芳香浴、という言葉があります。これは、心地良く感じられる芳しい香りの漂う空間の中に身を置いていることを示します。見えないけれど、芳香を浴びている、そんな感じでしょうか。
一枚の扉を開けて新たな空間に入るとき、そこには目に見えない空気が流れます。ヒトの嗅覚はそれまでに感知していたものと違う匂いに関しては極めて敏感ですから、ほんのささやかであっても、扉の前にはなかったものを瞬時に感じ取ることでしょう。本来、生命をまもるために備わっているこの感覚を、さりげない思いやりの感受に生かしたいものです。そう、エントランスをほのかに香らせるのです。掃除や換気を行った上で、たとえばルームフレグランスをひとふきする、あるいは事前に香りを焚き来客時にはその残り香のみが漂うようにするなど…。特に個人宅などの生活空間の場合、その生活のあるがままを匂いで感知させてしまうよりも、
「特別な方にお越しいただきました。ようこそ。嬉しく思います」
そのような歓待の心が第一印象として伝えられるほうがずっと素敵です。
香り方はあくまでも優しくさりげなく。確かに感知できるものの、いつしかフェイドアウトしていく程度がよいでしょう。数分経てば香りがあったことすらわすれて、ただなんとなく心地良い場所に来たのだと思っていただければそれで十分ではないかと思います。手段は「香らせた」本人だけの秘密のままで。
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