2011年5月8日日曜日

香り かぐわしき名宝 展 (Fragranceーthe aroma of the masterpieces)

うっすらとした霧雨の土曜、5月7日。
みどり薫る上野の森を抜けて東京藝術大学大学美術館へ向かいました。




展覧会のポスターに使用されている、夜の梅が匂い立つ日本画は、速水御舟による昭和5年の作品。実物は是非直接会場でご覧の上、馥郁たる香りを想像していただきたいと思います。

香り かぐわしき名宝 展 が開催されてからちょうどひと月目。このような展覧会が、茶道、華道に並ぶ香道という芸道を発展させた日本で初めて開催されるという事実。何故今なのでしょう。私にとってはずっと以前から待ち望んでいた展覧会でした。数多くの芸術家を輩出している東京藝術大学とともに日本経済新聞社が主催であり、さらに1828年創業以来フランス香水文化を築いてきた歴史あるゲラン社が協賛するという背景。ここに、有史以来培われてきた文化における香りの価値を、広く一般に伝える必要性が強調される時期がついに訪れたことを実感します。





595年という、今から1400年以上昔の日本人は淡路島に漂着した「沈水」が芳香を発する香木であることを発見し、宝物として使用しようとする感覚を持っていました。会場では、本物の白檀の木から漂う繊細で雅な香りを体感することもできました。こうしたものの価値を感じる心が以来脈々と受けつがれてきたとすれば素晴らしいことです。

会場の展示を順に鑑賞していくと、いかにそれぞれの時代において人が、特に高い身分の人であればあるほど、人間としての自然を超えて、より良く好ましい状態であろうとしたか、その香りとの付き合い方を通じて感じられるのではないかと思います。そしてそれはまさに文化そのものです。

昨今の日本の香り嗜好について一部では、香りなどない方が良く無臭を好む傾向があるという声もききます。ですが、江戸時代に庶民までもがあれほど香を楽しんでいた様子から考えても、本当に「香り」が嫌われているのではなく、香り方、香りとの距離感に問題があるだけなのかもしれません。視覚や聴覚に偏り過ぎず、五感をバランス良く使う生活を改めて心掛けたいものです。

展示順路では最後に当たる「絵画の香り」。この展示が始まる場所に掲げられていた文章の中に、速水御舟の印象的な言葉が綴られていました。
「芸術の上に常に欲しいと思うのは芳しさです」
そうした芳しさを、この展覧会で多くの方に感じていただきたいと思います。

参考文献:
「香り かぐわしき名宝 展」図録


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