2010年10月26日火曜日

ビターな熱さ・ジュニパー

初めてこの植物の精油の香りに出会ったのは真冬の午後。
嗅いだ瞬間、身体の奥が温まったような感触。好感と共に再度香りを確かめると、ほとんど黒に近い深い緑が見えたように感じ、つづいて男性とも女性ともつかない知的な瞳の人物がイメージできました。ビターな熱さとでもいうか、静かな厳しさのような魅力を感じて、きっとこれは私を助けてくれる香りになるだろうと直観して入手したのです。

以上は、この植物について詳しく知識を得る前に私が感じ取ったことです。私は、香りとの出会いにおけるこうした感受の記憶を大切にしています。

名前の音の響きにも魅かれ、語源について書かれている文献を探し、ガブリエル・モージェイという、東洋医学とアロマテラピーに精通した専門家の著書に辿り付きました。"juniper"という英語名は、ラテン語の"juniores"、すなわち"young berries"という意味を持つ言葉に由来するとのこと。一方、フランス語で"genièvre" と呼ばれ、その由来はケルト語の"gen"、すなわち"small bush" を意味する言葉と、"plus" 、すなわち "hot and bitter"を意味する言葉にあるということでした。そして、この"gen"から、ginという単語
、ジュニパーベリーで香りづけされたお酒を示す名称が生まれたと記されていました。

アロマテラピーの講義中、ジュニパーの精油の香りを体験してもらったところ、一人の学生が心地よさそうな表情を見せました。彼はお酒の中で特にジンが大好きとのこと。一方で顔を歪める学生もいました。何か強い化学的な薬のように感じると。ジュニパーという植物そのものの自然な香り方ではなく、揮発性の芳香成分だけを人為的に抽出した精油なのですから、嗅ぎなれていない人が強すぎると感じることも勿論あります。水蒸気蒸留法によって抽出された精油というものの実体は、水にほとんど溶けないことから油という文字で表現されてはいますがその実体は、多種多様な有機化合物の集合体です。植物が、水と二酸化炭素と光から行う光合成にはじまり、生き抜くために体内で作り出したCやHやO等からできた成分と考えると精油の香りが単純なわけはありません。最近の講義では、精油だけではなくドライハーブなど自然の植物の状態に近い香りも合わせて体感してもらうようにしています。ジュニパーベリーのドライハーブは、球果をつぶすと香りを感じることができます。

ヒノキ科のこの植物は、北欧と南西アジア、北アメリカ等が原産とされ、荒野や山の斜面、針葉樹に育つということで厳しい環境が想像できます。球果の遺物が欧州の湖畔の先史時代の住居跡から見つかったという報告もあります。その芳香と殺菌作用により古代から伝染病予防に使われたという記録があることからも、この植物が人を助けていたことは間違いなさそうです。

私の知人に多忙で疲労困憊するまで働いてしまう男性がいますが、彼はこの香りを好みます。徹夜明けに仮眠したあと、この香りのお風呂に入ったり、精油を希釈したトリートメントオイルで足をほぐすと非常に楽になるといっていました。私も同感です。疲れたときに楽にしてくれたもののことは忘れません。そして疲れていないときでもこの香りから
安らぎを感じるようになっています。ビターな熱さ。回復を想起させるイメージです。

参考文献

"AROMATHERAPY FOR HEARING the SPIRIT"
GABRIEL MOJAY
1997 Gaia Books Limited,London
Healing Arts Press

2000年に前田久仁子訳の日本語版
「スピリットとアロマテラピー」(フレグランスジャーナル社)も刊行

2 件のコメント:

  1. 言葉の選び方や精油に関するまなざしが、深く優しく、素敵なブログですね。読み入ってしまいました。これからも楽しみにしております。

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  2. tasekoさま

    コメントをいただきありがとうございます。
    「深く優しく」嬉しいお言葉です。
    これからも少しずつ綴っていきたいと思います。

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