私が好きなピアニストの、若き日のドキュメンタリー映画。
" Glenn Gould Off the Record / On the Record "(1959)。
直訳すると「グレン・グールド・録音活動をしていないオフの時間 / 録音中の時間」。パンフレット表紙の英語原題の下には、小さく日本語で「グレン・グールド 27歳の記憶」と添えられ、その横にはさらに小さくこう記されていた。
「誰もが魂を奪われた。若きグールドのレジェンダリー・フィルム」
ご本人のリアルなお姿をみながら、あの美しい音楽の源を感じた。
立ち居振る舞い、話す内容はもちろん話している表情、生まれ育ったカナダの静かな自宅での幸せそうな練習風景…そして録音中のまるで指揮者と一人二役と化しているかのように表現に没頭している演奏風景には引き込まれる。
彼の話したことには私にも共感できることがいくつかあった。
そのうち印象的なものを二つ。
なぜ演奏会に行くのが嫌いかと尋ねられて…彼はこんなふうに答えている。
「何よりもまず人混みが少々苦手…舞台の上では大丈夫、呼吸できる空間がたっぷりあるから、しかし聴衆の一人に加わると……実際に演奏をしなくてはならない人間の心理が手に取るようにわかってしまうので、他人の演奏会ではひどく落ち着かなくなります…」
私も人混みが好きではないので、多少時期が遅れても混まない名画座タイプの映画館やこじんまりとしたスペースでの演奏会のほうを好む。そして音楽とはジャンルは違うが、アロマセラピストとしてお客様の皮膚に全神経を集中させてトリートメントする仕事をしてきた私は、いかに卓越したトリートメント技術者といえども他人のトリートメントを受けるときに必要以上に神経を使って疲れることがよくあった。なのであえて専門的な訓練を受けていない家族に簡単に方法を伝えて気軽に施術してもらうほうが癒された。
もう一つは、演奏会の舞台で演奏するよりも、スタジオで徹底的に納得の行く音楽表現を完成させることを好むということについて彼が語るくだり。
彼は歌いながら演奏する。時には指揮者にもなる。リラックスして音楽表現に没頭するために、それらのことをとがめられるのは困るという。表現に没頭している姿は、時として「マナーが悪い」とまで言われる。それならばそんな姿を見せることをいちいち気にせず、こだわりぬいて創り出した結果の音、音楽だけを提示しようと思ったのではないか。そんなふうに感じた私は、改めてこの偉大な芸術家にたとえCDによってであれ、出逢えていたことを嬉しく思った。
参考資料:
" Glenn Gould Off the Record / On the Record "
映画パンフレット / 1999,8,27発行
配給・クレストインターナショナル
*下高井戸シネマ にて9/26~10/1までレイトショー、10/8~10/14までモーニングショーにて上映中
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