3月7日。国際香りと文化の会 講演会にて、お二人の専門家のお話を聴講。
・「源氏絵にみる香りの描写」稲本万里子氏(恵泉女学園大学人文学部教授)
・「香る日本絵画」古田亮氏(東京藝術大学大学美術館准教授)
『源氏物語』という作品は、紫式部による、文章のみの表現である物語であった。これを絵画化するいとなみは物語の成立直後から行われていたと考えられているらしい。文章→絵画という過程ですでに、イメージをビジュアライズしやすい場面、ビジュアライズしたいと強く渇望された場面がセレクトされていたのだろうと私は思った。
源氏物語とは深い関わりのある香(こう)、薫物。登場する姫君それぞれの香を思い浮かべる人も多いことだろう。そうした雰囲気が絵画からも感じられるのだろうかと思いながら稲本万里子先生のお話をきく。
絵には香炉や書きつけられたものは見えていても、肝心の女性の姿が見えないものもある。たとえば明石の姫君。見えないことは想像力を刺激する。
入内を控えた明石の姫君にふさわしい香りは、源氏と蛍兵部卿宮によって一方的に選ばれ押し付けられたということから察するに、源氏が選ぶ香りによって姫君に理想的なふるまいを求め、分相応な役割を演じることを求めた、との解釈を聴く。さらに、高貴であることの権威付けの象徴として描かれているものも多いという。
…ということは。私はこんなふうに思う。当時の貴族社会の中で言語化されてはいないものの、非常に重要なサインが香りに求められており、それを無意識のうちにかもしれないが感受した絵師がそうした雰囲気を絵で描いたのではないかと。
パリ、ベルギー、アメリカ等海外にも源氏絵の愛好者は多くいるようだが、彼等は絵からこうした香りの存在を感じとることができただろうか。香道具が描かれていれば痕跡は想像できるとは思うけれど。
二人目の古田亮先生は、私がちょうど7か月前に鑑賞した展覧会の企画者。
昨春開催の『香り かぐわしき名宝 展 (Fragranceーthe aroma of the masterpieces)』において、企画者として実際に香りを感じさせる絵画を選出し、図録の中でも「香りと日本文化」と題した文章を寄せられている。
古田先生によると、香りとは、「想像力」と「記憶」とを結びつける魅力的な美の世界であるという。香りを感じさせる絵画を探していくと、大正~ 昭和初期の日本画の中に多かった、というお言葉も興味深い。
上記で紹介した私のブログにも写真を載せたが、実際に展覧会のポスターにも使用された『夜梅』(速水御舟)も昭和5年の作品であった。ではこうした作品を、日本とは異なる文化背景をもつ外国人が見たとき、果たして香りを感じるだろうか。ぜひきいてみたいと思い、その感じ方の違いを意識化すると、おのずと各文化が香りに求めてきた役割が見えてくるようにも思う。
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