匂い物質を意識的に嗅ぐことに慣れていない人の多くは
強弱も特性もわからないのに
大胆にいきなり対象を鼻すれすれに近づけようとされることが多く
結果としてあまりの強さにショックを受けて拒否反応を示すケースもあります。
予め香料がアルコールで希釈された香水を愛好していた私は
香水の秘密への好奇心から香料そのものにも興味を示すことになり
その流れで香料原液というものに触れました。
希釈された香水ですら
人肌に馴染み、体温や動作による空気の流れで程良く香るというのに
原液がそのままでは強すぎる、と感じられやすいことは容易に想像できます。
うすめられていない精油やアブソリュート等、香料原液の強い香り方は
自然状態での香り方とは異なり、インパクトがあります。
香料の専門家でない限り、初心者はまず
広い空間に程良く漂わせた状態の中で香りを感知するか
あるいは、予めアルコールかオイルに希釈したものを直接かいでみる、
といったアプローチに導く配慮が必要であると考え
私の香りの講義でも実践しています。
上の写真は1999年に出版されたその年に入手した本の表紙です。
当時日本語に翻訳された精油やアロマテラピーの本をいくつか読んだものの
どうもわからないことが多く、英語圏に情報を求めたのでした。
この本には375種類の香料植物における学名の背景をはじめとし
当時情報が少なかった芳香蒸留水のことまで実に詳しく記されています。
この本の第3章、29pにこう記されています。
Remember: Waft Don't Draft
「憶えておいてください、吸い込まず、漂わせて」
という意味になるでしょう。draftの意味は色々ありますが、後述の文章と照合するとこのように訳せます。いきなり吸い込むのではなく、鼻から試香紙を少し離して風を起こすように揺らします。揮発性の高い香りは特に鼻から離し風とともに漂わせた状態でないと、デリケートで複雑な香りのプロファイルを感じることはできないでしょう。
このような体験を重ねていくうちに
香料原液の嗅ぎ方にも適度な距離感をもって
のぞめるようになります。
改めて香りに向き合う姿勢の原点を
懐かしい本の一文で振り返っています。
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