昨夕、文化学園大学新都心キャンパスにて、平成23年度服飾文化特別講演会「歌舞伎 その色彩とデザイン」を聴講。講師は、松竹株式会社 執行役員 演劇製作部担当の岡崎哲也氏。
楽しい90分だった。岡崎氏の流暢な語りと映像で、歌舞伎を鑑賞している自分を想像できた。さまざまな舞台設営の意味、上方と江戸のセンスの違い、衣装の色彩にこめられた人物の心情や背景などいずれも興味深いものであったが、講演後、海外での歌舞伎の反応に関して質問した人への回答の中で岡崎氏が明かしたエピソードが私にとってはタイムリーに印象的。
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イタリア人は同時通訳を耳で聴くのを拒否。「我々の国は音楽の国だから、イヤホンで片耳をふさぐことなどできない」と。そこで舞台上部のイタリア語字幕に頼るしかないのですが、その字幕に関しても「文章はできる限り短く」と注文がつきました。逐語訳などもってのほかということで簡略に伝えなくてはなりませんでした。
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「音楽の国だから」。
なるほどそういう言い訳もあったのだと素直に納得。
実は先日私も、外国人による某講演会で同時通訳がきけるイヤホンを渡されたがつける気にならなかった。耳を片方塞がれただけで感度がかなり落ちるような気がするのと、たとえ聞き取れない言葉や意味のわからない言葉を発せられたとしても両方の耳で聴き、目で見て、空気感全体を五感で感知しているとそれなりに伝わってくることがある。概略は目で読める資料もあったのでなおさら。講演会ですらそうなのだから、オペラ同様、歌舞伎に対しては伝わってくる音の世界も純粋に楽しみたい気持ちはよくわかる。
「字幕の文章はできる限り少なく」。
これも然り。とかく異文化圏の人に対して日本人は日本独自の文化を細やかに丁寧にわかってもらおうと押し付け気味な傾向を感じることが多々ある。でもそんなこと、最初から先方は望んでいない。歌舞伎という芸能をまずは楽しみたい。彼らの慣れ親しんできた文化の文脈(コンテクスト)に沿って。楽しんで感激してハッピーになって初めてその先を知りたいと思うだろう。詳細を説明するのはそれからでよいのだ。
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