2011年3月19日土曜日

花の知恵 (モーリス・メーテルリンク著)

この1週間、私は、幾度も花を眺めその香りに包まれた。
疲労がピークに達した昨日、バラの花の香りで身体が楽になるのを感じた。正確に言えば、香りを嗅いで即座に楽になったのではない。まず自分がひどく疲れていることに改めて気づき、予定していた外出をやめてPCを閉じ、深い腹式呼吸をゆっくりと繰り返した。全身が楽になったのはそれから徐々にである。

思い起こしたのがこの本。「青い鳥」の著者でもあるモーリス・メーテルリンクによる著作。原題は "L'INTELLIGENCE DES FLEURS" 。1992年の日本語翻訳本「花の知恵」発刊直後に入手した。時間をかけて愛読したのだろう。表紙上端の反り方と付箋代わりに折り目のついたページから、今も私がこの本を記憶していた意味を感じた。




魅かれるものがあればそれについて知りたくなる。
花とは何か。
著者は冒頭の最初の段落の最後でこう述べている。
「…花には、光の方へ、精神の方へ向かおうとする植物の生命の努力が結集されているのである。」

植物は動物のように自由には動けない。しかしいつの間にか蕾は膨らみ、花は咲く。枯れても翌年の同じ頃芽吹く。だからこそ、人はその秘密に魅かれ、些細な変化もつぶさに観察したくなるのかもしれない。

多種多様な花が咲き誇る南仏の地で暮らした著者は、その緻密な観察に基づく花の視覚的魅力だけではなく、香りについても次のように述べている。
「…しかし、この地で何よりも強い印象を与えるのは、バラとジャスミンの季節の晩や朝であろう。地上の大気が瞬く間に限りなく幸福な惑星の大気に一変してしまったのだろうか、…」
事実、このような香りの魅力のとりこになった人間は現代に至ってもせっせとバラやジャスミンを育て、増やし続けようとしている。あたかもその種が途絶えないように手助けをするかのごとく。

著者のメーテルリンクがノーベル文学賞を受賞したのは1911年。その翌年にこの本がパリで出版されている。今からおよそ100年前。30節から成る全文の最後の章が "LES PARFUMS" (香り)であり、その中で「未踏査の世界である」と前置きした上で、人間の嗅覚について「できるかぎりじっくり考察してみれば、おそらくは人間の有機体組織にもっとも深く染み込んでいる感覚なのだろう」と述べられていた。

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