお会いし、ご挨拶できたことは何より嬉しい。

新しいAkiko Grace Official Homepage とともに、2012年も更なるご活躍を!



2011年12月24日土曜日

言葉を贈る

ひさしぶりに気持ちの良い朝。
クリスマス。世の人は何に感謝し、その気持ちを何で表現するだろうか。

今月に入り知人の誕生日が続いた。ほとんど会えていない知人には、「おめでとう」と言うだけでも十分に感じた。なぜなら自分の誕生日のとき、滅多に会えない人から一言そう言われるだけで、「その人は私を憶えていてくれた」という有難い情報を得たと感じたから。

普段からよく会っている知人に対しては?「おめでとう」だけではなく、普段自分がその人を見ているイメージからこれからも素敵であるように、という願いをこめたフレーズを贈ってみた。広義で深い意味も込め、あえて外国語で書いたりもした。

ここ数日目にした雑誌と新聞から私に響いたフレーズを列記してみたい。
再び眼にする自分と、この記事を読まれる方々への言葉の贈り物として。


樹々は寒くなると葉へ運ぶエネルギーを節約して、根を守る!枝葉は切り捨てるのでしょうか、自然は厳しいですね、人は自然に立ち向かうものです。それでこそ人間、文化は自然への抵抗なのです。/平田幸子
(12/20創刊40周年を迎えた香りの専門誌"PARFUM"編集後記より編集長の言葉)


ピアニストという職業はつらいし困難を伴うし、果てしなく練習を続けなければならない過酷なもの。偉大な作品と日々対峙していると、自分がいかに敗者かと思い知らされる。作品がいつも勝者だから。でも、そこであきらめずに模索を続けるという意味では勝者になり得ると思う。いい演奏をするために一生自己と闘い続ける。その挑戦がたまらなく、心が高揚する。
/1981年生まれのフランスのピアニスト、ダヴィット・フレイの言葉
(日本経済新聞12/22夕刊10面・音楽ジャーナリスト、伊藤よし子取材)


最後に、日経新聞12/20の書籍広告の中に私の知人でもあるフラメンコ舞踊家、鍵田真由美さんの名前を見つけて存在を知った本「美人伝心」(講談社)のPRコピーを一行。鍵田さんはこの本に自身の言葉をおさめた15名の1人である。

本当の美しさは、生き方から生まれる。

2011年12月23日金曜日

" Effluves androgynes "・性別はさておき人として魅力的か、匂いは語る

11月のフランス語講義でのこと。一人の中国人学生からこんな質問。
「先生、ゲイの人のことを説明するとき、名詞の性や所有形容詞はどう考えればよいのでしょうか。」

私が想像するに、対応としては三つある。学生にもそう伝えた。
1,名詞に性別などない英語を使う
2,生物学的な性別はともかく、自分はこの性と思いたい性で表現する
3,言葉はあくまでも言葉だから生物学的性別に従うのみ

この問答から発展して考えたのは、
性差の縛りから離れ、それでも人として魅力的であるということはどういうことかということ。改めて自分の人に対する感じ方を振り返る。初めて会う人、もしくは既知の人であっても今という瞬間に目の前にいる人に対して、外観から漂うオーラ、話し方や生きものとしての外向きな情熱の向け方に魅力を感じるかどうかが、その後のその人と自分の関係性に影響を与えていた。

どんなことを考え、どう生きているかというのは自ずと顔に刻まれ、体型にも反映される。何を美と感じるのかという意識はすべて外観とともにその人の匂いとしてオーラをかたちづくるのだ。これまで人と接してきて痛感する。

そこに男だから女だからという区切りはない。美に性差はないのだから。一個の生命体として魅きつけるオーラを携えているか。ただそれだけ。

Effluves androgynes…フランスの美容雑誌で見かけたフレーズの意味は、「男女両性の匂い」。おそらくはユニセックスの香りとして男女かかわらず使用できるフレグランスの紹介記事なのだろう。面白いのは"Effluve"(おもに複数形で使われ、におい、臭気、香り/ 文語として、精神的な息吹、輝き ー プチロワイヤル仏和辞典より)という名詞を使用していること。これは"Parfum"や"Arôme"のように芳香のみを示す言葉ではない。

人は、自分を鏡で観ながら、匂いをかぎながら、これぞ自分という表現を考えるとする。大概私の場合は鏡を観る前に身につけたものがいくつか省かれる。ただし、その気分の源には、第一の衣服として肌に直接身につけた香りが漂っている。他人にはわかっても自分でも気づけない、これまでの自分を表す表情や話し方の源には気分がある。その気分がオーラを作るとしたら、第一の衣服は単純に男性用か女性用かという尺度ではない美意識で選ばれたものであってほしい。

そうした意味で今年発売されたファッションブランドから発売されたフレグランスの中では、メゾンマルタンマルジェラの初フレグランスは気になる香りのひとつ。その他、彼も彼女も纏える上質感を提供するという、父娘という異性調香師ユニットで創作されたザ ディファレント カンパニーのピュア ヴァージン も見逃せない。

外観とともに、匂いは、その人を物語る。


2011年12月22日木曜日

創刊40周年 "PARFUM"160号発刊

香りの専門誌 "PARFUM" 160号が12月20日に発刊。1971年の創刊からちょうど40周年を迎えました。


記念日すべき40周年号には、1971年当時の表紙や誌面がアーカイブとして紹介されています。40年という継続性。それは常に変化する時勢の波に乗りながらも、揺るぎない軸を保ってきたという一つの証でもあります。香水をはじめとする香りの文化、芸術、映画、アートについてビジュアルイメージを大切にした誌面。日本では唯一の「香りの専門誌」です。

私はちょうど20年前、秋号と冬号の2回に渡り初めて寄稿しました。内容はフランスの雑誌記事を参考文献にした香水評論と、ミラノで出会った最新の香水との出逢いのエピソードでした。遡って創刊の年、ちょうど6才といえば私が香水に出逢った頃。偶然とは思いたくない縁を感じます。この雑誌に出逢い、香りのことをより深く知りたいと思った延長上にアロマテラピーとの出会いがあり、そんな背景があるからこそ現在の私の仕事が成立していると思うと感慨深いです。

160号誌面から、チョット気になる香水をいくつかご紹介しておきます。
パルファン ドルセー パリ。アルフレッド・ドルセー伯爵の感性で1830年に生まれた香水の美意識が受け継がれた香り。
ゲラン シャリマー パルファン イニシアル ロー オーデトワレ。来春発売予定とのことでゲランのPRマネージャーへのインタビュー記事が掲載されています。これはコチラ で書いたようにシャリマーファンとしては要チェック。
そして、イタリアのオロビアンコから二つの新しい香りがこの冬日本デビューするというのも嬉しいニュース…
寒い冬も香りのおかげでホットな気持ちを保てそうです。

2011年12月20日火曜日

甘酒は「ジャパニーズヨーグルト」?「飲む点滴」?

私の非常時を救ってくれた飲み物を改めて評価しています。
それは「甘酒」。新年の初詣の名物の一つでもあります。

このところ、ハードワークが続いていました。考えることと作業の多さが睡眠時間をかなり削っていたこともあるのでしょう。昨日午後から胃腸が不調。吐きそうで吐けない不快な状態が続いたので、少しずつ水をのみ、ひたすら腹式呼吸をゆっくりして気分を落ち着けて新幹線ではなんとか耐えたものの、品川に着いて山手線で降りた駅ホームの影で持っていたレジ袋に嘔吐。つわり以外に吐くなんてことめったにありません。誰にも気づかれず何も汚さずに済んだことは幸いでした。でも胃腸が弱っていることは明らかだったので帰宅後はすぐにシャワーを浴びて身体を温め早く眠れる体制に入りました。

何か食べようという気にはならないものの、何も食べないと衰弱していく感覚に襲われました。力が入らないし、寒気も増しています。そういえば自分の胃から出てきたものが入った袋を密封して持ち歩いていたとき、なんて中身が温かいのだろうと感動。こんなに外は寒いのに人間の内部はこんなにも温かい温度を保っている…それだけエネルギーを消耗しているということが容易に想像できました。何か栄養を胃腸に負担をかけずにとって体温も免疫力も維持しなければ…そう思ったときに思い起こしたのが、母が送ってくれていた山田養蜂場のれんげ米の甘酒。

れんげを有機肥料にする農法で育った米のみから昔ながらの製法でつくられ、上品な甘みと発酵による様々なビタミンが含まれる液状の甘酒なら飲めるだろう…その勘は的中。

昨夜につづき、今日もどうしても休めない大学講義のために出かけなくてはなりませんでしたが、その前にこの甘酒を一杯飲んでいっただけで夜まで倒れることなく仕事ができました。

かつて、発酵食品にはめっぽう詳しい小泉武夫氏の著書を何冊も読み、その中に甘酒がいかに江戸時代の夏バテ防止のために重宝したかというエピソードが書いてあったことも改めて思い起こします。
夏ばてに甘酒? 実は栄養ドリンク/南 恵子/ All about を見ると詳しく説明されています。

日本の知恵が生んだこの飲み物。素晴らしいです。発酵食品であり胃腸の調子を整えてくれるというメリットもありそうですし、なんといっても暑い江戸の夏の人の栄養補給に役立ったくらいです。「ジャパニーズヨーグルト」、「飲む点滴」として非常時にキープしておきたいと改めて思いました。


2011年12月18日日曜日

'80年代前半の映画から

かつて卒業した高校から名簿原稿の確認が届く。
15~18才の間。私は高校生活の思い出がほとんどないかわりに、この時期に映画館で観た映画の印象はよく憶えている。
何かの機会に映画から当時のことを思い起こすかもしれない。
そう思い、当時観た映画のタイトルで今憶えているものを挙げておこうと思った。観た映画全てを憶えている自信はない。しかし、観て後悔したものはないことだけは憶えている。

ベストフレンズ
四季
普通の人々
グロリア
テス
ラ・ブーム
フェーム
殺しのドレス
白いドレスの女
ある日どこかで
コンペティション
9 to 5
ザナドゥ
レイダース/失われたアーク
007ユア アイズ オンリー
炎のランナー
レッズ
E.T.
愛と青春の旅立ち
ブレードランナー
ポルターガイスト
キャット・ピープル
黄昏

…今のようにビデオレンタルという手段もなく、観たければ映画館に行くしかなかった。当時「スクリーン」や「ロードショー」といった雑誌を兄が購読しており、情報を得ようとしたらそこそこあったのかもしれないが、世間の評判など気にせず、何となく観たいものを観ていたのだと思う。

上記の映画のうち、音楽が今も記憶に焼きついているものの一つがピアノコンペティションをテーマとした「コンペティション」のエンディングに流れたランディ・クロフォードの"People alone"。懐かしく思い起こし、調べてみたらその年のアカデミー歌曲賞にノミネートされていた。
「ベストフレンズ」ではジャクリーン・ビセットの影のある官能性に強く魅かれた。クリストファー・リーヴといえば「スーパーマン」を思い起こす人も多いかもしれないが私は「ある日どこかで」。「テス」の衣装もさることながらナスターシャ・キンスキーの女神的容姿に感動した私はその後も「キャット・ピープル」などを観てしまうことになる。
「ラ・ブーム」で見たリセに通うパリの女の子の日常。日本の、しかも地方の修学旅行もないお堅い進学校に通う同年代の自分とはあまりにも違うライフスタイルの存在を実感。後にソフィー・マルソーは同じ監督によって「スチューデント」(L'Étudiante)という映画でも主演しているがこの映画での彼女が私は特に忘れられずフランス語の台本ブックまで買ったほどだった。

高校の会報誌に一度私の文章が掲載されたことがあった。二年生のとき。タイトルは「映画 炎のランナーを観て」だったと思う。この映画によって私はまだ訪れたことのないイギリスという国を想像し、その印象を強くしたことだけは今も憶えている。







2011年12月15日木曜日

音楽の国だから…イタリア人が歌舞伎を鑑賞するとき

昨夕、文化学園大学新都心キャンパスにて、平成23年度服飾文化特別講演会「歌舞伎 その色彩とデザイン」を聴講。講師は、松竹株式会社 執行役員 演劇製作部担当の岡崎哲也氏。

楽しい90分だった。岡崎氏の流暢な語りと映像で、歌舞伎を鑑賞している自分を想像できた。さまざまな舞台設営の意味、上方と江戸のセンスの違い、衣装の色彩にこめられた人物の心情や背景などいずれも興味深いものであったが、講演後、海外での歌舞伎の反応に関して質問した人への回答の中で岡崎氏が明かしたエピソードが私にとってはタイムリーに印象的。


イタリア人は同時通訳を耳で聴くのを拒否。「我々の国は音楽の国だから、イヤホンで片耳をふさぐことなどできない」と。そこで舞台上部のイタリア語字幕に頼るしかないのですが、その字幕に関しても「文章はできる限り短く」と注文がつきました。逐語訳などもってのほかということで簡略に伝えなくてはなりませんでした。


「音楽の国だから」。
なるほどそういう言い訳もあったのだと素直に納得。
実は先日私も、外国人による某講演会で同時通訳がきけるイヤホンを渡されたがつける気にならなかった。耳を片方塞がれただけで感度がかなり落ちるような気がするのと、たとえ聞き取れない言葉や意味のわからない言葉を発せられたとしても両方の耳で聴き、目で見て、空気感全体を五感で感知しているとそれなりに伝わってくることがある。概略は目で読める資料もあったのでなおさら。講演会ですらそうなのだから、オペラ同様、歌舞伎に対しては伝わってくる音の世界も純粋に楽しみたい気持ちはよくわかる。

「字幕の文章はできる限り少なく」。
これも然り。とかく異文化圏の人に対して日本人は日本独自の文化を細やかに丁寧にわかってもらおうと押し付け気味な傾向を感じることが多々ある。でもそんなこと、最初から先方は望んでいない。歌舞伎という芸能をまずは楽しみたい。彼らの慣れ親しんできた文化の文脈(コンテクスト)に沿って。楽しんで感激してハッピーになって初めてその先を知りたいと思うだろう。詳細を説明するのはそれからでよいのだ。


2011年12月14日水曜日

薔薇の香りの言葉を読んで・ローズウォーターの音色から

前回のブログ の中で、調香師ジャン=クロード・エレナの言葉を引用し、「香りは言葉」であるという考え方を記した。その素材としての意味を理解して表現に生かすものという考え方。

今年後半、そんな考え方を改めて強く思い起こすフレグランスに遭遇した。
ゲランのイディール・サブリーム。
フレグランスとしては初めて、天然ローズを蒸留して得られるローズの精油と、同じく蒸留によって同時に得られるローズウォーターを合わせて使用されているという。非常にフレッシュで繊細なフローラルの香りが実現したであろうことは海外のこちらのサイト文章やCM画像からもよく伝わってくる。
Idylle Eau sublime(Guelain)-new perfume review-1000 fragrances

私にとって、ブルガリアのダマスクローズの香りはさまざまな意味を持つ。
精油であるローズオットーは、「花を必死で守る緑の苦味」「蜂蜜様の甘さ」「ベリー系フルーツの甘さ」「複雑な陰影」「花を育てた土のあたたかみ」…
とにかく辞書をひくとたくさんの意味が並ぶ単語のごとく、その言葉の意味はひとことでは言えない。
ローズウォーター。この香りの言葉もたくさん挙げられるが筆頭は「フレッシュグリーン」。そして、ローズオットーとローズウォーターが組み合わせられると、青空にきらめくように咲くダマスクローズの一瞬の香りがよりリアルに想像できる気がする。

そんなことを考えていた矢先、来春デビューのフレグランスにもローズウォーターが使用されたとのニュース。

クロエ(CHLOÉ)より、春のそよ風のようにさわやかな新フレグランスが2012年3月に登場/ Fashion Press

ボトルはフレッシュグリーン。
春のそよ風。ローズウォーターの音色から、どんな風が流れるのか。

2011年12月11日日曜日

ジャン=クロード・エレナ 調香師日記(原書房)

ジャン=クロード・エレナ調香師日記。
原書房 近刊案内 にて紹介されている。

エルメスの専属調香師にして、"THE DIFFERENT COMPANY "(今年秋の新作はこちらOPENERS記事より )においてもラグジュアリーな香りを提供し続けている調香師による新たな著書。

昨年の今頃も白水社クセジュ文庫から「香水ー香りの秘密と調香師の技」が発刊され、すぐに入手した私は非常に興味深く読んだ。一度ならず何度も読み、特に印象的な文章はメモしていた。これからも繰り返し読むつもりだ。そんな本にはそうそう出逢えるものではない。以前もこのように情熱を傾けて読んだ本があったことを思い起こす。それは同じく調香師エドモン・ルドニッカによる著書「香りの創造」であった。後からわかったことであるが、エドモン・ルドニッカはジャン=クロード・エレナの尊敬する人物であったという。

「香水ー香りの秘密と調香師の技」の冒頭、「はじめに」の中でジャン=クロード・エレナが述べている次の文章は、私が真っ先にメモをとったものである。

…重要なのは、素材がいい匂いかどうかではない。素材はことばのようなものだからだ。素材ということばのおかげで、ひとつの物語を語ることができる。香水には、それ自身の構文と文法がある。私の鼻は、その構文と文法を検査する道具にすぎない。…

そのとおり、と感じた。色自体に綺麗かそうでないかがあるわけではないように、香りもそれ自体はひとつの情報にすぎない。組み合わせ方や、背景との関係性において様々な解釈をもたれるにすぎない。ずっとそう思ってきた。だから香料を鑑賞するときには個人的に良い香りと感じる感情的な印象はさておき、その香りが発する特徴、意味を理解することに専心してきた。

香りは言葉である。その考え方には共感する。

そうした意味において新刊の調香師日記を読むのが楽しみだ。香りで文学を紡ぐ調香師が、文章でどのような香りを感じさせてくれるのかと。



2011年12月10日土曜日

満月の日に・特別な形でこそ感じたい今年の薔薇の香り

本日は満月。双子座にて。しかも皆既月食というタイミング。
この特別な日に、特別なものをご紹介したいと思います。

ちょうど半年前。双子座で新月を迎えていた6月の初め頃。
ブルガリアの「バラの谷」では、今年のダマスクローズの収穫を祝ってバラ祭りが開催されていました。紀元前の昔からその香りを人に愛され続けてきたオールドローズの一種、ダマスクローズの花から得られる天然精油は、今日も世界中の調香師から天然香料としての高い評価を得ています。

ローズオットーは日本におけるアロマテラピーの発展に伴い、使用精油のラインナップにも加わりましたが、ラヴェンダーなどに比べて収率が極めて低いことや手間のかかり方も関係して、同じ精油用遮光瓶に入れられた外観でも価格が圧倒的に高価。その奥深い香りの魅力とともにリラクセーション効果も抜群なのですが、アロマテラピー愛好者にはなかなかその特別な価値は伝わりにくかったことでしょう。

3年前の日本&ブルガリア外交復興50周年の夏からスタートしたブランド、パレチカ では、
その年に収穫されたダマスクローズから得られたローズオットー、つまりローズ・ヌーヴォーを欲しい方への限定数販売という形式にて提供しています。そのボトル外観がこちら。


希少価値の高い特別な天然香料だからこそ、特別な形のボトルにて。
2011年のローズ・ヌーヴォー

今年はトライアル用・携帯用としてミニサイズの遮光瓶タイプも販売されていますが、この宝石のようにきらめくダマスクローズさながらの形、ピンクのクリスタルボトルに人気が高いようです。底面には収穫年の刻印、フレッシュさを保つ窒素充填もなされています。

2010年2月のコンサートにてこのローズ・ヌーヴォーの香りをピアノで音楽にしてくださったアキコ・グレース さんが昨年もこの香りを楽しんでくださったことを2010,11月のブログ、ヌーヴォーの香りを聴いてを読み返しながら思い起こしています。

咲いて散ってしまうままであったなら、半年後には感じられなかったはずの香り。それが現地の人びとが長年に渡り築いた技術によって、香り成分が凝縮された液体となって遠い異国の私たちが楽しむことができる…このボトルを眺めるたびにその特別感に改めて感謝しています。

2011年12月9日金曜日

キャラウェイ入りのパンとチーズで

ここ2日ほど、いわゆるランチタイムに食事をとっていない。
ちょうどその時間は仕事中。

午後3時過ぎ。
お腹が空いてくるのにあわせて軽食。
キャラウェイシードの入ったライ麦パンとチーズを。
この組み合わせで意外な満足感。

キャラウェイ。
まずはほのかな甘さ。
甘さが苦味に追いかけられ…その時間差にスパイシーな刺激を感じる。
つぶつぶしたシードの感触もパンに合う。
そして少し酸味のきいた食べ物、チーズにもよく合う。
この個性はさまざまな肉料理にも合いそう、特に羊肉に合わせると何か相乗効果が生まれそうな…とイメージ。

キャラウェイはセリ科の植物。どことなくコリアンダーやクミンを想起させたのは同じセリ科ゆえかもしれない。いずれも加温性を感じるスパイス。ここ数日の寒さで身体が求めたのだろうか。

スパイスのおかげで、人は
「生きるために食べる」から
「食べるためにも生きたい」になったのかもしれない。
ちらりと大航海時代の香辛料貿易が頭によぎる。

2011年12月7日水曜日

鏡と香水・見えているものとこれから見たいもの

ファッション。装う表現。この言葉の意味を改めて考える機会を持った。

思い起こしたのは、こんなフレーズ。
「私(あなた)は誰?鏡で見えるその姿はこれから一生私の想われ人。」
「今日の私は昨日の私とは違う。会う人も行く場所も違うのだから。」

こんな頭の中での問いかけを、私は香水と出逢った6才の頃から続けているような気がする。現実の鏡で見えた姿に、香水の香りから想像した未来の姿を重ねた懐かしい回想。

鏡で見える人物を最初から自分、と幼少期の私に当たり前には思えなかった。「私は誰?」ではなく、「あなたは誰?」というのが正直な第一印象。
想われ人。Lover、恋人と言ってしまってもよいけれど、もっと本質的な意味を伝えたいのであえてこう呼ぶ。想わずには生きられない。
そして、鏡で見える顔の表情が毎日違うのだからいつも同じわけがない。
鏡は見えているものから色々なことを教えてくれる。そして鏡では見えない未来の自分の姿を喚起させるために香りを第一の衣服として身につける。


…こんなことをあえて文字にしたくなったきっかけは、ファッションとは、飾ることではなく、そぎ落としていくこと(中野香織オフィシャルブログ/2011,12,6)にてご紹介のトークイベント特別講義。

デザイナーからテーラーとなられた信國太志さんのこれまでの歩みや考え方に聴き入り、信國さんがかつてタケオ キクチで手がけられたショーの動画を観客になったつもりでイマジネーションを膨らませながら鑑賞。…これも絶妙な質問とフォローで繋ぐ中野さんの采配のおかげ。改めて感謝。

強烈に魅かれるものとの、本音本気の対峙を経てからでないとわからないことはたくさんある。これこそ宝。本能を駆使しない時間から何かを得ようと思っても無理…。信國さんのこれまでのヒストリーを聴き、自分の回想と参照してもこれは真実であると確信した。

鏡と香水は、「見えているもの」とこれから「見たいもの」を私に気づかせてくれた。特に香水は大人になってからの私の仕事の重要なテーマ。本音本気の対峙の繰り返し。香水を深く知りたいがためにアロマテラピーまで学んでしまった私は、確かに魅かれるものに導かれている。

2011年12月5日月曜日

ローズとパチュリとベチバーと

ローズとパチュリとベチバー。
私の好きな精油(天然香料)3種。

これらをそれぞれ1%に希釈し、別々のスプレーボトルに。
まずは無水エタノールで溶かし、その上で精製水を加えたもの。

精油原液よりもはるかにさりげなく、柔らかく、
空気になじむように優しく香ります。

3本はそれぞれ単体でも十分優雅な空気を拡げてくれます。
華やかな気品を漂わせるローズ。
エキゾチックな音楽が聞こえてきそうなパチュリ。
オリエンタルの風がそよぐようなベチバー。

時にはこんな組み合わせ。
パチュリ1ふき後に追いかけるようにローズを2ふき。
ベチバー1ふき後に追いかけるようにローズを2ふき。
パチュリとベチバーをほぼ同時に1ふき。
空中でさまざまなブレンドを楽しめます。
3つの楽器が奏でるハーモニーのように。

たとえば、極上の眠りのために。
やわらかな天然のスリーピングフレグランスとして。

たとえば、とっておきの読書のために。
時間と空間を越えるイマジネーションの世界へ。


2011年12月4日日曜日

初雪草

北海道では雪の日々が続いているらしい。
先ほどFacebookにて、木の枝に積もった雪のふんわりとした形がまるで白熊のように見えてしまう写真を目撃。何とも愛らしい雪の一面ではあるが、私も北陸の雪国育ちなので、この雪で始まる冬の厳しさがどんなものか…少しは記憶が残っている。

初雪草。


初雪草(はつゆきそう)という名前のこの植物は、あの、クリスマスを彩るポインセチアと同じくトウダイグサ科の仲間。葉がうっすらと雪を被ったかのような白い縁どりに覆われる。

実はこの植物を私が撮影したのは夏。
場所はこちらのブログでご紹介した札幌の羊ヶ丘展望台。クラーク博士の像の後ろのほうに生育していた。ひと目見て好きになり撮影したあの日は確か2011年8月18日。この写真を本当の冬がきたときに眺めたい、と思いながら。

2011年12月3日土曜日

音楽から衣装をイメージする・「くるみ割り人形」

クリスマスが近づくと、思い起こす音楽がある。
しんと静かな冷気の中を歩いているときなど、不意に頭の中で鳴り始める…
チャイコフスキーの「くるみ割り人形」。

有名なバレエ音楽。そもそもこれは童話の世界から生まれた。
この音楽からどのような視覚表現が生まれるのか、とイメージするのが楽しみなイベントが1週間後に開催。

12/9(金)・12/10(土)国際ファッション文化学科卒業イベントを開催 / 文化学園大学 現代文化学部 / 2011,11,30更新

メインで出演する国際ファッション文化学科4年生の中には、昨年または今年の私の講義受講生もいる。

2007年から始まったこの大学のパフォーミングアーツイベント。女子大のイベントでは男性演者の登場が新鮮だった「夏の夜の夢」、女性マジシャンの登場による華やかなオープニングで始まった「不思議の国のアリス」をはじめ、「青い鳥」、「オズの魔法使い」などこれまではどちらかというとそのストーリーのほうに先行記憶があったものばかりだった。でも今年の「くるみ割り人形」は、私にとって先行するイメージは音楽。

舞台を眺めながらあの音楽が頭の中で共鳴する日まで、自由に想像を膨らましていきたい。

2011年12月1日木曜日

かつて魅かれたヴィジュアルと香り・シャリマー(ゲラン)

今日から12月。
ひときわ冷たい風と雨。
今期いちばんの寒さを感じた。

昔の雑誌を眺めていたら、
かつて魅かれたヴィジュアルと香り。
この香りを思い浮かべるだけで身体があたたかくなる。



忘れもしないゲランのシャリマー。
シャリマーとはサンスクリット語で「愛の殿堂」を意味する。

あたたかく、なめらかで、魅惑的。
場所も時間も超越するかのような陶酔感をおぼえた一瞬。
そんな印象をこの広告はよく表現していると思う。
(上記広告ページは"VOTRE BEAUTÉ / novembre 1991"より)

シャリマーは1925年のパリでの装飾美術工芸展(アールデコ展)において、レイモンド・ゲランによるデザインのバカラクリスタル製ボトルにてデビュー。そのかたちはまるでコウモリのよう。アンティークの銀食器から思いついたという蓋がついた、噴水を模したボトルデザインは展覧会で1位を獲得。
(フォトグラフィー 香水の歴史/ 著者 ロジャ・ダブ/原書房 より)

迷える20代の頃、香りを試した直後に私が迷わず入手したのは、ゲランの数ある名香の中でもサムサラとシャリマーのみ。いずれも冬の始まりを感じた日のことだった。