『レオナルド・ダ・ヴィンチの秘密 天才の挫折と輝き』
著者 / コスタンティーノ・ドラッツィオ 訳者 / 上野 真弓
発行 / 株式会社河出書房新社
以前から楽しみにしていた一冊。
ローマ在住32年である訳者の上野氏いわく
「これは、物語のように綴られた美術エッセーである」。
そして、著者いわく
「彼の人生は、常に新しい目標のために前進することの繰り返しだった」。
彼の作品に未完のものが多いのも腑に落ちる。
約一週間をかけてゆっくりと読み進めた。
まさに彼の物語。his story が historyの語源であることに納得する。
多く登場するイタリア人の長い名前はなかなかすぐに覚えられず、著者が巻頭にまとめた登場人物を何度も参照した。最初にレオナルドの能力を見出すのは父親であるが、そのあとの流れが当時の時代背景と共に感慨深い。妥協せず好奇心を優先する彼は幾たびも挫折を伴いながらパトロンを変え、場所を変え、観察と試行錯誤に明け暮れる。
そんな彼の考察が絵画作品にどのように反映されたか、
巻頭の絵画作品の写真を何度も見返しながら考えさせられた。
そして、人体を30体以上も解剖してその構造と機能の関係を
探究したといわれる彼が晩年、ローマ滞在中の手稿に書いた
「もし健康でいたいなら、この規則を守れ。…」
で始まる短詩も実に興味深い。
レオナルド・ダ・ヴィンチ。
もうすぐ没後500年を迎える。
幼少期に愛読した「世界名作全集」に登場した伝記の中で、特に忘れられないインパクトを私に残してくれたのはこのレオナルドだった。
人体の解剖に没頭したり、空中飛行の研究をしたりとその探究心は尽きることがない様子が綴られており、画家であるという前に一人の好奇心旺盛な観察者、探究者としての魅力にあふれていた。小学生の私の心に「人間というものは、ここまでできる可能性がある」とエールを送られたような気がしたことも憶えている。
大人になってから読んだ香水の歴史の本の中で、レオナルドがオレンジ花の芳香成分を油脂に吸着させて得る方法を試みていた、という記述を見つけたときも、まさに彼らしい探求の一例だと納得していた。
少なくとも私には宝物の一つになるだろう一冊。
著者、訳者、そして
1452年から1519年まで生きたレオナルド・ダ・ヴィンチに感謝を込めて。
26歳のときに訪れたミラノとフィレンツェを
この本を読んだ上でいつかまた訪れたい。
…東京にて、《SAWAROMA》より
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