2013年5月29日水曜日

大場秀章著『バラの誕生』を読む・2


大場秀章著『バラの誕生』を読む・1に続き
ひととおり読んだ上で改めて
特に印象に残った三つのことを記しておきたい。
*~*は私の印象の背景となった
本の記述をまとめたものである。


第一に
著者、大場氏の論じ方から
一貫して自然科学研究者としての謙虚で冷静な「事実」の見方を感じた。
わかっていることと、わかっていないことを明快に示すことをスタートラインとしなければ、それらの情報を材料としてどのように考えたかという筋道を示すことはできない。筋道がなければ第三者に納得のいく説明はできない。

第二に
美を発見する人間の感性が導く
影響力の重要性を感じた。
今回の場合はバラという生物種への影響力である。
数ある植物、花々の中で
人はバラに特別な価値を感じとり、特別な意味をもたせた。


そうした関心が遺された文献から推察できるのは
古代ギリシア・ローマ時代からであるという。
紀元前7世紀、エーゲ海のレスボス島に住んでいた
ギリシアの女流詩人サッフォーはバラを花の女王と呼び
バラについてのたくさんの詩をつくっているとのこと。
ローマ時代にはバラはさらに
高貴な花というイメージに加え
熱情、献身、秘密のシンボルと認められていったという。
そうした関心は、「より多く」いつでも欲しい時期に求められる要因となり
適切な場所での栽培へと導かれる。
さらに、「より強く」「より美しく」という願望がついには
19世紀の人口交配による初のハイブリッド・ティー・ローズに
始まるモダンローズ時代へと繋がる。


第三に
香料バラとして現在も世界的に名高く
栽培技術、香料製造技術ともに発展し続けてきた
ダマスクローズの歴史の古さである。


どうやら
古代ギリシア、紀元前の時代に植物学の祖と呼ばれた
テオフラストスの記述に登場する
「最も甘い香りのするバラ」
は大場氏によると
現在「ダマスクローズ」と呼ばれるバラであるらしい。


もし本当にそうであるとしたら。
少なくともこのバラは人との関わりにおいて
二千数百年の歴史を持っていることになる。
いまもその名で呼ばれ存在するのみならず
多くの新種の親でもある。

きっかけは
必要に迫られてのことだったかもしれない。
遠くからでもハッキリと伝わる強い芳香から
古代の人が特別な何かを感じていなければ
現代に生きる私はダマスクローズの香りには逢えなかったであろうし
これを原料とした香水にも出逢えなかっただろう。

さて
この本は一読した位では
到底全てを把握できるレヴェルの本ではないと思う。
私が触れた部分はほんの一部であり

バラの植物学
バラの園芸化の歴史
オールド・ガーデン・ローズ
モダーン・ガーデン・ローズ
バラの花譜
世界の野生バラ
………

豊富な内容が連なる。

まずは興味ある視点から一読すればよいと思った。
最初に私はバラの誕生の根拠と、香りについての関心度の歴史を追った。
これからもバラに想いを馳せるたびに開きたい本である。


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