目には透明な空気の中、脳内で鮮やかに複雑な匂いが視覚化するような一瞬を感じることがある。それは、私の記憶が鮮明に残り始める6歳のとき、世界名作全集を読み始めた頃からであったと思う。ちょうど同時期に香水も嗜むようになる。以来、匂いをとらえようとする感覚は、世界を知るための重要なファクターとなる。
一週間程前、この本に出逢った。混沌として複雑、かつ魅力的な匂いの一瞬を視覚化したようなヴィジュアルの表紙。タイトルと表紙だけで魅かれたのだった。(装画:田辺耕世『DER6』2019 部分)
https://www.shunyodo.co.jp/shopdetail/000000000675/
日本近現代文学の研究者による、
香り立つ文学の楽しみ方…
順不同にぱらぱらとページを開いてみた。夏目漱石の文章、香水の名前、小泉武夫の著書名、森茉莉や北原白秋の言葉に再会する。改めて目次をじっくり眺めてみると約40の文学作品の名前が並ぶ。そしてコラム「香水の名前」をはじめとして数カ所で引用されているのが、平田幸子監修、ワールド・フレグランス・コレクション編『香水の本』(新潮社、昭和61年6月)である。
著者いわく、「香りがわかる人間には、よけいに文学がわかるということが起こり得る」(311p)。
読者の記憶の中の様々な場面がいかなる匂いや香りとともに在ったのかが重要であろうし、その積み重ねから生まれる想像力を文学が引き出してくれるのだろう。読書とは五感の再現の楽しみでもある。
今回一読してみて、初めてその名を知った文学作品もあり、さっそく興味を抱いたものの一つが、第2章 香水と花の文化 で紹介されている赤江瀑の『オイディプスの刃』(1974年 角川小説賞受賞、86年映画化)。ちょうどこの秋に新装された文庫本が発売されていた。
日本刀に魅せられた男性とラベンダーの香りを愛好する調香師の女性。かれらを両親とする三人の兄弟に起こったミステリーである。
40以上もの文学作品の新たな魅力を発見できる『匂いと香りの文学誌』。香り好きな人たちの愛読書になるに違いない。
…écrit par 《SAWAROMA》
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