2011年4月24日日曜日

"Different" は褒め言葉・「ファッション・ビジネス」のこれから

桑沢デザイン研究所STRAMD第9回土曜特別公開講座「ファッション・ビジネスにみる価値創造の"これまで"と"これから"」を受講。講師はIFI(財団法人ファッション産業人材育成機構)ビジネススクール前学長で、1968年に『ファッション・ビジネスの世界』を翻訳、日本に初めて「ファッション・ビジネス」の言葉と概念を紹介した尾原蓉子氏。16才で米国留学されてからこれまでのみずみずしい感動体験をたくさん分けていただいたような気持ちで満たされた。特に印象的だったお話を4点抽出し、それぞれの☆以降に私個人のコメントを記しておきたい。

1,船で感じた地球のかたちと自立心
…14日かけてシアトルに。船上で日本が線になり点になりついに消えたとき、「地球が球である」という再認識と「家族からは完全に離れたところにきた自分が頼れるのは自分しかない」という覚悟を実感された。…☆地平線から立っている地の曲面を体感できる感性は素敵。私も生まれて初めて海外(フランス)に渡ったときはたった一人。やはり初めて誰にも頼れないことを覚悟したと共感。困難を想像できる未体験に挑戦してこそ人は強くもなれる。ファッション業界のこれからを託す学生にはぜひチャレンジ精神を、と改めて思う。

2,"Different"は褒め言葉
…米国では周囲からよく自分の着ているものを"That's so different!"と言われて当惑したが実はそれは最高の褒め言葉であると知り驚く。…☆私自身も中学時代に人と違う意見や行動というだけで敵視された経験があったので、16才の尾原さんが国による受け取り方の違いに衝撃を受けられた感覚は想像できる。違うということは特別の価値があるからこそ恐れられもすれば褒められもするのではないか。これほど情報過多な現代、「他とは違う」ものは特定の人達の感性を必ず刺激する。そうした感性に届くような告知方法とともに、新たな市場を形成していくプロセスそのものをデザインすることがこれからのファッションに求められるのではないかと思う。なお、違うということは偏屈や天邪鬼を指すのではなく、これまでと同じでなくてもよいのだと気付くことから始まるようにも感じる。

3,「モード」と「ファッション」は違う意味
…「モード」はパリから入ってきた高級オートクチュール、「ファッション」は大衆向けのもの…という暗黙の区別があったとのこと。…☆前者は仏語、後者は英語で本来同意であるのに、特に当時(1960年代)における服飾文化のイメージには地域によって圧倒的な違いがあったことを実感。この二種の言葉のうち、確かにいまや英語のほうがよく使われているようだが、これから本気で服飾文化を背景から学んで未来に向かいたい学生には、フランス語も勉強してほしい、興味を持ってほしいと願う。

4,ファッションは「変化のビジネス」
…尾原さんがアメリカで学ばれた考え方のひとつ。ファッションは「変化のビジネス」であり、唯一変化しないことがあるとしたらこれが「変化し続ける」ことである、ということ。…☆そもそもファッションの意味は流行であり、その時代ごとを映すものであるから然り。今考えていることも実はもう古い。未来は今の無意識の中にある。時が流れると人も景色も変わる。今日素敵と思ったものが明日はそう思わなくなるという現実に敏感になるには、日々の空気感に敏感になることだろう。嗅覚を鍛える、香りを意識することはまさにこれを日々実感することではないか。

「これから」を考えるには「これまで」を知ることは大切と改めて感じる。昨年自らが連載する雑誌で書評を書いた本をもう一度読み直したくなった。服飾史家である中野香織さんの著書「モードとエロスと資本」である。母校のフランス人教授がこう語っていたのを思い起こす。「歴史を学ぶということは、今の状態が当たり前に存在しているわけではない、ということを知るためです」と。




0 件のコメント:

コメントを投稿