2011年3月31日木曜日

最近受けた二つの質問に答えて

今月受けた二つの質問に対してお答えしてみようと思います。

1,精神的に落ち込んで体調にも影響が出ている大切な人に、香りで何かしてあげられないか。(その人Aさんは質問者の近くにはおらず遠く離れている。)

香り自体はリラックスやリフレッシュなど、心地よい感触を与えることができるものです。元来香りを愛好する習慣のある人であれば、好みをきいてアレンジすることできるかもしれません。
しかしながら、Aさんが香りに親しむことが好きであるかどうか、色々な種類や強さの香りを否定的にだけでなく肯定的に感受できた体験をもつかどうかにもよります。あまり乗り気でないのに押し付けられたような感覚をもたれると逆効果となることもあるでしょう。
そのような場合、「香りを故意に使う」ということを知らせずにさりげなく微弱に空間を香らせ、「なんとなくいい香りがするね」「なんだか気分がいいね」とまず香りで肯定的な体験をしていただくことができると、もっと積極的に楽しもうというきっかけになるかもしれません。
Aさんと同居されている人にさりげなくAさんのにおいに対する好みを聞き出し、好みに近い香りの精油を1%程度に無水エタノールと精製水で希釈したエアフレッシュナーを送ります。それを玄関やAさんの寝室などにスプレーして頂き、ほのかに香らせて反応を観察してみることからトライするのもいいかもしれません。
ただ、香りを用いること以前に不可欠なことがあります。Aさんを大切に思う気持ちをまめに言葉と態度で伝え、できるだけ受け身でAさんの話の聞き役となりすこしでも安心して頂くことです。これは、実際に香りを用いてリラクセーションを提供するアロマセラピストの基本的な心得の一つでもあります。


2,加齢臭が気になる年齢ですが、対策はないのでしょうか。

質問された方のお悩みがいわゆる加齢臭であるのかどうかについて、私には厳密に判別できませんので、体臭対応としてお答えします。
皮脂が酸化したにおいを防ぐには、分泌された皮脂を長時間放置しないことが先決であると私は考えます。洗い流す、消臭効果のあるもので拭き取るなど。まめにシャワーや入浴で身体を清潔にし、常に(汗ジミのない)清潔な衣類を身に付けるようにします。特に皮脂分泌の多い頭皮、顔、脇の下、耳まわりから首、背中にかけては勿論、常に汗をかく足は指の間まで良く洗います。無香よりもほのかに微香のある石鹸やシャンプーを使ったほうが洗ったときのリフレッシュ感が違います。自分でもニオイが気になるようであれば、一日の活動を終えた夜だけでなく、一晩の発汗も考慮して朝もシャワーで洗うと良いですね。(夏は必須)
それでも気になるようであれば、銀イオンの殺菌消臭効果を用いた制汗剤なども効果があるようなので試してみると良いでしょう。
なお、上記は一般論としての回答です。厳密に言えば個々でにおいの感じ方、体質、食生活、ライフスタイルが異なります。その上で何が実際に気になるのか、単に予防したいのか、既に困っているのかなどを確認してはじめてそれぞれのケースにふさわしい方向性が示せるのではないかと思われます。



調香師の訓練が示すもの・嗅覚の大切さ

MODE PRESS 2011,3,25『調香師の「飛び抜けた嗅覚」は訓練の賜物、 仏研究』 を非常に興味深く読む。改めて嗅覚を鍛えることの面白さと意義を感じさせる。

特に記事の5段落目。脳内スキャン観察の結果わかったという内容が興味深い。
「…訓練を続けるうちに、嗅覚を機能させる脳内活動が、意識的な活動をつかさどる部分から、呼吸や嚥下など自動的身体機能をつかさどる領域に徐々に移動していくことも明らかになった。」

調香師ではないが、私自身にも確かに思い当たることがある。
20代以降香水やアロマテラピーの仕事に関わる中で日常的に香料を嗅ぐ機会が増えたことによりそれ以前に比較して幾つかの変化を感じていた。列記する。

1.体調を以前より自覚して行動できるようになった。(過労で倒れる前に休む)
2,その時毎に身体が求める食事と量が感じられるようになった。(必要以上に食べない。食べたくなったものがその時の身体に必要な栄養素であることが多い)
3,自分が好感をおぼえるものに対してと、避けたくなるものに対しての反応や行動に迷いがなくなった。(そういう感覚が感情に左右されることにも気付いた)

さらに私は大学講義の中で、ファッションを専攻する学生に様々な香料を嗅ぐ体験を背景に香りのイメージを視覚化表現する課題を課しているが、毎年学生からは「最初は難しいと感じたが、取り組んでいくうちに面白くなって最終的にとても楽しい経験になったと思う。またこういう取り組みをしたい。」と言われる。表現者として刺激になったという声が多い。昨年プロのピアニストに香りを音楽表現していただくコンサートを実施した時も、ピアニスト自身から「この試みの中で、頭の中で眠っているある部分を起こされたような感覚を覚えました」とコメントをいただいている。

現代の人間にとって情報といえば圧倒的に視覚、聴覚からのものが多いが、その他の感覚をもっと使用し、鍛えることにより開ける未来があるのではないか。今後もさらに科学的な研究が進むことを期待したい。



2011年3月30日水曜日

レモンの香り(親・清・明)

レモン。食の場面のどこかで必ず出会う親しみあふれる柑橘。この香りを想像しただけでも私は元気になれるような気がします。私のレモンの香りの印象を漢字で表すと、親(親しみ)・清(フレッシュ)・明(明るい元気の素)でしょうか。
揮発が早く軽く、香水のトップノートにも使われる香りです。

レモンといえば私が真っ先に思い浮かべるのが「香りを良くして美味しくする」ためのものであること。ジャム作りはもちろん、梨や酸味の少ない林檎、サツマイモを美味しく煮るときに欠かせません。さらに「フレッシュな状態を保つ」ためのもの。剥いた林檎が変色しないように一絞り。フライや焼き魚に一絞り。手で魚を食した人のためのフィンガーボウル。そして元気な明るさの象徴でもあります。レモンと蜂蜜といえば、疲れを癒すスタミナ補給源として愛用したものです。

実際、この親しみという印象は安心感をもたらします。アロマテラピー初心者の多くはレモン精油にはまず好感を持つようです。初めて精油という濃厚な香料原液に出会う人にとって、レモン精油(果皮から圧搾されて得られる)は、かぎなれている親しみから好感と信頼がもてるという声をよくききます。

フレッシュで明るい印象も気持ちの切り替えに役立ちます。眠気が覚めた、集中力がアップしたなどとよく言われます。同じ場所にいても気分が明るく切り替えられるならこんなにいいことはありません。

私が強く印象に残っているのは、心臓病で苦しむ余命わずかな90代の祖母が迷わず好きと選んだのがこのレモン精油であったこと。常にいつ襲われるかしれない心臓発作に怯え、できるものなら早く逝きたい、とばかり呟いていた中、私が紹介した数本の精油の中でレモンの香りを選びました。「すうっとして一時不安も忘れていい気分になれるね」。以後毎朝素焼きの皿に数滴垂らして、揮発するレモンの香りを楽しみ、穏やかな時間を過ごせたということでした。

非常時に必ず持っていきたい精油の一つにレモンを加えたいと思う今日この頃です。私自身も妊娠初期のつわりの時期はこの香りに救われたものです。身体が選んだ香りのことは忘れません。



2011年3月29日火曜日

可能性は0と100の間に

情報の質を見極める眼力を身につけることの大切さをこの記事から改めて思う。【JB PRESS】2009,12,17の記事である。タイトルは
『日本人の「国産」「天然物」信仰はスキだらけ』

4p目の内容から、私がアロマテラピーを学んだ頃に考えたことを振り返ってみた。薬事法で定められたもののみが「効能」をうたえるというくだり、私はアロマテラピーを勉強し始めた頃真っ先に学んだ。日本で誤解なく健全にアロマテラピーを普及させたいと願った国内の先駆的研究者の方々の配慮のおかげであると感謝している。

伝承的な背景から健康に役立つ可能性が天然精油にあるとしても、現在の日本の法律が認める医薬品と同じような扱いはできない。天然精油は医薬品とは法律上の基準が異なるために異なるカテゴリーに入れられることも理解した。だからといって無価値な訳ではない。役立つ可能性があるからこそ、実践と研究が続けられている。

私はこのようなデリケートな分野に携わる中、わかっていると思えることの中にも誤解があるかもしれない可能性と、わからないと思っていることの中にもいつかは理解できるかもしれない可能性を想定しながら、アロマテラピーを実践している。

そもそも香水が好きだった私は、身につけているだけで気分が上がり、悲しい思いをした時期にも随分気分がまぎれ救われた思いがした経験をもつ。香りはこんなに素敵なものなのに、日本の中で香水に抵抗を示す人も多く残念。そんなときに目に飛び込んできたアロマテラピーという考え方。もっと香りの有用性を勉強したいと思い、まずこの分野で日本で発行されている本を読んだ。

チャンスが訪れた。イギリス留学でアロマテラピーを学んだ方々や医師の研究会を聴講させていただく機会を得たのは1995年の事だったと思う。体質や感受性の観点から欧州流の方式をそのまま日本で普及させるのは難しいということゆえ、日本に合った形式を考え作っていかなければという皆さんの真剣な熱意を感じたことを憶えている。このメンバーの中には、後に社団法人日本アロマ環境協会名誉会長となられた医学博士の鳥居鎮夫氏の姿もあった。

その会の中核にいらした先生のもとでアロマテラピーを学んだあと、様々な疑問について考えるにあたり、英語圏からの専門書を取り寄せて読んだりもした。複数の研究者の著書を読むことから、わかっていることと、わかっていないこととを区別する訓練となった。

数学の教師だった母は「世の中に『絶対』なんてことはないし、気軽に言うものではない」と事あるごとに言っていた。母は他人の話を鵜呑みにせず、いつも自分でも調べてから判断しようとしていた。その性格が強く出たのは、父が突然倒れたときの医師の診断への対応。一人の医師の判断を「可能性の一つ」と捉えて納得いくまで調べた結果、父は今も生きている。

可能性はよくパーセント(百分率)で示される。「絶対」という言葉は、0または100という数字の設定のためにあるのかもしれない。この二つの数字の間に現実の可能性がある。情報が氾濫する中で、その意味と読み方を深く考えていきたいと思う。


2011年3月27日日曜日

青いパパイヤの香り(l'odeur de la papaye verte)・1993

東南アジアから帰国した知人がベトナム料理の美味しさを語っていました。思い起こしたのがこの映画、青いパパイヤの香り(原題:l'odeur de la papaye verte 1993年 フランス・ベトナム合作映画)。ベトナムで生まれ、12才でフランスに移り住んだトラン・アン・ユン監督31才の時の作品です。

私が映画館で鑑賞したのは1994年8月。当時の香りの専門誌PARFUM夏号(90号)で紹介され、公開を楽しみにしていました。大変な人気で、映画館でも長い列に並んでようやく観られたことを憶えています。…とある土地で人は人と共に暮らし、食事を用意し、変化する中で淡々と生きていく…今も昔も変わらぬ人の営みの中にはこんなにも輝きがあります。そんなふうに感じたのは私だけではないでしょう。

匂いを感じさせてくれた映画として、私には忘れられない作品の一つです。視覚から感じた匂い、人の感情のあれこれは17年経った今でも瑞々しく心に響いてきます。映画パンフレット表紙にも使われている、この緑陰にたたずむ少女の眼差しに魅かれ、私はこのポストカードをその後何年も飾っていました。


淡々とたたみかけるように流れる映像。熟した黄色いパパイヤしか知らなかった私は、薄緑の青々としたパパイヤがもがれ、洗われ、皮を剥かれたときに現れる純白の真珠のような粒々の種をみて目を奪われました。ヒロインも同じように驚いたのでしょう。素敵なものとの思いがけない出会いの瞬間が丁寧に描かれ、無駄なセリフもなくゆっくりと心に染みていきます。

淡い緑の皮の中、真っ白な中身が刻まれて料理になるパパイヤ。
庭にしゃがんで、地を歩むアリを見つめる少女の瞳の輝き。
成長した少女が月明かりを受けながら静かに洗う長い黒髪。
黒いピアノを前に作曲家の若い男性が着ている白のシャツ。
誰もいないはずの場所でこっそり赤のドレスを着て鏡を見るヒロイン。


今も大切に保管してある映画パンフレット(発行:シネマスクエアとうきゅう)には、この映画が受けた三つの栄誉が記されています。
1993年カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)受賞
1994年セザール賞新人監督賞受賞
1994年アカデミー賞外国語映画賞ノミネート

2011年3月23日水曜日

PARFUM春号(157号)発刊

香りの専門誌"PARFUM"春号(157号)が発刊され、本日私の元に届きました。最新号とともに、編集長から丁寧な書状が添えられています。「…30年以上も無事に本誌を出版出来ることは関係者各位さまのご協力の賜物といつも感謝しております。…」今年も春の訪れとともに香り情報満載のこの冊子を手にすることができて、私自身も嬉しく思います。




今回の春号では、4/7から東京藝術大学大学美術館にて開催される[かぐわしき名宝・香り展]について見開き2ページに渡って紹介されています。さらに新連載[時代をリードした香り美人とファッション]が始まりました。春は特に香りの新商品が多い季節でもありますが今回も華やかです。サルバトーレ・フェラガモ インカント・ブルームから3月に発売されたばかりのソリッドパフュームについてのインタビュー記事も興味深いですし、スワロフスキーの香りや、ニコライ・バーグマン(フラワーデザイナー)による花の香りのデビューも嬉しいニュース。

春は新年度の始まり。香りが新しい出逢いを運んでくれますように。

2011年3月22日火曜日

自然は自然の中で

今回の災害で、少なくとも同じ日本に住んでいて、何の影響も受けなかったという人はいないのではないかと思う。広く言えば、同じ地球上の生物全てに影響を与えているもの、と私は感じる。

震源の近くで直接的ダメージを受けた人、遠くにいても不安にさいなまれた人、不安によって錯綜する情報で混乱する人、時勢の空気が一変したことにより順調になりかけた商談が破談あるいは延期になってしまった人、楽しみにしていた予定が中止、延期になってしまった人…。それぞれ内容や事情は違っても、地球上に生きている限り皆被災者。

だからTwitterでつぶやかれていることが何であろうといちいち過剰反応しない。そもそもタイムライン上には自分がフォローした人たちの「今」がそこにある。一人の人間がいつも冷静な、あるいは良い気分でいられるだろうか。ましてや非常時に。飾り気なく「今」の気分が書かれているとしたらお互い様。そこに緻密な信憑性や専門性を求めて目くじらをたてるより、「今この時、いろんな感情がうずまいている」とただ受け流す。発信側にも気分があるように受信側にもその時々の気分がある。昨日は気にならなかったことが今日は気になる。そのような気分を自覚したらそのような自分を素直に受け入れて、「疲れているのかも」と眠りに入るもよし。良い香りのお茶を頂くもよし。別のことに着手するもよし。ちょっと元気になったら、疑問に感じたことを自分なりに調べてみればいいだけだ。それを機に勉強するもよし。

先日読み返した「花の知恵」からも感じたが、自然環境というものに絶対の安全、安心などはなく、その中でなんとか生き延びようとする自然生命体は予期せぬ苦難にもめげない。ちょっと植物の気持ちになってみよう…自分も自然なのだから、自然環境の中で生きる自分という自然をまず受け入れる。全身で反応しながら試行錯誤を繰り返し、「生き」て種を繋ごうとする。花の工夫の数々は、まるで人がさまざまな科学技術を駆使して現代文明を築き、繁栄しようとする姿と重なる。

考えても調べても何も確かなことはわからない。そう思ったら深呼吸して自分の感覚や感情に問う。わかるのはその今の気分。身体の声を聞くことにする。地球が自然なら人も自然。自分という自然も予測不可能なのだから、せめて「今」の自分くらいは自覚しておきたい。

2011年3月21日月曜日

桜の場所

春分の日の今日、桜を想う。
毎年満開の季節を迎えると、近所の馴染みの桜の木の下を、早朝か夕暮れの人通りの少ない時間帯に通ってみる。ふわり。確かに香っていることに気づくのが嬉しい。

視覚的イメージの記憶を手繰ると、私には主に3つの桜の場所が浮かぶ。
18才まで暮らした郷里富山市の松川べり。
学生時代の場所、上智大学近くの外濠公園。
一昨年の春に満開を堪能した、国立駅から続く大学通り。

桜といっても多くの種類がある。その種類を一度に多く堪能できる場所はないか。かつて書物で読んだ記述を思い起こす。大阪市北区天満にある造幣局の「桜の通り抜け」である。

独立行政法人 造幣局のHPによると、造幣局構内、淀川沿いの全長560mの通路を一般花見客のために約1週間開放しているらしい。約120品種、約350本をこの560mの間で楽しめる。
桜の通り抜け桜樹一覧表を参照すると色も形も様々。この表を丁寧に読むと、芳香を特徴とするものも確かにある。

いつかこの道を必ず歩いてみたいと思う。

2011年3月19日土曜日

花の知恵 (モーリス・メーテルリンク著)

この1週間、私は、幾度も花を眺めその香りに包まれた。
疲労がピークに達した昨日、バラの花の香りで身体が楽になるのを感じた。正確に言えば、香りを嗅いで即座に楽になったのではない。まず自分がひどく疲れていることに改めて気づき、予定していた外出をやめてPCを閉じ、深い腹式呼吸をゆっくりと繰り返した。全身が楽になったのはそれから徐々にである。

思い起こしたのがこの本。「青い鳥」の著者でもあるモーリス・メーテルリンクによる著作。原題は "L'INTELLIGENCE DES FLEURS" 。1992年の日本語翻訳本「花の知恵」発刊直後に入手した。時間をかけて愛読したのだろう。表紙上端の反り方と付箋代わりに折り目のついたページから、今も私がこの本を記憶していた意味を感じた。




魅かれるものがあればそれについて知りたくなる。
花とは何か。
著者は冒頭の最初の段落の最後でこう述べている。
「…花には、光の方へ、精神の方へ向かおうとする植物の生命の努力が結集されているのである。」

植物は動物のように自由には動けない。しかしいつの間にか蕾は膨らみ、花は咲く。枯れても翌年の同じ頃芽吹く。だからこそ、人はその秘密に魅かれ、些細な変化もつぶさに観察したくなるのかもしれない。

多種多様な花が咲き誇る南仏の地で暮らした著者は、その緻密な観察に基づく花の視覚的魅力だけではなく、香りについても次のように述べている。
「…しかし、この地で何よりも強い印象を与えるのは、バラとジャスミンの季節の晩や朝であろう。地上の大気が瞬く間に限りなく幸福な惑星の大気に一変してしまったのだろうか、…」
事実、このような香りの魅力のとりこになった人間は現代に至ってもせっせとバラやジャスミンを育て、増やし続けようとしている。あたかもその種が途絶えないように手助けをするかのごとく。

著者のメーテルリンクがノーベル文学賞を受賞したのは1911年。その翌年にこの本がパリで出版されている。今からおよそ100年前。30節から成る全文の最後の章が "LES PARFUMS" (香り)であり、その中で「未踏査の世界である」と前置きした上で、人間の嗅覚について「できるかぎりじっくり考察してみれば、おそらくは人間の有機体組織にもっとも深く染み込んでいる感覚なのだろう」と述べられていた。

工作舎の書籍解説ページはこちら





2011年3月16日水曜日

花に魅かれて…たとえば、薔薇と蘭

早春の散歩道。桜?
開花している花に出会い、一瞬心が和み、華やぎました。
年中花は見られるとはいうものの、この春という季節は、何か命の再生というか、花を印象的にとらえる特別な季節のようにも思います。

花というのは、考えてみれば植物が実を結ぶための舞台です。
これが目に見えるということは、ひときわ強い生命力そのものを見ていることになるのではないか。そしてその香りは、花がその種(しゅ)を繋ぐべく、自らの生殖機能をまっとうするための防御と誘引のサインではないか。…ふと連想。

好きな花を尋ねられたら私は迷うでしょう。しかしながら、これまでの自分の行動を振り返ると2種類の花、薔薇と蘭が浮かびます。

まずはその香りに魅かれた薔薇。ダマスクローズ。はるばる産地ブルガリアにまで出掛けて、現在「パレチカ」というブランドを監修しています。
そしてその形に魅かれた蘭。胡蝶蘭。雪のような白さと凛とした形。かつて自らが着ることになるウェディングドレスを、この花をモチーフにデザインして欲しいとデザイナーに依頼したのでした。

どちらの花に関しても、魅了された時点では、それぞれ詳細の知識を持ってはいませんでした。後に調べてわかったのは、ダマスクローズの天然香料は「香りの女王」と呼ばれ世界的にも貴重かつ重要な香料であること、一方で蘭は、単子葉植物の中で最も形態が進化した植物であるということでした。2月に開催された「世界らん展日本大賞」サイト中の説明から学んだことです。形態が進化したとは?きわめて効率良く受粉できるような無駄のない形なのだとか。

生き抜くための知恵。その結果としての香りと形なのだとしたら…
この季節こそ、花は人に元気を与えてくれるはず。


2011年3月14日月曜日

非常時に役立ちそうなファッションアイテム

ここ数日、スーパーマーケットでは、飲料水、食料品に始まりティッシュペーパーやトイレットペーパー、生理用品などの衛生用品の品切れが続いています。災害に備えてまずは食、そして衛生をという気持ちも確かにわかりますが…

今回の災害から私が考えたのは「食」と同様に「衣」も大切ということ。防寒という意味以外で役立ちそうなファッションアイテムを挙げてみます。もしライフラインが機能しないところで、自分はどんな姿でいるだろうか、少しでも明るく気分よくいられるためにはどんな状態でありたいか…と。

1,帽子
ちょっと厚め、深めの帽子は頭部の保護になるだけでなく、何日も洗えなかったりお手入れできない髪型をすっぽり包みこんでガードしてくれるのでは?以前癖っ毛の家人が、シャワーを浴びて髪を洗うヒマなく出かけなくてはいけないとき帽子をかぶって行ったことを思い起こしての発想。
頭皮は特に皮脂分泌量の多いところなので、通常通り洗えないと匂いも気になるところ。鼻に近いこともあって自分でも気がつきやすいのです。ちょうど今日、資生堂からの「水のいらないシャンプー」という商品含む被災地への支援がニュースサイトにアップされていましたが、こういう手段と合わせて帽子も活用を。大変なときはお互いさまですが、周囲も自分も心地よくあるために。

2,眼鏡
もともと視力矯正上必要な人はモチロン、裸眼でOKという方にもぜひお顔によく似合うカタチの眼鏡を常備されることをおすすめします。紫外線やゴミのカット、顔上部の皮膚保護に役立つほか、非常時のストレスや睡眠不足による目元のくすみもカモフラージュしてくれるのでは?たとえアイラインがひけなくてもマスカラを塗れなくても…眼鏡ひとつで目元のラインを美しく見せることだってできるかもしれません。眉や目の大きさに合わせてカッコ良く見える眼鏡を探しておきたいものです。目はとても疲れやすく、それに伴うのか血行不良が周囲の皮膚に出やすいので、負担をかけないこと自体大切ですが、携帯電話はどうしても見てしまいますしね。

3,靴
いつでも逃げられるように、長距離歩けるように、となるとヒールやパンプスは厳しく…となると底の厚めなウォーキングシューズで少しでもスッキリと見えるタイプを常備しておきたいもの。今回地震発生当夜、電車で帰れず徒歩で帰宅された女性も、こんなときのために勤務している会社にキープされていた靴が役に立ったとか。ただ問題はその時着用の服に似合うかどうかです。スカートとは?靴のカタチをカモフラージュするために靴と同色のタイツも用意するか、あるいは靴と同色のパンツ、靴下もセットでキープしておくなど。トンチンカンなコーディネートでイマイチ気分にならぬよう、靴に合わせた服装も日頃から考えたいものです。

さらに…お気に入りのフレグランスをぜひ一本。こうありたい、素敵というイメージで自ら選んだ大好きな香りがあることで、たとえ視覚的にお化粧ができなくてもどれだけ気分が救われることでしょう。












2011年3月12日土曜日

非常時にできること・地震体感

昨日3/11午後発生の東日本における大地震。
東北地方を中心とした甚大なる被害に深くお見舞い申し上げます。
今のところライフラインが機能している(今夕から停電かもとの情報もあり)東京在住者の一人として、世田谷区で体感したことを、当初唯一連絡手段として機能したTwitterで自分が記した内容を引用しつつ、一連の体験から得た教訓をまとめておきたいと思います。


1,まずは安全な場所へ

発生当初…地下の書店にいた。足元が大揺れで思わず近くの人と「地震」と確認。あまりに揺れるのでただごとでは無いと直感し、すぐ建物の外へ。経堂駅付近、外に人が一杯。携帯も繋がらず、揺れを感じながら帰宅したら窓際のMac落下、本棚食器棚からかなりのもの落下、散乱。まだ揺れてる。初めて見る自宅内部の姿。PC モニターが真っ逆様に落ちている…
こんなときは、見ず知らずの人であろうが関係なく、現状判断と情報収集のために積極的に会話し、安否を確認し合い、精神的安定を保ちながら、互いにそれぞれ一刻も早く安全な屋内の場所へ避難。私の場合は鉄筋コンクリートRC2階の自宅へ。


2,情報源と飲食物、最低限の貴重品をキープ

まずテレビ、インターネットをオン。携帯電話やPCはすぐに充電を。
常に最新情報入手を心掛ける。携帯電話が全く通じなかった中、唯一家族と連絡がとれたのはインターネット、TwitterやFacebookだった。Twitterのダイレクトメッセージのおかげで安否もすぐにわかり、まめに連絡ができたことは貴重。自宅にいたら電気が通じるうちにご飯を最大量炊き、鍋にも水を貯め、浴槽にも貯める。すぐ食べられる保存食類もまとめ、現金、身分証明書、タオル類大小、ウェットティッシュなどをまとめておく。飲み水、懐中電灯や電池のストックも少なければ購入。お菓子もこんなときこそ貴重。


3,体力を消耗しないように

こういう非常時はかなり神経をフル回転させるのか、非常にお腹が空くということを実感。脳のエネルギー消費が格段に高くなるのかもしれない。まずは深呼吸(ゆっくり腹式呼吸したり手足の筋肉弛緩を繰り返すだけでも血行がよくなると思う、寒いときあったまる感じがする)で落ち着いたら、水分とエネルギーになりやすく消化に良いものをひとまず口にする。トイレも我慢しない。水も電気も無事なうちにまめに行く。安全のため窓を開けておくようにと言われるが寒い時期はかなり冷えるので暖房なしで窓を開けていても寒くならないようになるべく厚着を。体温が落ちないようにエネルギーが使われるとそれだけでも消耗する。
散乱したモノの片付けもほどほどに。重いモノを無理に持ち上げようとして身体が疲弊するばかりか二次災害で怪我などしたら厄介。
ただし、万が一に備えてアルコール含有のスプレーなど引火しやすい瓶などが転がっていたら優先的に片付ける。アロマテラピー用の精油も同様。むしろこういうときこそ、非常時のリラックスのために何か普段使用している精油や、お気に入りの香水などを密栓の上割れぬようポーチに収納し、非常バッグに入れておくとよいはず。

どんな状況に陥っても「絶対生き抜く」と思える精神でありたいものです。そのためには身体のエネルギー、免疫力を消耗させすぎないように。身体の辛さが精神の辛さに反映されます。生きてさえいれば、その先はあります。今生きている者同士、助け合うしかありません。一人でも多くの人が元気でいられますように。













2011年3月10日木曜日

アジアの素材で世界へ発信・THANN

2004年秋。私は某アロマトリートメントサロン開業ディレクターとしてサロンで使用する様々な化粧品を試していました。その中で出逢い、その内容はもちろんのこと、現代的に洗練された視覚デザインに強く魅かれたブランドがタイ発 "THANN"でした。

ナチュラルであることの心地良さを、現代感覚に合わせたパッケージデザインと香りで見事に表現。ちょうど化粧品素材自体にも食品のように安全性が求められてきた時代も背景にありました。コメヌカとシソといった伝統的な自然素材を生かしつつ今っぽいという魅力は貴重。素朴感をアピールしたものにありがちなカントリー調ではなくアーバンでジェンダーフリー。ここに化粧品ニーズが男性にも広く求められてきた背景も併せて重なります。女性に限らず男性が手にとっても違和感なし。心地良い時間と体験を求める全ての男女へ発信されたブランド、と、このタイムリーなデビューにブランドとして発展する可能性を強く感じていました。

その生みの親でもある創業者のプレゼンテーションを直接聴いたとき、製品開発の根底にきちんとした皮膚科学やリラクセーションに基づく考え方があることを知り、共感できることも多くありました。私は今も夏の期間はよくTHANNのスキンケアを使用していますし、海外出張の際もシャンプー&コンディショナーなどトラベルサイズのアメニティを入手し携帯して行きます。

あれから7年目を迎え、いまや海外様々な国で愛用されています。そして今春から全日空のファーストクラスのアメニティとして採用されるとか。タイの創業者のビジネスセンスは、パートナーシップを結んだ日本の誠実な姿勢をもつ会社との歩みの中で、アジア発世界へのブランドとしてまた一歩前進したようです。今後の進展に期待します。

詳しくはこちらのニュースをご覧ください。
「アジアの素材で世界に挑む タイの化粧品ブランド THANN 」




2011年3月9日水曜日

モン ジャスミン ノワール・春デビューに期待

ジャスミン ノワールの香りがブルガリからデビューしたのは2008年秋。
白い可憐な外観を裏切るかのように、夜のうちから妖艶に香るこの花のキャラクターが漂うフレグランスとして記憶にあります。当時大学の講義の中で共に鑑賞した20代の女性たちは口々に、「私にはまだ早いかも」「ドレスアップしないと負けそう」とつぶやいていたものです。冷たく乾いてくる秋冬の空気に映えそうなゴージャスな香りでした。

イメージモデルはケイト・モス。モデルとしての知名度と存在感に加え、写真の中でジャスミン ノワールのフレグランスボトルと共に佇む彼女は、ブルガリのプレミアムジュエリーを身につけていたのでした。

そして今春4月発売となるのが、モン ジャスミン ノワール。
この、「私の」という所有形容詞 "mon" が加えられたこと、そして何よりも秋ではなく春に発売されるということから、より軽やかに現代的に香るジャスミンを期待します。

ELLE・FASHION NEWS(2011/03/09)でこのニュースが紹介されています。やはりトップノートに地中海のシトラスが使用されているとか。溌剌とした爽やかさにジャスミンの香りが包みこまれるイメージ…これは日本のジャスミンファンには見逃せないかもしれません。

新作のイメージモデルは、キルスティン・ダンスト。芸歴の長い多面的なバックグラウンドを持つ魅力的な女優。ソフィア・コッポラ監督による映画「マリー・アントワネット」(2007)では見事、年端もゆかぬ少女のまま、オーストリアからフランスに嫁いだ多感なマリーを等身大で演じていました。今も昔も変わらぬ「女の子」の気持ちを視覚化した監督とこの女優には感心したことを今も憶えています。そういえばソフィア・コッポラ監督といえば、つい最近もフレグランス"Miss Dior Chérie"のナタリー・ポートマン主演CMを撮影されたお方でした…。


2011年3月8日火曜日

ブラッドオレンジ(タロッコ)・紫のコクと爽快な香り

光や風の匂い。イタリア生まれの品種、タロッコ(Tarocco)です。
果皮を剥く前からほのかに香る上品さは、蜜柑や伊予柑でもなければ、スイートオレンジの香り方とも違います。サクッと水平にカットするとこの通り。





果肉に濃い赤のような色が見えます。よく見るとこれは紫の色素。ブドウやブルーベリーにも含まれるアントシアニンなのだそうです。

今回取り寄せたのは愛媛県産。1/4カットでうすい皮を削ぐようにしながらいただきました。爽快な香りと濃厚な旨味。素晴らしいですね。紫のコク、でしょうか。巨峰ブドウなどの皮と実の間に感じられるあのコクです。甘みと酸味とほのかな渋味、プラスαの旨味。美味しいです。

いつも香りのハッキリとしたオレンジを頂いたあとの手にはずっとその香りが残っているのですが、このブラッドオレンジは残り方が優しい。まるで地中海の陽光と乾いた風を心地よく受けたこのオレンジの木の近くにいるような、爽快ながらもリラクシングなフレーバー。

この香りとコクを生かせば、なんとなくオリーブと合わせてサラダも美味しく作れそうですし、カクテル、ジュース、ジャム…。きっとバリエーションが広がるでしょう。色々しらべてみようと思います。


2011年3月5日土曜日

リンデン&カモミール・ブレンドハーブティー

久しぶりの休日。今日の穏やかな陽射しにも似合う琥珀色のお茶を楽しみました。リンデンとカモミールのブレンドハーブティーです。

この2種のハーブティー用ドライハーブは、どちらも深くリラックスできるお茶として重宝しています。ちょっと風邪気味、いつもより疲れている、そんなときもこのどちらか、またはブレンドで頂きます。

それぞれ単一でお茶にするのも好きです。リンデンは花と葉、カモミールはジャーマンカモミールのことが多いですがこちらも花。ティースプーン山盛り2杯分位を熱湯で抽出します。香りが逃げないように蓋をして待つこと約2~3分。ティーカップにたっぷり1杯分の淡い琥珀色のお茶が出来上がります。

リンデンはどこか懐かしい印象の香り、とよく言われます。菩提樹とも呼ばれますが、東洋菩提樹とは種類が違うようです。私が頂いているのはシナノキ科でヨーロッパ原産のタイプ。この立ちのぼる香りから私は美味しいハチミツを連想、架空の甘さを感じるのです。穏やかな香りなので心も落ち着きます。

カモミールにはローマンとジャーマンがありますが、ローマンは比較的早く苦味が出やすいということで一般にはジャーマンのほうがカモミールティーとしてよく使われているようです。フルーティーな香り。その香り方はリンデンよりもシャープです。とはいえ、珈琲ほどのインパクトは無いと見えて、とあるワインバーでワインの香りを大切にするためにと、食後には珈琲ではなくカモミールティーを出されたことも思い起こします。

今からかれこれ8年前。2003年6月のこと、世田谷・経堂のフランス料理店「ル・グラン・コントワー」での「夏のフランス料理とハーブティー&アロマキャンドル」という催事の中で、私はシェフの特別コースメニューの最後に出されるデザートに合わせてハーブティーをご用意しました。そのときのハーブティーがリンデン&カモミール。

"Figue à la Vanille chaud au son jus avec Sorbet yaourt"(いちじくの温製ヴァニラ風味 ヨーグルトシャーベット添え)。シェフ菅沼豊明さんによる筆記体のフランス語メニューが懐かしくずっと大切にとっておいたのです。この、いちじくの素晴らしい後味に寄り添うように穏やかに香り、すっきりとした余韻を提供してくれたハーブティーでした。

参考情報:
Sawa Hirano's Web 中コラム "figue"






2011年3月2日水曜日

沈丁花・春を囁く花の香り

いつ頃からこの花を意識したのか記憶は定かではありません…一つ言えることは、私はこの花を名前よりも先に、香りで知っていたということ。その姿が見える前に、その香りで人を振り返らせるであろう花です。

毎年、梅から少し遅れて蕾から花へ。梅が春告花であるならば、沈丁花は春を囁く花と呼びたい。密やかにすこしずつ、この植物は蕾を膨らませ、花開き、寒い冬を乗り越えてきた命に染み入るような香りで春を囁くのです。

お香で名高い沈香の香りと、丁子(クローブ)が名前の由来のようですが、丁子に関しては、香りに由来、という説と、花のつき方の外観が似ているから、という説と二種類あるようです。花は多数の小さな花の集合体なのです。




植物学名(ラテン語)がまたユニーク。音をカタカナ表記すると、ダフネ・オドラ。ダフネとはギリシャ神話中の登場者で、月桂樹となったニンフ(精霊)のこと。オドラとは、香気ある、という意味です。

香りの印象は人それぞれでしょう。私は、和らいできた空気によく映える、凛としたみずみずしい香りであると思います。まだ寒くても確実に春は来ている、とこの時期に囁く花ありとして多くの人に知っていただきたいと思います。

この花の香りを冒頭で讃えながら始まる名曲として、「春よ、来い」(1994年)
があります。松任谷由実さんの作品です。イントロのピアノの響きはまさに、ひとつひとつの小さな花が香り始める瞬間のようで、心に染み入ります。

…桜の季節へ移る前に、沈丁花の写真が撮れたら添えようと思います。


参考文献:
「香りの歳時記」
諸江辰男 著
東洋経済新報社 刊