寒い冬の午後。
銀座の映画館にて鑑賞。
フランスで昨秋公開され
今年セザール賞4部門でノミネートされた
"Quelques heures de printemps"。
直訳すれば
「春の数時間」。
私はこの映画のフランス語の原題に魅かれた。
予告編に流れる静かな音楽、
複雑な表情の横顔。
みどり美しくきらめく春の数時間に
白髪の女性とその息子との間に
いったい何が起きたのか。
たとえフランス語がわからなくても
邦題から入る前に
まずは
本国フランスのメディア『ルモンド』にリンクされていた
diaphana の中の予告編を視聴して
雰囲気を感じるところから知ることを勧めたい。
このページの予告編が貼られたその下にフランス語で説明された
あらすじは次のようなものである。
<48才のアラン・エヴラールは母の家に身を寄せざるを得なかった。母との共同生活はかつての彼らの険悪な関係を表面化させてしまう。ほどなく彼は母の病が不治のものであり余命わずかであることに気付く。人生の最期のとき、彼らは果たして互いに歩み寄ることができるだろうか?>
歩み寄ることとは、どのようなことなのか。
最期まで観れば、心に沁みるように感じられるかもしれない。
ほとんど会話のない二人が
長い沈黙の時間の果てに
究極のときを迎えるまでの数時間を経て
いかにして「人生に必要な言葉」を交わすのか。
まさしくそのことが最期まで鑑賞した理由ともいえるし
映画のテーマではないかと感じる。
この映画を観たもう一つの理由は
主役のVincent Lindon。
彼の出演する映画は
観たかぎり全てに深く感じるものがあり記憶に刻まれている。
今回も
冒頭の彼の横顔と
最後の彼の横顔とを比較すると
確実に「春の数時間」を経た彼が見える。
彼へのインタビュー記事を見つけた。
Quelques heures de printemps avec Vincent Lindon
彼のコメントの中で最も私に響いたのは
〈… Il y a une phrase qui m'a toujours terrifié: «Si tu as quelque chose à me dire, c'est le moment ou jamais.»…いつも私が怖いと感じるフレーズがあります。それは「もし君が私に言いたいことがあるのなら、そう思った今がその時。今を置いてない。」〉
今という時はもう二度と来ない。
その時間とタイミングの大切さ。
失くしてから後悔するよりも
あるうちに伝えなければ
もうその時は来ない。
そうしたことが
この
周囲の人に支えられて生きていることに感謝を伝える時期に
深くふかくしみこんでいくような映画だった。
邦題が記された公式サイトは
コチラ。
この邦題は、いまの日本人にとっては注目されやすいのかもしれない。
だが本当のテーマはそこにあるのではなく
本編を淡々と鑑賞した1人ひとりの記憶に共鳴する
大切な人と自分とのかけがえのない関係性ではないかとおもう。
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