2011年4月9日土曜日

職業名・たとえば調香師の場合

20年位前に買った単行本サイズの「香水」。昭和40(1965)年初版のこの本は貴重な写真もエピソードも多く盛り込まれた私の宝物の一つです。著者は堅田道久(1919~1992)という、香りの道ひとすじ35年を生きた男性。東京大学農学部卒業後、資生堂入社。南仏グラースの香料会社に約2年間留学、パフューマーのジャン・カール氏に師事。フランス、イギリスおよびアメリカの香料技術者協会の正会員となり、パリとニューヨークにおいて「香道」について講演…本の奥付に記されたこのような経歴を見て迷わずその内容を読みたいと入手したことを憶えています。

上記の経歴には、卒業された大学や勤務された会社、どこで何を誰のもとで修行したか、具体的な仕事実績(講演など)が記されただけであり、その職業名を一言で表現したような名称は見当たりません。

この本の50~51pに「調香師という名のいわれ」という見出しで興味深いエピソードが綴られています。NHKテレビ「みんなの職業」という週末の主婦向け番組に堅田氏が出演されることになったとき、プロデューサーから「先生のご職業を何とお呼びしたらよいでしょうか」と尋ねられたそうです。どんな職業かをある一定の文章量で説明することはできても、一言でわかりやすく言い表すとなるとなかなか難しく…堅田氏からはまず調香技術者、調香家、調香研究者といった名称を提案したものの、プロデューサーからは「…どれもあまりサッソウとした名前とはいえませんね…」との反応。堅田氏は外国語から、コンパウンダー、パフューマーの2語も提案。香りに調和を保つように配合されたものをコンパウンドというのでそれを行う人間としてコンパウンダー、パフューマーは文字通り芳香をつくる人、香りの創作、調香をする人を示すと説明をつけて。プロデューサーの反応は受け手感覚で正直です。コンパウンダーはなんとなくボクシング用語みたいでピンとこないし、…と難航。

そんな中プロデューサーがこんな独り言を言ったそうです。
「調香の先生ですから、調香師ではどうですか。…」
パフューマーという名称も無難とのことで候補に挙がっていたそうですが、結局堅田氏が出演されたとき、アナウンサーからは「本日の調香師は…」と紹介され
これが日本で呼ばれた「調香師」第一号になったとのこと。この本の中でも特に忘れられないエピソードです。漢字でのバランスもとれた呼びやすい名称はテレビ放映がきっかけなのでした。

参考文献
カラーブックス827) 香水
著者: 堅田道久
発行: 株式会社 保育社

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