2010年12月30日木曜日

今年もあと1日余り。愛らしい動物フォトの新年カレンダーを前に、Twitterのツイート数も1263ということで今年のツイログを振り返ってみました。

好きなものを思い起こすと心が穏やかになります。私は猫が大好きです。当然猫について色々とつぶやいているので、ちょっとピックアップしてみました。6月、7月、11月のツイートより。




気がつくと、散歩途中で猫に出会えることを生きる喜びのひとつとしている。聴覚バツグンらしく、かすかな舌打ちだけでも一瞬振り向いてくれる。愛らしくて俊敏。尊敬する生物。6月20日


夕方、雨の降る前に遭遇した猫。白にグレーの斑点。遠くからチチッと呼ぶと最初は無視しているかのようにみえたが、近づくと物陰で私をじっと見ていた。自分から近づかないで相手が通るのを観察しようということか。鋭いながら綺麗な輝きの目だった。こういう目はなかなか忘れられない。6月29日


静岡市内のデザイナーの方を訪問。入り口の高台に寝そべっていた猫がすぐさま私に近づいてきて、かなりの至近距離から顔や手を凝視。今にもキスされそうな雰囲気の中、されるがままにしていたら手を少しなめられた。好かれたらしい。メスでした。7月27日


今日は猫のことを色々思い起こす日だった。以前ある女性のお宅に打ち合せに訪れたとき、初対面の猫がのっそりと私の膝にのって小一時間以上眠っていた。女性にさとされてその猫は名残おしそうに私から離れた。「ひじきくん」というその猫はもうこの世にはいない。一期一会の素敵な時間。忘れない。11月14日


さて…
全ての猫に好かれるわけではないですが、比較的好かれます。私が猫を大好きという気持ちが伝わるのでしょうか。いやいやもっと科学的に、と言われてもわかりません。もしかしたら「におい」も関係するのかもしれません。地球上に生命が誕生してからの遥か長い長い歴史の中、ヒトという種類が出現する前から猫が存在していたのかどうかもわかりませんが、もし私のDNAの中にわずかでも猫が安心できるものの理由があるとしたら本望です。

2010年12月29日水曜日

"VENUS" Vol.22発刊

1988年に創立された「国際香りと文化の会」より年1回発行される会報誌 "VENUS" Vol.22 が先週末12/25に発刊。会員であり、今年度号の論文執筆者である私の元にも届きました。今年度 "VENUS"のテーマは薔薇。表紙の薔薇の名前は「エモーション・ブルー」で、越後丘陵公園国際芳香ばら新花コンクール2008年度金賞および国土交通大臣賞受賞花です。今年度号p84には、この薔薇の香りのタイプは「上品な甘さと粉っぽいウッディノートのあるブルー系の香り」と記されています。




「国際香りと文化の会」の初代会長は、諸江辰男氏(故人)。高砂香料工業株式会社相談役、日本香料協会理事等をつとめられた香りの文化通とされ、昭和53年には紫綬褒章受賞。そして現会長の中村祥二氏は、株式会社資生堂に於いて40年に渡る調香師の経歴をお持ちで、現在資生堂リサーチセンター香料顧問をつとめられています。私は1989年7月に晴海で行われたパネルディスカッションセミナー「香りの時代がやってきた…」にパネリストとしてご出演されたお二人のお話を興味深く拝聴したことを今も記憶しています。

この会には、香り分野を専門の職業とされる法人企業または個人だけでなく、広く香り文化に親しみ愛好される個人の方が入会できます。1年に数回の催事では香り関連施設を見学したり、講演会では専門家による興味深いお話を聴くこともできます。

さて、今年度の会報誌 "VENUS" Vol.22には、紀元前の昔から人が愛しその価値を認めてきた花、薔薇についての情報が満載です。私が寄稿した論文タイトルは、「薔薇の香りを音楽に ~ Le Piano Aromatique ~」。薔薇の天然香料として世界的に名高いブルガリア産ダマスクローズのローズオットーの香りを、ピアニスト&コンポーザーのアキコ・グレースさんに音楽表現いただいたコンサートの試みについて、今夏改めてグレースさんに取材の上で執筆しました。今年のローズヌーヴォーの香りへのグレースさんのご感想は11月の
ブログ「楽器になりたい」 に記しています。

"VENUS" Vol.22目次ページ





2010年12月25日土曜日

PARFUM 冬号(156号)発刊

香りの専門誌PARFUM冬号が12/20に発刊。今号表紙を飾るのは、黄金の都市「マノア」のイメージフレグランス「メモ マノア」のミューズ。




表紙を開けると見開きに嬉しいニュース。2008年に発売されてそのうっとりするような香りとテクスチュアが印象的だったメナードのオーセントクリーム(スキンケア商品)から、オーデパルファム誕生。ブルガリアンローズやオレンジフラワーの清々しい香りが今回どのような幸福感を描いているのか楽しみです。冬号にはメナード広報の方へのインタビュー記事も掲載されています。

おすぎさんの「呟きトーク」では最近"ソフトバンク"のCMに登場されて変わらぬ美しさを見せている女優Wさんの写真。編集長によって紹介されている来春1月公開映画の主演がカトリーヌ・ドヌーヴですから、年齢を重ねて香り立つ女性の魅力は素敵、と改めて感じる冬号です。来年の今頃は160号、創刊40周年。

2010年12月24日金曜日

W.B.5 アジア系女性の事例

" VOTRE BEAUTÉ " 2010年11月号の特集記事 "WORLD BEAUTY"を参照とする5回目のブログは、アジア系女性の事例から。まずは読後の第一印象を。
「アジア系女性が心地よくキレイを維持するには多くの問題をクリアしなければならないという現実。これは日本市場における化粧品産業の発展を促した要因の一つではないか」

皮膚の特徴が記された冒頭部分に専門家の次のようなコメントがあります。
「アジア系の皮膚は扱い難い。シミ対策、ニキビ対策、テカリ対策に非常に敏感であり、特に保湿前のダブルクレンジングに非常に低刺激のものを求め、選択の目が厳しい」
これに対してアジア出身の私はまさに同感。私自身、スキンケアのうちメイクを落とすクレンジングと洗顔に最も重きを置いているからです。いかに皮膚に余計な負荷をかけずにクレンジングするかを重視しています。


スキンケアに関する記述の中からポイントをまとめてみます。
1と2は、雑誌V.B.の選択した化粧品例も一部ご紹介します。

1,シミ対策
ロレアルグループ(化粧品関連企業)の調査によると、40才以降に多くのシミ(場合によっては1cm大のもの)ができる割合を、中国人女性とコーカサス系女性(いわゆる白人女性)とで比較したところ、後者が8%であったのに対して前者は30%であったとのこと。これにはホルモン要因が関連する可能性も提示。
V.B.からは、ランコムの"BLANC EXPERT…"、資生堂の"…White Lucency"、夜用にとクリスチャン・ディオールの"DIORSNOW …D-NA Reverse…"、外出時にとクリニークの"Derma White…" などが選択されています。

2,テカリ対策
テカリ、吹き出物、ニキビ。これらに対するアドヴァイスとして専門家は、抗ニキビ低刺激のもの、油分を含まないゲル状の保湿ローション、特にTゾーンの皮脂を抑えるタイプの使用をすすめています。 V.B.の選択として最初に挙げられたのは、パリにショップを構える日本人美容家のチコ・シゲタさんプロデュースによる精油ブレンドの製品。こちらにはローズ、ゼラニウム、シダーがブレンドとのことで、皮膚のバランス回復目的におすすめだそうです。その他黒ニキビ、吹き出物対策にはAvèneやVichyの製品、くすみのない明るい肌を取り戻すためにと、DHCのパック剤、粘土ベースのミネラルマスクも挙げられています。粘土粉末、例えばカオリンなどで私も時々パックしますが確かに毛穴の汚れが程よくとれてワントーン明るい肌になりますね。

3,過敏反応肌対策
「過度のクレンジング、皮脂除去は皮膚を過敏にしがち」と、美容家のシゲタさんはコメントされています。つまるところ、クレンジングに過敏になってしまうようなものを予め皮膚にのせないことも大切、と私は思います。その感想に応えるかのように、厚ぼったい感触のクリームはアジア人の皮膚には向いていないので使用せず、乳液状の皮膚に心地よい低刺激のものを用いるようにとのアドヴァイスが添えられていました。

メイクに関するエキスパートたちのアドヴァイスを読んでいたら、アジア系女性こそ描き甲斐、メイク甲斐のあるタイプではないかと感じます。黄み過ぎず赤み過ぎずの肌色と、頬骨や鼻のなだらかなラインだからこそ、イメージ目的にあわせて多様なメイクを楽しめるというわけです。チラリと華やかな祇園の舞妓さんが頭に浮かびます。現に、今回の記事の4人のモデルのうち、唇に最も華やかな朱色をのせているのがこのアジア系中国人女性でした。

化粧品の中でスキンケアやメイク関連商品が圧倒的な売上を占めるというアジア。わかりますね。興味の対象がまずはそちらに行くことは。しかしながら、だからこそ視覚的美観をひきたてるために香りも使って欲しいと私は思います。程よく心地よく香るものの存在はストレスを軽減し、皮膚への負荷も軽減させるでしょう。そして何よりも、自分からふわりとエレガントな香りが立てば、鏡でチェックしなくても笑顔に自信がモテるはずだから。

2010年12月22日水曜日

W.B.4 アフリカ系女性の事例

引き続きフランス美容雑誌"VOTRE BEAUTÉ"記事より。

皮膚は人体内部から作り出される外部環境への防御システム。
体内の水分の蒸発を最大限に食い止めつつ、外部から菌やウイルス等の侵入を防ぐ。皮膚の役割とはまさにこの2点。以前皮膚科医の著書から学んだことを、今回アフリカ系女性の事例を読んで再認識しました。

灼熱の陽射しと乾燥は皮膚の色を濃く深く黒に近い色にし、水分を逃すまいと皮脂腺を活発化させて皮脂分泌をさかんにします。結果、推奨されるゴマージュ(皮膚の古い角質除去)の頻度は、前回のフランス人の月1回に対し週1回。ただし洗いすぎもNG。ゴマージュに使用されるのも酵素系を、と皮膚をいためないようなタイプが挙げられています。新陳代謝に合わせて清潔を保ちつつも皮膚の保湿を常に心掛け、クリームによる補充ケアで硬化しがちな皮膚を柔らかく見違えるような状態にすることもできるとのこと。今年の猛暑を思い起こすとその時期のスキンケアにとって大切だったことが脳裏に浮かびます。

すでに深く濃い色の皮膚。メイクはこの色をより輝かせ、艶を出すために行うことがすすめられています。Tゾーンと頬に使用する"black Up" という名称のスティックタイプファンデーションの写真が印象的。


ヘアケアにも多くの記述がありました。皮膚と同様に丁寧なケア、補い護ることの大切さ、特にリンスの適用がすすめられていました。日本製のリンスもすすめられていたことにはちょっと驚きでした。幼少期からヘビーな三つ編みなどでダメージも受けている髪の復活と再生のために、この雑誌からシャンプーやシャインスプレーも具体的に提示。こうした髪のケアについては、専門家の意見を尊重し、信頼できる情報に基づいて化粧品を選ぶことの重要性も力説しています。

外部環境に対抗した結果の皮膚の状態といえば…。
たとえば私たちの場合でも、足裏にできるタコなどは、ハイヒールで体重のかかる部分にできやすいもの。硬く層を厚くして内部をまもろうとするのです。その外部刺激が避けられないならば、皮膚をやわらかく艶のある状態にするために保湿とクリームによるケアを丁寧に行うしかありません。

厳しい環境下で生き抜いた人の状態は、人類がより良い状態で生きていくための有益な知恵を示唆しています。アフリカ系米国人女性の均整のとれた抜群のプロポーションを写真で見て、小さな頭部と長い脚が、過酷な環境下で機敏に走り回り弱肉強食を生き抜くための必然であったような気がしています。

2010年12月19日日曜日

W.B.3. フランス人の事例


引き続き" VOTRE BEAUTÉ " 2010,11月号"WORLD BEUTY"記事より。
ブロンドとブルーの瞳、透きとおるようにきめ細やかな皮膚を持つフランス人女性の事例。

まず、読後の感想を結論としてひと言。
化粧品先進国フランスは、まるで壊れもののように丁寧な手入れと気遣いを必要とする皮膚と髪の持ち主のための必然だったのかもしれません。

☆髪ときめ細やかな皮膚は光を集めて明るく輝く外観。赤ちゃんのように細く柔らかい髪質。一方これらはまるで"FRA-GILE"(壊れもの)!温度変化に過敏に反応する皮膚は赤みが出やすく、十分なケアがないとたちまちしおれ…髪もケアがなければみごとにヴォリュームを失い、精彩を失ってしまう。☆



この特徴の記述のすぐ右側に皮膚の保護についての赤文字の文章。
☆確かにカリフォルニア人のような小麦色の外観も必要だけれど、長年の日焼けはうんざりさせる結果「20才でニキビ、30才でシワ、50才で赤ら顔、言うまでもなく褐色のシミと皮膚ガンのリスク」も伴うと皮膚科医はコメント。センシティヴな皮膚のために普段から保湿を心掛け、紫外線防御機能をもつファンデーションやクリームでケアすること。VB.(この雑誌の略称)のおすすめ化粧品がアロエ抽出物配合の乳液状クレンジング剤、SPF15の軽いリキッドファンデーション。☆

光を集める明るい外観を生かすメイクや色選びについては…
☆淡く青みがかった寒色系のパステルカラー、例えば薄紫色、ローズピンク、ストーングレーなどが顔の肌色を明るく見せる。ジュエリーならば銀やアメジストなど。部分的な赤みをカモフラージュするために黄みがかった色のパウダーを使う。ファンデーションとしては透明感を活かすためにリキッドタイプで薄付きの明るいベージュ色のものを。頬紅には、サーモンピンクではなくローズピンク。ブルーの瞳の色を際立たせる為にオレンジ色~茶色系のアイシャドウ。…☆

私はブロンドでも青い瞳でもありませんが、赤みの出やすい似たような皮膚のタイプで髪の色も真っ黒ではなく茶系の細い髪質。ワードローブにあるカラーは白の他、青系、グレー系が多く、アクセサリーも殆どシルバーです。昔パリで買った淡い紫色のニットはよく似合うので今も着ています。

その他、ヘアケアでは髪が細くペタッとしがちな問題を、毛根と頭皮を植物由来のオイル配合のアイテムを使って丁寧にケアすることも書いてありました。私自身もセルフケアでよく行っていることです。入浴の方法についても、温度変化にデリケートなタイプゆえ、ぬるめのお湯のシャワーで優しく洗うことが望ましく、熱い湯のはいったバスタブに入ることは良くないとの記述に私は同感。幼少時から温泉などには長く浸かっていられず皮膚が真っ赤になってしまい、これがまた痛い!半身浴は美容に必須とよく言われますが、こうした皮膚への配慮も考えなくてはならないと改めて感じます。私は入るならばぬるめに短時間ですね。とても読書などできませぬ。よく欧州人はあまり風呂に入らないから不潔であるかのような印象をもたれがちですが、こうした背景とともに、バスタブに浸からなくともシャワーで清潔を保っていることも忘れてはいけないと思います。実際私は行く場所が変わるとき、服だけでなく香りを着替えるために同日に数回シャワーを浴びることもあります。

最後に水質の問題。髪のリンスにビネガー配合のものをという理由に、カルシウム成分の多い水対策という説明もありましたし、特にデリケートな皮膚のメイククレンジングにこうした水を使わないために低刺激の乳液状拭き取りタイプを選ぶという選択。なるほどですね。

2010年12月17日金曜日

WORLD BEAUTY・2

" VOTRE BEAUTÉ " 2010年11月号の表紙に、肌も髪も瞳も色の違う女性が4名。トップ記事のタイトルの中に英語"WORLD BEAUTY"とあることが印象的。

チュニジア人、フランス人、中国人、アフリカ系アメリカ人。4人それぞれの女性の皮膚や髪、身体的特徴(強みと弱み)、それに応じたスキンケア、ボディケア、メイクアドバイスが掲載されています。皮膚科医、静脈に関する専門医、メイクアップアーティスト、栄養士などの専門家のみならず、中国人女性のページ末尾には日本人リポーターへの謝辞も添えられていました。徹底的な探求心を感じさせる記事です。




私が第一に感じたのは、汎用性の高さです。これを読んだあらゆるタイプの女性が、細部を自分のタイプに参照させて活用できるというロジックの明快さが見られます。チュニジア人の事例を読むと、目の隈やシミへの対応で納得のいく記述がありますし、フランス人の事例では皮膚に赤味が出やすい点が自分に該当するためそのケアとファンデーション選択アドバイスの記述がまさにうなづける内容でした。中国人の瞳や髪、皮膚の色に合うよう提案された口紅の明るい朱色選択も然り。アフリカ系アメリカ人の皮膚は、強烈な陽射しと乾燥から水分の蒸発を防ぐために皮脂腺が皮脂を分泌してガードする…ゆえにその機能を弱めるような洗いすぎは良くない…など、乾燥にさらされるときのスキンケアとしても参考になるのです。

チュニジア人の事例から、その特徴と共に日本人の知人からも質問されることの多い「目の周りの隈」対策を中心に訳して要約してみます。(☆と☆の間)


☆特徴として強みは老けにくい皮膚と丈夫な髪。弱みはニキビができやすいこと、そして目の隈、ホルモンに由来するシミ、下半身の肥満などが遺伝的に発生しやすい傾向。目の隈は、誤ったリンパドレナージュにより悪化することあり。上半身をやや起こして仰向けに眠り、クリームなどを塗るときは目の輪郭に沿って。これだけでも良くなる。メイクでこの隈をカモフラージュするときは、隈の上にパウダーをそっと拡げてから暗い色の部分に点で塗ったものを指で優しく軽くたたきながらなじませる。リンパの流れを良くし引き締めるために海藻成分の目元クリームを。隈をカモフラージュして顔全体の肌色を仕上げるために、14種のニュアンスを揃えた隈対応コンシーラーを…☆


なるほど。目の隈は血行不良に起因するのではと考えていましたが、遺伝的原因もあり、リンパの流れをよくすることも大切なのだと感じました。その他、むくみやすく下半身が肥満しやすいため常に生活の中で運動をとりいれて静脈の流れを良くするようにとアドバイスがあったり、食生活でもなるべく塩分を控え、米、火を通した野菜料理なども取り入れるよう勧めています。
アンバーカラーの皮膚と柔らかくふっくらとした唇の放つ明るさを活かすためにあえて唇にはっきりとした色を使わないメイクアドバイスも興味深いです。

2010年12月16日木曜日

WORLD BEAUTY・1

色というものは、周囲との関係性において綺麗に見えるものであり、それ自体はただ、「見え方」の一つでしかない。自分の肌と髪、瞳の色をよく観察して知っておきたいもの。

これは今週月曜日にツイッター上で私がつぶやいていた言葉です。
そして昨日、日経ビジネスオンラインで、ローカリゼーションマップー「イタリア女性の化粧が派手で香水が強いのは? 資生堂に聞くー日常に潜む異文化のコンテクストを知るヒント」が掲載されました。

この記事を読み、化粧は環境と自己との境界にあるものと再認しました。

仏美容雑誌 "VOTRE BEAUTÉ" に"…WORLD BEAUTY"と英語の入った見出しの特集記事が。欧州、アフリカ、アジアなど異地域の出身で肌質も髪質も違う、湿度も気温も異なる環境で生活する4女性への化粧品対応アドバイス。具体的で興味深いです。内容の濃さにいたく感動。タイプ別の化粧品アプリケーションの説明がロジカルかつ、具体的で細やか。さすが化粧品先進国。

これからじっくり読み込み、明日続きで内容を一部紹介したいと思います。





2010年12月14日火曜日

日本の型染

今は亡き祖母が私の20才の祝いにと「びんがた」の振袖をあつらえてくれたとき、その華やかな多色の文様と「びんがた」という言葉の響きが印象的でした。
当時はよくわからなかったことが今になってわかる喜びは深く温かいものです。文化学園服飾博物館での展示「日本の型染」を見て、自分が生まれた国でかつて素晴らしい衣装文化が培われていたこと、そしてその価値を、明治生まれの祖母が愛情をもって私に伝えたかったのだと知りました。

琉球衣装の伝統的な型染、「紅型(びんがた)」。この紅とは、単なる紅色を示すのではなく、華やかな多色を示して呼ばれたそうです。…文様を彫り透かした型紙を用い、防染のための糊を置く…文様の部分に手で色を挿し、糊で伏せた後で地を染める…(文化学園服飾博物館資料より)手間のかかる技法です。小紋をはじめとするさまざまな型染の見本の中でもひときわ華やかです。

和服のテキスタイルの魅力は、遠くから眺めて感じられるニュアンスと、近くで眺めて感じ入る細やかな描写です。
小紋などは、遠くからは、それを身につけていた人の簡素な生活の中で誇り高く生きる気概のような引き締まった空気が漂い、近くで細かな文様に見入ると
日々彼らが感じ取っていた自然の中の美の形に改めて気づかされます。

この展示は今週12/18までですが、新年1/27からは「アンデスの染織」の展示が始まります。ペルーからボリビア北部に栄えたアンデス文明がテキスタイルにどのように反映されたのか、こちらも楽しみです。

文化学園服飾博物館
東京都渋谷区代々木3-22-7新宿文化クイントビルTEL.03-3299-2387
開館時間/10:00~16:30(2/4,18は19時まで開館、入館は閉館30分前まで)
休館日/日曜日・祝日(2/27は開館)
入館料/一般500(400)円、大高生300(200)円、小中生200(100)円 ()内は20名以上の団体料金、障害者とその付添者1名は無料







2010年12月12日日曜日

フレグランスボトル

今年発売のフレグランスを10種近く集めてあれこれ考察した1週間が過ぎました。今週はそのうちの大半を返却しなくてはならないので、今のうちにボトルの外観、仕様についての感想を。

「飾っておきたい…このボトルが欲しい…」と若い女性からも好評だったのは、ニナリッチから春に発売されたリッチー・リッチー。テレビCMも流れたようです。蓋も本体もその境界にあしらわれたリボンも、光沢感のある紫がかった深いピンク色。この色とリボンとの一体形をひと目みたとき、10代後半から20代の女性に愛されると感じました。
「タイムスリップしたような感覚」とレトロなガラス仕様が好評だったのはジバンシーのオードモワゼル。私は個人的にこのフレグランス自体の色が好きです。ジューシーな媚薬のように想像できる淡い色が、細かなガラスカットの反射で透明感を増しています。
「旅立ちのときに」携帯したくなるようなエルメスのヴォヤージュ ド エルメスは、ボトル本体にシルバーの回転するカバーがついており、スプレーノズル部分を隠せるようになっています。一度見たら忘れられないユニークな携帯ボトル。
「まるでリップグロス。メイク道具の一つ?」と思わせるのは資生堂のマジョロマンティカ。真っ赤な縦長のボトルにとろみのある甘い香りをコンパクトに収納。メイクの楽しみを感じ始めた女性がバッグにしのばせたくなる小道具になりそうです。
「深いブルーと磁石の魅力」はシャネルのブルー ド シャネル。光に透かしてみると黒に限りなく近い青が堪能でき、蓋を閉めようとすると本体に吸い寄せられるように戻ります。蓋に磁石。
「金属をわしづかみに?光の角度で色んな色が見える」のがマーク・ジェイコブスの"BANG"。デザイナー自身がイメージビジュアルモデルに登場した大胆さも衝撃的ですが、このボトルも名前のとおりの面白さ。男性の丈夫な大きな手でガッシリとつかまれてこそ、の外観かもしれません。






昔、イタリア土産の香水ボトルで面白いなと思いコラムに書いたことがあったのでその内容も振り返りました。イタリアのPUPAというブランド、健在のようです。

2010年12月11日土曜日

プロコフィエフの曲

今日、NHKテレビ「坂の上の雲」を視聴していたら、20世紀初頭のロシアの風景と、そこで交わされるロシア語の響きがまるでピアノ音楽のように印象に残り、連想が記憶を駆け巡りました。たどりついたのがロシアの作曲家、セルゲイ・プロコフィエフによるピアノ協奏曲第3番。10代で初めてこの曲を聴いたとき、非常に強いインパクトを受けたことを思い起こしたのです。秘められた激しい感情の響き、ともいうような旋律でした。

それまで、プロコフィエフという名前すら知らなかったと思います。コンサートで聴いたわけではありません。当時1人で映画館で映画をみることが好きだった私が「コンペティション」という映画の中で耳にしたものです。この映画は、アメリカのサンフランシスコにおけるピアノ・コンクールを舞台にしています。登場人物が様々なピアノ曲を披露するのです。そのうちの1曲がプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番でした。

約30年前の映画ですが、先日NHKのBS放送でピアノをテーマにした映画の一つとして放映されたようです。ピアノ演奏のシーンが印象的です。映画自体のテーマ曲もこのプロコフィエフの音と共に私の記憶に残っています。

私はロシア語にもロシア音楽にも詳しいわけではありませんが、両者の関係性を、今日あらためて感じています。心の中に生まれる感情を表現する手段が、結果的にピアノ曲となった作曲家の存在を想像して。昨日もある舞台でラフマニノフのピアノ曲を聴いたことを回想します。演技のバックにオーケストラの生演奏が流れると一気にシーンごとの立体的な雰囲気を感じられます。まるで香りが流れるように。そういえばシャネルNo.5の調香師、エルネスト・ボーもロシアの生まれとのことです。

2010年12月10日金曜日

eaudemoiselle(オードモワゼル)

クラシカル。でも香り方はモダン。普遍的な女性美の一端。

そんなメモが書いてあります。文化女子大学でのフレグランス鑑賞講義のためにセレクトした一つ、"eaudemoiselle(オードモワゼル)"についての資料中、私の走り書きの冒頭でした。

eauは水、demoiselleはお嬢さま、令嬢。生まれながらの気品と自信を兼ね備えた女性が自らの個性を表現すべく放つオーラのようなもの…をちょっと想像してみます。なにかキラキラとした、緑にきらめく朝露のようでもあり、夜の空にまたたく星のようでもあります。心を研ぎ澄ませば感じられるけれど、忙殺されているとつい見過ごしてしまう命の輝きのようなものかもしれません。

今年の春に発売されたこのジバンシーのフレグランスは、ファッションを専門に学ぶ大学生たちにとっても、ヴィジュアル表現ともに興味深い香りだったようです。今月に入って限定のミニサイズとメイクアップパレットのセットも発売されたとか。好評だった証といえそうです。

本国フランスのジバンシーサイトをチェックしたところ、"eaudemoiselle"自体のサイト(要Flash)もあり、そのイメージヴィジュアルメイキングのこまやかな作り方も印象に残りました。




ジバンシーからは1980年、オーデジバンシーというみずみずしい香りが発売され、いまだに人気を誇っています。オードリー・ヘプバーンのためにつくられたという香りもありますし、そうした経緯からもさすがと感じます。

調香師は「朝露に煌めく空想のバラ」のような香りをイメージしたのだとか。
空想のバラ。空想の女性、と言い換えてみたくなる香りです。

ブレイクタイムの香り

9月からフランス語の講義を担当することになり、昨日で11回目が終了。ファッションを専門に学ぶ若い人たちに、この言語と背景の文化に少しでも興味を持ってもらいたいという気持ちで毎回取り組んでいます。

新しいことを学ぶというのは、慣れない考え方に挑むことでもあり、ちょっとしたことで挫折感を感じやすい危険性もあります。特にフランス語の場合、日本語とも英語とも異なる独特の発音、性別のある名詞、動詞の多彩な活用など…。
いかに「聴く」「音読」「書く」「話す」の要素をまんべんなく取り入れてもこれらは視覚・聴覚メイン。そこで脳のリフレッシュをと考えました。90分のうちのほんの数分。香りのブレイクタイムを設けたのです。第2回目から昨日までの10回のブレイクタイムで紹介した香りは以下の通り。精油の場合は強い香りゆえ、原液ではなく予め移り香の状態の紙で渡すこともありました。

レモン精油
ライム精油
グレープフルーツ精油
オレンジ・スイート精油
ベルガモット精油
マンダリン精油
ローズオットー精油
ファッションブランド、アン・フォンテーヌのルームフレグランス
ヴォヤージュ ド エルメス(エルメスのフレグランス)
オードモワゼル(ジバンシーのフレグランス)

香りの感想を言葉で無理に求めたりせず、彼らの正直な反応を観察しました。レモンやライムのときは、ぱっと花が咲いたように笑顔がいくつもみられました。目が覚めたという表情も。ベルガモット、マンダリン、ローズオットーのときは、目を閉じてうっとりと香りに浸っている顔も見られました。フレグランスのときは言葉に出して「素敵…」や「いい香り…」などの呟きも。

個人の好みはさまざまですが、講義後に質問とともに、香りのコメントを自ら告げにきてくれた例も多く、なんとなく刺激になっているのかもしれません。
視覚・聴覚とは異なる嗅覚刺激は、それだけでもリフレッシュになるようです。
緊張した脳の回路を解きほぐし、過ごしたその時間自体をポジティブな記憶としてとどめていけるなら、香りのブレイクタイムも価値ありです。





2010年12月8日水曜日

イタリア

講義のためにと資料を探していたら昔の"PARFUM"誌に遭遇。時は1991年。80号(冬号)に、私がイタリアに行ったときのエピソードを記した文章があり、懐かしく目をとめました。

…白いカフェテラスに映える恋人たちの装い、くすんだベージュの大聖堂を背に勇ましく行進する少年たちの紅潮した頬、そして、秋の光に段々と染まりつつある深緑の街路樹。心地よい視覚の世界だ。

これはその文章の中の一節です。10月半ばのミラノの街並を描写したものです。当時、リネアモーダという雑誌の編集者であった私は、MIPELというバッグの見本市取材のために約1週間ミラノに滞在しました。1日だけフィレンツェを訪れましたが、このわずかの滞在で私はすっかりイタリアが好きになり、帰りたくないという気持ちが強かったことを良く憶えています。

まず、表情が豊かであることイコール、コミュニケーションとなること。これは気持ちの良いものでした。挨拶語、数字、疑問詞位しかイタリア語を知らなかった私は顔の表情と声のトーンで何とか言いたいことを伝えようとしましたが、私が出会ったイタリアの人たちは笑顔で答えてくれました。
次に、自分の気持ちを表現して着ていた服装にきちんと反応してくれること。ファッション関係者が集まるMIPEL会場では初対面の人と挨拶をかわそうとすると、まずさりげなく服装をチラリと見られ、その上で話が始まります。これはある意味仕事上のことかもしれませんが、こういった場所だけでなく、ふらりとランチに入ったお店でも、見知らぬ人からごく自然に「素敵な色ですね」と着ていたものに反応されたりしました。こういうことは勿論彼らからすると一種社交辞令のようなものかもしれませんが…。
そして、口にするものの美味しさ。街のあちこちにあるバールのエスプレッソやカプチーノの香りの良いこと。あの香りと共に、イタリアのコーヒーの美味しさは忘れません。通訳の方に連れて行っていただいた、現地で大人気のピッツアのお店もそれはそれは気さくな雰囲気で、オリーブオイルをたっぷりかけて食べる本場の味の美味しさに感激しました。

心地よいこと、美しいと感じること。こうした感情を大切にしながらも、気負わず気さく。この空気感は今も深く印象に残っています。イタリアに関しては、また細かなことを思い起こしたら改めて色々と書きたいと思っています。






2010年12月5日日曜日

ローズ・バスタイム

久しぶりに一人になれた休日の午後。今日中に、という差し迫った仕事から少し開放されたので、とっておき2010年産ブルガリアン・ダマスクローズの精油、ローズオットーを使ってリラクセーションタイムを過ごしてみました。

まずバスタブにお湯をためて…その中に、私はよく精油を天然塩に混ぜたものをいれます。おわんを二回りも小さくしたようなグラスに、ざらざらっと天然塩を大体カレースプーン2~3杯くらいでしょうか。赤穂の天塩でも伯方の塩でも石垣の塩でも…とにかく天然粗塩であればよいと思います。こちらにローズオットーを滴下。私の使っているスポイトは1滴0.025mL(これで約50本分の薔薇の花の香り成分とのこと…)なので約100本分+バスルーム内への揮発分を見越して3~4滴。(人によっては1~2滴でも十分という場合もありますね。)

ローズバスの香りを楽しむために、手早くシャワーで軽く体を洗ったらすぐにバスタブへ。できればこのバスタブに入る直前にローズオットー入りソルトを。この容器のグラスでお湯をかき混ぜるように入れるのがベスト。お湯の温度によってローズの複雑な香りが一気に拡がるのを感じます。ハチミツのような甘さ?と思いきや、植物の青々しい苦味が感じられたり…。天然精油ですから、調香師によってラストノートまで整えられたわけではありませんが、ワイルドな薔薇という生き物の香りがゆっくりと柔らかく拡散し、いつしかバスルームが優しい花の香りに包まれていることに気付きます。はるか昔クレオパトもこの香りに…と想像。

ゆっくりと腹式呼吸をしながら心地良さに浸っていると、段々身体もリラックスして、うっすら額や頭皮に汗も。これで良いのです。毛穴がゆっくり開き、お湯に浸かっているだけでも皮膚の汚れは落ちますし、お顔の気になる毛穴も普段よりずっと開きます。丁寧に頭皮をシャンプーで洗ったり、お顔と身体を洗うのはバスタブを出てからのほうが皮膚に負担をかけず合理的。ゴシゴシこすらなくても、石鹸を泡立てた手のひらを使えば洗えます。

皮膚に精油を使用する場合、適応には個人差はあるので、香りが苦手であったり、パッチテストでアレルギー反応が出てしまうようであればこうしたことはできないですが、もしそうでなければぜひお試しを。この1滴1滴のパワーを湯気とともに一気に拡げて楽しむのです。薔薇の生花を100本浮かべるよりもトゲもなくリラックスできます。

このローズバスは、その夜にとても深い眠りをもたらしてくれます。私の場合いつもそうです。人によってはこの香りによって脳がシャープに働き始め効率的に仕事がはかどり早く就寝~熟睡できたという事例もきいたことがあります。

最後に、私の体験からのおすすすめを。
このローズソルトは作り置きするよりフレッシュな香りのうちに…。
塩を入れると汗が出やすくあたたまるようです。
塩に精油を混ぜる容器はガラス製を。底が丸めのほうが後で洗いやすいです。精油は水に溶けないので洗うときは中性洗剤で。
ローズバス入浴後すぐにお湯を落とさず、浴室ドアをしばらくの間開けて周囲にダマスクローズの残り香を。乾燥しやすい今の時期、程よい加湿とともに。

ソムリエの表現力から

ソムリエの田崎真也さんが非常に面白い本を書いていらっしゃいます。お料理やお酒の美味しさをきちんと言葉で表現するための考え方、田崎さんご自身がソムリエとしてワインの豊かな香りの表現を憶えていく修行を通じて感じられたこと、五感を研ぎ澄ますことによって表現力を磨くことの大切さをまとめていらっしゃいます。香りはもちろん、目に見えないものの価値を人に伝える仕事をしている人たちにはおすすめです。実は私は"PARFUM"誌次号(12/20発刊)でもこの本の書評を書きましたが、一足お先にこちらでもご紹介しておきたいと思います。


言葉にして伝える技術ーソムリエの表現ー

著者/田崎真也
発行所/祥伝社
定価/本体760円+税

2010年12月4日土曜日

イメージを描く

あれは夏の終わり頃、静岡の学校で今期最後の授業を終えたとき、1人の男子学生から「先生、この香りどう思われますか」と、1枚のムエット(試香紙)を渡されました。"BLEU DE CHANEL"と印字。前日に百貨店でもらったとのこと。うっすらとした残り香は時間経過から考えてもラストノート。

香りをどう思うかときかれて私が最初に確認するのは、その質問をした当人がまずどう感じるかという第一印象をもっているかどうかです。自分の正直な感じ方を確認しないうちに第三者の感想を聴いてしまうと、影響されてしまう人は結構います。とはいえ、感想をハッキリと言葉で表現できないケースも多いのもまた事実。そういうとき第一印象を尋ねるために次のような質問をします。
「好印象ですか」
「何か思い起こすことはありますか」
「この香りからどんな人をイメージしますか、もしくは色や形…」

さて、私に質問された学生さんは、少なくともこのフレグランスにネガティブな印象は抱いていないようでした。彼の眼差しからそう感じたというのもありますが、明らかに嫌だと思うものをわざわざ学校に持ってきたりはしないでしょう。いくつか質問してみましたが、なかなか想像するのが難しいようでしたから、私はたしか次のようなことを言ったと記憶しています。
「この紙に残った状態としてはなかなか良いバランスの香りではないかと思います。大人の、私がイメージする素敵な男性を想像しますね。さて、あなたもすでに大人の男性ではありますが、どんな男性でありたいと思いますか。ご自身のどんな個性を引き立たせたいと思いますか。そのイメージと、この香りから感じられる人のイメージが重なるかどうかですね。」

彼の回答が印象的でした。
「まず自分を知らなくてはなりませんね。」
この反応が嬉しくて、私は続いてこう答えました。
「そうです。このフレグランスは確かにシャネルというブランドが誇る香りではありますが、主役はあくまでもこれを身に付ける本人です。あなた自身のイメージのために使われるかどうかですね。」

香料名の話や、トップ~ミドル~ラストノートというような説明は一切なかったのですが、それは賢明な彼が、ラストノートの香りの紙を私に持ってきてくれたからでしょう。最後まで残った…フランス語でいうと "Ce qu'il laisse derrière lui"…この状態の香りからイメージできることを確認できたからです。
今、私の手元に "BLEU DE CHANEL"本体から吹き付けられたばかりの香りがあります。彼はおそらく百貨店で渡されたとき、この香りから何らかの第一印象を感じ、すぐに捨てることなく香りの変化と共に過ごしてみたのでしょう。

形ある衣服ならば鏡で試着の状態を確認できますが、香りは目に見えません。見えないからこそ大切なこと、それはイマジネーションです。香りと出会ったとき、第一印象からはもちろん、残り香からもイメージを持ち、さらに自分はこうである、こうでありたいイメージを普段から描いておき、それらと照らし合わせることを大切にしたいものです。こうした経緯の上で香水のプロの方から香料のこと、調香師のコンセプトなど背景をうかがうのは非常に楽しいものではないかと思います。

2010年12月3日金曜日

ご質問にお答えします

「香りの専門誌 "PARFUM" はどこかの図書館で閲覧できますか」というご質問を先週いただき、編集長に確認しましたので忘れないうちにお伝えします。

「香りの図書館」
東京都千代田区飯田橋1-5-8 アクサンビル8F
TEL: 03-3264-0126
火曜日~土曜日 10:00~17:00開館
入館料 200円/1回
年会費 2,000円で会員となれば一年間入館可

こちらは2005年10月、お隣ビルにあるフレグランスジャーナル社さんによって開館されました。ですから2005年秋号くらいからの"PARFUM" は置いてあるのではないかと思われます。香りや美容関連、フレグランスを含めた化粧品,エステティック、アロマテラピー、自然療法など多岐に渡って貴重な文献が多く、私も一時よく通っていましたし、この図書館開催の定期的なセミナーにも参加していました。(今月10日にも精油に関する興味深いセミナーがあるようですね)
フレグランスジャーナル社の最新刊をチェックできるのも魅力です。たとえば雑誌では1992年から隔月で刊行されているアロマトピア、2000年からの"AROMA RESEARCH"も、香りについてより科学的に深く好奇心をもつ人には面白い内容でしょう。…こうした貴重な雑誌や文献については、後日改めて詳しくご紹介出来ればと思っています。

ラストまで聴いて

寒い季節になると思い起こすフレグランス。ラストノートがほのかにふんわりと甘く温かいイメージをもつもの。フレグランスは香りの揮発の順に伴って、最初の香り立ちのトップノート、落ち着いてきたころのミドルノート、数時間経っても余韻のように残っているラストノート…この全過程をすべて「聴いて」から選ばれるべきと思います。

たとえばトップからミドルにかけての印象よりもラストの印象が好きな場合、時間差を考慮して、香りを身につけると良いと思います。出掛ける直前に衣服を着用した上に最後の仕上げとばかりに鼻に近い上半身に一拭き、というのは最も失敗しやすい例です。プンプン香って辛くなってしまうかもしれません。こういうことをしてもOKであるとしたら、会う人のほとんどがドレスアップして華やかな香りを纏っているような場所以外は…なかなか考えられません。

それでも出掛けるまでにそんな時間などない!というとき、大丈夫。アナタの体温でゆっくり温められた香りを衣服の間からゆっくりとこぼれるように香らせるとよいのです。フレグランスは最初に肌に身につける衣服だと思って、素肌のウエストまわり、膝の裏あたり、足首まわりなどにつけるのです。各場所にワンプッシュずつでは多いかもしれませんので、一箇所ウエストだけにする、あるいはスカートの場合は膝だけにするなどポイントを絞ってもよいでしょう。または予めコットンに一拭きしたものを各場所に少しずつつけるという方法でもよいと思います。そのコットンは腰の位置に内ポケットがあれば入れておくのも良いでしょう。肌が弱い人にはこの方法もおすすめです。

寒い冬の朝、私は前夜に膝下に纏ったフレグランスの甘い温もりで心穏やかに目が覚めたことを思い起こします。体温で柔らかくなった香りはまさにラストノート。音楽と同じように、香りもラストまで聴いて。

2010年12月2日木曜日

調香師の著書

昨日ご紹介いたしましたフレグランス、 " Voyage d'Hermès " の調香師であるジャン=クロード・エレナ氏の著書「香水 香りの秘密と調香師の技」が、12月に白水社クセジュ文庫から刊行されます。昨日お会いした香水評論家の平田幸子さんからこのことをきいて白水社のWeb中、クセジュ新刊案内のページを確認したところ、確かに記載されていました。

私は、同じクセジュ文庫の既刊「香りの創造」が大好きです。何度読んでもいつも毎回発見があり、イメージが広がる素晴らしい本。1988年に発刊されたこの本の著者も調香師エドモン・ルドニッカ。調香師という人が、いかに地道な修練を積む中で感覚を研ぎ澄まし、日々技術を磨きながらクリエイティブな試みに挑戦する職人であり芸術家であるか、深く深く実感できる本です。今年私が「国際香りと文化の会」の機関誌 "VENUS" 22号に寄稿した際の参考文献の一つでもあります。

ジャン=クロード・エレナ氏もこのエドモン・ルドニッカ氏の著書を敬愛していたのだそうです。エレナ氏の著書はどんな内容なのでしょう。今から非常に楽しみです。


2010年12月1日水曜日

Voyage d'Hermès

久しぶりにフランスの美容雑誌 "VOTRE BEAUTÉ" を購入。毎号興味深い香水評論の記事があり、20代の頃に購読していたのです。今回手にしたのは2010年11月号。ちょうど100頁目にその記事はありました。キャッチに書いてあったのは、" Pour lui? Non, pour moi! " ( 彼のために?いいえ、私のためよ!)。
記事本文を読む前にこんな女性のひとりごとを想像。
「…彼にプレゼントしようと思って選んでみたけど私にも似合うじゃないの、私のフレグランスにしようかな…」

そこでちょっと雑誌を閉じて今年の春に発売されたエルメスのフレグランスを思い起こしました。名前は " Voyage d'Hermès "(エルメスの旅)。発売当初、エルメスブティックの前で香りが吹き付けられた荷札のような紙を渡され、瞬時に心浮き立つような気持ちを感じ、ゆっくりと未来への通り道に向かうような気分になったことを覚えています。近くにいた男性もすぐにこの香りを気に入ったようでした。

何の香料が入っているとか…そんなことを考えるより、気分をすぐに変えてくれたことが嬉しくて、その後色々な人にこの香りの印象を尋ねました。男女ともに、その人の雰囲気と気持ち次第で楽しめそうです。香りが吹き付けられた紙にもこんな言葉が記されています。
"…Un parfum à partager." (共有する香り)。
男性も女性も共に使える香りなのです。適度な香り立ちが持続する上品な香り方ゆえでしょう。

先日エルメスブティックで、この香りのボディクリームも新発売されたことを知りました。オードトワレよりもいっそう柔らかく香り、優しい肌触りのヴェールに包まれているような感触。アルコールで希釈されたフレグランスが苦手な人でもこれならば皮膚を保湿しながら自分をうっすら香らせることができます。

ギフトシーズン。贈られる人だけでなく贈る人も幸せになれる季節です。

2010年11月30日火曜日

十人・十香

十人十色になぞらえて、私のにわか造語。
ホント、厳密にいえばDNAが違うのだから一人ひとり体質も体臭も違い、さらに香りの好みや感じ方もさまざまです。でも。香りのジャンルにおいてこうした背景があるにもかかわらず、個人的な感じ方だけで「香り」というものに偏見がもたれているのもまた事実。

香りのプロとはどんな人なのだろうと考えたとき、香りといっても色々なものがあり、それぞれの価値を客観的に言葉で説明できる人であってほしいと強く願う今日この頃です。

たとえば…。
アロマセラピストという職業に携わる人は、天然香料の一種である精油を主に学び、人のリラクセーションに活用させるプロですが、天然以外のことはそれほど詳しく学ばないにもかかわらず「天然でない」というだけで、合成香料にネガティブな考え方をもたれているケースが良く見られます。

私はアロマテラピーよりも先に、大好きなフレグランスについて勉強しました。調香師という人は様々な香料で素敵なイメージを描ける、まるで画家や音楽家のような人達であると感じました。彼らにとっては天然も合成も同じく創作のための貴重な香料です。ムスクの香りはもとは麝香鹿から得ていましたがその希少性、動物愛護の観点から現在はほとんど合成香料が使用されており、この合成に携わった化学者はノーベル賞を受賞したということもききました。

調香師もアロマセラピストも、手段や用途目的はちがっても、豊かな香りの楽しみ方を提供する上ではそれぞれ重要な役割を果たしていると思います。
私がアロマテラピーの勉強をした理由のひとつは、天然香料についてもっと知りたい、人に直接香りがどんなふうに働きかけるのかを知りたいという好奇心でした。結果、フレグランスしか知らなかったころにくらべて、単一の精油に対してすら、リアルに人によって感受性が大きく違うことも体感でき、人によって心地よい香り方とはどういう状態であるべきなのかを以前より考えるようになったと思います。

自分の好みはさておき、さまざまな香料、香り文化に精通し、それぞれの活用法を必要とする人に言葉で伝え、十人十香に対応できる…目指したいものです。

明日から師走。香水の日とされた10月1日から、私はツイッターで毎月1日に1つずつフレグランスをご紹介してきました。明日はこのブログで何かご紹介したいと思います。

2010年11月27日土曜日

半年先へ旅気分

昨日金曜は、前回ご紹介のブランド、アン・フォンテーヌの2011春夏新作コレクション内覧会へ。テーマは "SUMMER STORY"。デザイナーのインスピレーションの源となったのは、イギリス出身の写真家、David Hamiltonの醸し出す世界、との前情報から、ソフトフォーカスによる独特の柔らかな光を通した夏の色が見られるような…淡い期待感とともに出向きました。

やはり。そこにはゆったりと流れる時間の中で感じる風景に似合う色と形がありました。淡いサンドベージュ、柔らかな光を浴びたような優しいピンク、乾いた空気の爽快さを色に移したようなライトブルーグレー、空や海の表情を捉えたような青のグラデーション。
カタログに登場するモデルの女性もどこかくつろいだ表情。定番の白、黒のブラウスも、空気を含んだような軽やかさが感じられ、着る人の身体の動きとともに風景に溶け込んでしまいそうです。

ゆっくりとコレクションを眺めていたら、随分昔に愛用していたものから最近のものまで、いくつかのフレグランスの香りを思い起こしました。
なぜか、旅と結びつくイメージのものばかりです。

'80年代後半に発売された、ローマという名の香り。柔らかな光に包まれるような気分になれることが印象的。愛用し始めた直後に仕事でイタリアに行くことになりました。
KENZOAIR。青と白のパッケージ。"AIR"。空気という名のこの香りに、幼い頃見上げていた空を想起して半年後、身近な人物がタイに出張することになり、お土産として買ってきてくれました。
そして今年の春発売のヴォヤージュ ドゥ エルメス。旅立ちへと誘うフレグランス。この香りの調香師いわく、「…香水なら何かを思い出すのではなく、なにかがしたくなるような香水であってほしい。」(専門誌PARFUM154号より)。この香りが吹きつけられた荷札のような紙をお店でいただいたとき、私は昨夏お世話になったブルガリア人の知人と一緒でした。その方も私もこの香りをすぐに気に入って微笑んだことを思い起こします。

2011年の春から夏。半年先へ旅気分。





2010年11月25日木曜日

服と人と空間と

ブランドには、たとえば服だけではなくそのブランドイメージを象徴するようなフレグランスもあります。よく知られた名前を挙げてみるとシャネル、エルメス、ブルガリなど。私はシャネルもエルメスも、主製品を詳しく知る前にフレグランスを知り、その香りからブランドイメージを描いていたと認識しています。ブルガリだけは、イタリアモード誌編集者時代に時計の発表会で初めてこのブランドを意識したので、いまでも重厚感のあるジュエラーという印象をどこかで抱いているようです。

ブランドイメージの香り、といっても上記の場合ほとんどは身体に身に付けるフレグランス。まさに衣服のように身体にまとうものです。

ちょうど8年前の今頃、寒い中にも春を感じさせてくれるような白のブラウスに魅了されて私は一つのブランドに出逢いました。デザイナーは、衣服を身につけた人が存在する空間の香りを大切に思い、身体ではなく空間の香りとしてフレグランスを提案していました。服を着るのは人、その人を含む空間自体を香らせることで心地よさ、優雅さを。そんなメッセージを受け取った私は自身のWebの最初のコラムでこの印象を書いています。2003年春のことでした。

ブティックに入るとふわりとその香りで迎えられ、購入したアイテムにも必ずバラのポプリがついています。帰宅して包みを開けると、そのときの空間をありありと思い起こします。改まった気持ちで服装を選ぶときなど、この香りを空間に漂わせることが楽しくなりました。当初1種類であった香りも近年バリエーションが増え、ルームフレグランスに加えてキャンドルでも楽しむことができます。

ブランド名はアン・フォンテーヌ。デザイナーの名前です。数年前にこのブランドのWeb中において英語と仏語で記されていたデザイナーのエピソードから一部をご紹介したいと思います。当時私の担当講義で学生に紹介するための原稿として簡単に和訳してメモをとっておいたのですが、現在のWebには同内容は掲載されていないようです。


アン・フォンテーヌ。白のシャツを中心とするコレクションをもつこのブランドは'90年代にパリに生まれました。デザイナーのアンはブラジル人とフランス人を両親に持つ女性。リオの美しい山々を見て成長した彼女はこうした自然を大切に思い、エコロジストになりたいと思い描いていたそうです。18才のときに親元を離れて旅に出た彼女は、緑濃いアマゾンの森の中でインディアン部族に受け入れられて生活の手ほどきを受け、自己変革のきっかけを得たということでした…


参考情報
Sawa Hirano's Web 中コラム "white soul"

2010年11月22日月曜日

香りという衣服

フランス語では「香水を身につける」というときに "porter le parfum" という表現を用いるそうです。"porter" という動詞は、既製服という意味を示す「プレタポルテ」すなわち "prêt-à-porter" にも使用されるように「着る」という意味も含みます。ですから、服を選ぶように香水を選ぶ、と考えるとよいと思います。

服を選ぶとき、自分に似合うもの、自分の魅力を引き立ててくれるものをと思います。自分の外観の特徴を知り、それを生かしてどう見せたいのかと考えます。そして、それをいつ、どんな場所で着るのか、誰と会うのか、そのシチュエーションの中で自分はどういう存在でありたいのか。ここまで考えて服は選択されます。さらに着方にもひと工夫したりします。

自分が好感をもつことができ、自分の描くイメージにも合う。そんな香水を探すためには服と同じく試着が必要です。香水自体のコンセプトやイメージヴィジュアルなどからもある程度、自分との相性は想像できるかもしれませんが、リアルに自身の鼻で香りの時間経過による変化を確認し、手首など自分の肌につけた状態の香り方を試してみないと実感できないかもしれません。
嗅覚は体調にも大きく左右されますから風邪をひいている時は避けて…と気分の良い五感のシャープな時がベストです。

さらに大切なこと。特に東京のように人口の密集したところでは強く香らせすぎてはマイナス効果。これでどれだけ多くの日本の人が香水をネガティブにとらえていることでしょう。鼻から近い部分は避けて、ウエストから下の脈打つところ、手首など体温の高いところに少量を纏ってみます。じっとしているときは香りが主張を控えていますが、ふと立ち上がったり歩いたときにふわりと下から上に立ちのぼるのです。そんなふうに香水を香らせる「着こなし」の人がもっと増えると素敵です。

視覚情報が圧倒的とはいえ、人は他人のイメージを他の感覚と共にとらえます。何かが強すぎてもそれは違和感となりますが、五感に程良く届く情報は無意識のうちに好感をもってとらえるように思います。シャワーで清潔に整えた身体でも、一歩外気に触れたら好ましくない様々なにおいの空気にさらされ、不本意なにおい分子にまとわりつかれ、自分自身の体臭も変化するのです。そんな中でも、香りという衣服で自分のオーラを保つことができるなら…たとえ鏡を見なくても自分に自信が持てるでしょう。

2010年11月20日土曜日

専門誌PARFUM

日本で唯一の香水評論家、平田幸子さん編集による香りの専門誌 "PARFUM" は来年で発刊から40周年を迎える季刊誌(定期購読)です。
こちらのPARFUM Webサイトには152号の情報までアップされていますが、ひと月後の12月には冬号156号が発刊されます。

B5版サイズでスリムな冊子。表紙にはそのシーズンの香りを象徴する女性美漂うミューズの写真以外最低限の文字のみという眺めの良さ。最新の香水情報を入手したい方には勿論、香りの文化、美術や映画を愛する方にもおすすめです。昨年からオールカラーとなり、ユニークなヴィジュアル表現を特徴とする様々な香水PR、編集長が訪れた海外の風景写真、美術展レポートもより楽しめるようになりました。

この媒体(冊子)を知って20年以上となる私は、当時からのバックナンバーをすべて大切に保管しています。過去の流行を調べるにも良い貴重な資料。私の書いた原稿を初めて活字にしていただいた記念すべき媒体でもあり、ここ10年位は連載ページも担当。今日はこれから冬号原稿にとりかかります。

2010年11月19日金曜日

調香師

フランスを筆頭にフレグランスの需要の高い地域では特に、調香師の存在感が大きいようです。一方日本では、国内はもちろん海外でも業績を上げられた日本人調香師の存在も確かにあるのですが、いまのところ、国内での存在感は欧州ほどではありません。

美的感受性、想像力。これはそもそも人に喜びをもたらすものです。さらにこれらは香りを楽しむにはかかせないものでもあると私は思います。見えない香りから何を思い浮かべるか。感じ取った一点のイメージを波紋のようにどこまで拡げて独特の世界観を描けるか。これは、生まれてこのかた体験してきた記憶のストックだけではなく、同じひとつのものをみても様々な見方、想像力を駆使する経験の積み重ねが生み出すものでしょう。
たとえば、未知のものに積極的に出会う経験、旅、読書、芸術鑑賞…。

素晴らしい想像力によって香りを創り出す調香師がいても、その世界観を感受、評価し、その必要性を実感できる人がいなければ、その美の世界は共有できません。美というものはすでに存在するものではなく、心で感じるものだから。
ー11/17日本調香技術普及協会・発足記念講演会を拝聴してー

2010年11月17日水曜日

ブルガリア

ソフィア空港からこの国に降り立って真っ先に感じたのは山のラインの美しさ。のびやかで遠くまで見渡せる清々しさは今もよく憶えています。7月初旬の夜8時台はまだそんなふうに明るかったのでした。建築にはどことなくアジアを感じさせる風情もあり、西と東の文化が融合されてきた歴史を感じます。この国は日本ではヨーグルトで有名でしょうか。確かに乳製品は豊富です。野菜、フルーツ、肉類、ワインも非常に美味しい農業国です。

ダマスクローズ。多くの調香師の方々が「香りの女王」と絶賛する天然香料はこの薔薇から抽出されます。ブルガリアは、このダマスクローズの生育にきわめて適した気候風土を持つ国で、水蒸気蒸留法によるこの薔薇の精油、ローズオットーの抽出技術を長い年月を掛けて磨いてきました。私が昨夏この国を訪れた目的とは、まさにこの世界的な高品質を誇るダマスクローズのローズオットー。2009年はブルガリアと日本が外交復興50周年という記念すべき年でもありました。稀少価値の高いこの精油を抽出直後のフレッシュな状態で買い付ける企画のために、薔薇から精油が抽出されて国立バラ研究所での品質チェックが行われる時期に合わせて渡欧したのです。

日本の本州の約半分の面積、人口約750万人(対して東京の人口は2010年8月の時点で人口約1300万人)。国土の東側は黒海に面し、南側はギリシャ、北にルーマニア。日本からは今のところ直行便はなく、一度乗換えが必要です。

ロシア語でも使用されているキリル文字を用いたブルガリア語が公用語ですが、首都のソフィアではビジネス上多くの人が英語を話します。ローズオットー生産に携わる会社の社長さんは英語とドイツ語を理解され、国立バラ研究所の所長さんは母国語以外はフランス語のみという状況でした。やはり海外輸出がほとんどというローズオットーに携わる方々ならではです。一方バラの谷のあるカザンラクなど地方に行くと、ちょっと立ち寄ったお店ではブルガリア語しか通じないこともありました。最低限の挨拶表現、数字、疑問詞位は覚えておいてよかったと思います。

7月はちょうどラベンダーの最盛期で畑の一帯は素晴らしく清々しい香りで満ち溢れていました。ブルガリア産のラベンダー精油もなかなか香り高く高品質であることがわかりました。豊かな香りは豊かな自然から。改めてそうした環境に感謝し、大切にしたいと思います。


参考情報 :
パレチカWeb中~ブルガリア買付旅行記


2010年11月13日土曜日

楽器になりたい

最近よく思います。楽器になりたいと。私の身体が楽器になってそのときどきの雰囲気に合った音色とリズムと音量で鳴ってくれたら楽しいなと。実際に音が鳴らなくても脳に記憶されたメロディやリズムは、私の内部でちゃんと再生されます。14才、学校の課題のためにピアノでつくった曲。22才、バンドで自分が歌うために鼻歌とキーボードでつくった曲。ある時ちょっと思い出したなあと追想してみたらフルで憶えていて自分でもビックリ。あまりに素直なメロディラインなので、今の私ならこんなアレンジするかな、などと一人静かに頭の中で音を再生しています。

この楽しみは香りに対しても同じでした。自分でつくった香りだけでなく、かつて長く愛用したフレグランスの香りもしっかりと記憶に刻まれています。あの香り…と思い起こすだけで心地よくなれることもあります。念じることで実際に香りを発散させることはできなくても、その香りによって得られた気分と笑顔は確実に再生できます。

そんなことを思いながら昨夜聴いたジャズ。2月に開催したコンサートで薔薇の香りをピアノで音楽表現してくださったアキコ・グレースさんが、今年のローズ・ヌーヴォーの香りを音にしてみたくなった…とブログで表明直後のライヴです。今回はベースとドラムスとのトリオ。光のように駆け巡るピアノの音に、大地の底から命が共鳴するかのように調和するベースの響き、風がそよいでいくかのようなドラムスの流れ。そんな中でグレースさんが、"エッジのきいた" 今年のローズの香りのきらめきを演奏されました。ベースやドラムスの音とともに、繊細で複雑なこの花の香りが私の内側に再生されてくるのを感じた夜でした。
楽器になりたいと思ったのは、こういうことだったのかもしれません。
身体の中に香りと音楽。いつまでも。


参考情報:
ピアニスト、アキコ・グレースさんブログより

「鍵盤とローズオットー」

「ローズ・ヌーヴォーとピアノ」

2010年11月7日日曜日

フランス

私が生まれて初めて海外を訪れ、生活したのは大学3年の冬から春。1人で飛行機に乗り、南回りの航路でパリに向かいました。
大学で専攻したフランス語を使ってみたい、実際に生活してフランスを知りたいという気持ちがありました。ステイ先はフランス語しか話せないマダムの住むマンション。

午前は語学学校、午後はフリーでしたから美術館巡りと街の散策に明け暮れていました。一度だけ学校の選択受講で午後にパリ郊外の香水工場を見学したこともあります。パコ・ラバンヌというブランドの工場です。大好きな香水がこんなにも工業化されたシステムで作られていることに驚いたことも憶えています。

パリでの生活で印象的なことの一つに食生活があります。断然美味しいと思ったのはパンです。"pain"というのはまさにフランス語。小麦の香りでしょうか、パリッとした香ばしさと噛みごたえが魅力です。ランチといえば、大概ハムやチーズが挟まれたバゲットサンドイッチを食べていましたが飽きませんでした。
朝食はセルフサービス。マダムは姿を見せません。食卓にあるフルーツ、パン、シリアルと冷蔵庫にある飲み物、ヨーグルト、チーズ、コンフィチュール(ジャム)を自由に食してよいのです。フランス語で朝食のことを"petit-déjeuner" といい、直訳すると「ちょっとした食事」ですがまさにそんな感じです。目がさめたばかりでフルーツだけでいいという人もいれば、ミルクとシリアルという人もいました。私はせっかくなのでパンかシリアルにフルーツ、ミルクかヨーグルト、など日替りで楽しんでいました。パンやシリアルの種類の豊富さにも驚いたものです。夕食はマダムの手料理です。野菜と肉が煮込んであることもあれば焼いてあることも多く、味付けもそれほど濃くはなく、と私は恵まれていたのかもしれませんが、違和感なく頂いていました。一度だけ驚いたのは米のプディングが出されたときです。長い米粒でしたから日本の米のタイプではなく
それが甘いフルーツのシロップで煮固められていたのでした。甘い米?とは思いましたが食べてみるとお菓子のようなものと受け入れることができました。
外食で最も印象的だったのはクスクスという粒状パスタをスープにたっぷりかけて頂く料理。ごろごろとした野菜とスープの味が優しくておなかいっぱいになりました。

小麦を生かしたパン、ふんだんな野菜とフルーツや乳製品からイメージできたのは農業国フランスならではの食文化でした。朝食の形式の合理性もフランス人らしいなと思います。この形式は私自身が現在の生活で取り入れることもあります。私がいなくても、わざわざ起きなくても家人が自分のお腹の具合に合わせてセルフサービスで食べられるようにしておくのです。朝は調理する時間がない、または調理の匂いを身体につけたくない、そんなニーズにもかなっています。記憶がうすれないうちに、これからも私の異国体験をすこしずつ綴っていきたいと思っています。

2010年11月4日木曜日

オレンジ花の清楚な白・ネロリ

白のクラシカルなドレス。明るい色の髪。
陽光とそよ風に心を洗われ、晴れやかな気分が身体を潤していく…。
今でも、フレッシュなネロリの香りに遭遇するとそのようなイメージが浮かびます。ビターオレンジの白い花から得られる香料です。

かつてフレグランスの調香に用いられる代表的な香料を学んでいたときのこと、このネロリは柑橘系の香料のカテゴリーに含まれていました。清楚な印象の奥に一瞬うっとりとさせる濃厚な魅力をもつこの香りは、なるほどオーデコロンには欠かせないと言われるだけのことはあると感じます。

ネロリに初めて対面したときの人の反応は実に様々ですが、今でも特に忘れられないのは20歳の男性の言葉です。
「たとえば好きな人に振られてしまったとき、この香りを嗅ぐとよさそうですね。」

レオナルド・ダ・ヴィンチもこのオレンジの花から香料を抽出しようとしたと文献で読んだときは驚きました。彼が試みたのは精油を得るための水蒸気蒸留法ではなく、油脂に香り成分を吸着させるために花びらを敷きつめることを繰り返す手間のかかる方法であったそうですが… 。そうまでしてこの香りを求めるヒトの情熱の一端を感じます。ビターオレンジの花を蒸留した精油について最初に記述したのは、イタリア人の自然愛好家で1563年のことだったという記録もあるそうです。

オレンジの花から得られる香料が何故ネロリと呼ばれるのでしょうか。17世紀にこの香りを好みイタリア社会に紹介した姫君のいた国がローマ近郊のネロラ公国。この国のプリンセスであったアンナ・マリア・デ・トレモイルは、手袋やステーショナリー、スカーフなどあらゆるものにこの香りをつけていたそうです。ネロリとはまさに、流行が生んだ名称です。

ネロリの産地はチュニジア、モロッコ、イタリア、フランスなど。
オレンジ花の清楚な白。その香りは今も広く愛されています。

参考文献

「フレグランス
クレオパトラからシャネルまでの香りの物語」
エドウィン・T・モリス 著 中村祥二 監修
マリ・クリスティーヌ 、沼尻由紀子 翻訳
求龍堂 発行


"AROMATHERAPY FOR HEARING the SPIRIT"
GABRIEL MOJAY
1997 Gaia Books Limited,London
Healing Arts Press

2010年10月30日土曜日

音とリズムの空気感


晩秋を思わせる午後。雨音のBGM。

香りと同じく、心地良い空間をつくるのは音。クラッシック音楽好きの両親のもとで育った私はごく自然にピアノの音が好きになりました。学生時代の楽しみもバンド活動。異なる音源をもつ仲間と、同じ空間で音が絶妙に調和する瞬間を共有することがたまらなく快感でした。身を置くならば芳香の中にと思うのと同じく、その時々の心にフィットした音に包まれることを望んでいます。

いわゆる言葉も、私は音楽のように感じています。幼い頃、自分の地域で話されていた方言がどうしても好きになれず、外国語歌詞の曲に魅かれ、そのような言葉を話す生活がしたいと子供心に思ったことも憶えています。以後母国語をなるべく聴きやすく心地良い音の流れをもって話すことを心がけるようにもなりました。文章を書くときも、たとえ声に出して読まれなくても、心の中で音楽のように伝わることを理想にしているかもしれません。

服飾史家である中野香織さんのWEBトップページに記された一節に共感しました。イギリスの詩人、Samuel Johnson の言葉です。
"Language is the dress of thought."「ことばは思考の衣装である」

心地良い韻で綴られた詩を憶えてしまうように、抜群の間をもって楽しく語り合えた人のことも忘れられません。音とリズム。それらはまるで香りのように、再び出会うと鮮明に記憶によみがえります。幸せな空気感の源を大切に。


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2010年10月29日金曜日

空間を香らせるエレガンス

芳香浴、という言葉があります。これは、心地良く感じられる芳しい香りの漂う空間の中に身を置いていることを示します。見えないけれど、芳香を浴びている、そんな感じでしょうか。

一枚の扉を開けて新たな空間に入るとき、そこには目に見えない空気が流れます。ヒトの嗅覚はそれまでに感知していたものと違う匂いに関しては極めて敏感ですから、ほんのささやかであっても、扉の前にはなかったものを瞬時に感じ取ることでしょう。本来、生命をまもるために備わっているこの感覚を、さりげない思いやりの感受に生かしたいものです。そう、エントランスをほのかに香らせるのです。掃除や換気を行った上で、たとえばルームフレグランスをひとふきする、あるいは事前に香りを焚き来客時にはその残り香のみが漂うようにするなど…。特に個人宅などの生活空間の場合、その生活のあるがままを匂いで感知させてしまうよりも、
「特別な方にお越しいただきました。ようこそ。嬉しく思います」
そのような歓待の心が第一印象として伝えられるほうがずっと素敵です。

香り方はあくまでも優しくさりげなく。確かに感知できるものの、いつしかフェイドアウトしていく程度がよいでしょう。数分経てば香りがあったことすらわすれて、ただなんとなく心地良い場所に来たのだと思っていただければそれで十分ではないかと思います。手段は「香らせた」本人だけの秘密のままで。

2010年10月26日火曜日

ビターな熱さ・ジュニパー

初めてこの植物の精油の香りに出会ったのは真冬の午後。
嗅いだ瞬間、身体の奥が温まったような感触。好感と共に再度香りを確かめると、ほとんど黒に近い深い緑が見えたように感じ、つづいて男性とも女性ともつかない知的な瞳の人物がイメージできました。ビターな熱さとでもいうか、静かな厳しさのような魅力を感じて、きっとこれは私を助けてくれる香りになるだろうと直観して入手したのです。

以上は、この植物について詳しく知識を得る前に私が感じ取ったことです。私は、香りとの出会いにおけるこうした感受の記憶を大切にしています。

名前の音の響きにも魅かれ、語源について書かれている文献を探し、ガブリエル・モージェイという、東洋医学とアロマテラピーに精通した専門家の著書に辿り付きました。"juniper"という英語名は、ラテン語の"juniores"、すなわち"young berries"という意味を持つ言葉に由来するとのこと。一方、フランス語で"genièvre" と呼ばれ、その由来はケルト語の"gen"、すなわち"small bush" を意味する言葉と、"plus" 、すなわち "hot and bitter"を意味する言葉にあるということでした。そして、この"gen"から、ginという単語
、ジュニパーベリーで香りづけされたお酒を示す名称が生まれたと記されていました。

アロマテラピーの講義中、ジュニパーの精油の香りを体験してもらったところ、一人の学生が心地よさそうな表情を見せました。彼はお酒の中で特にジンが大好きとのこと。一方で顔を歪める学生もいました。何か強い化学的な薬のように感じると。ジュニパーという植物そのものの自然な香り方ではなく、揮発性の芳香成分だけを人為的に抽出した精油なのですから、嗅ぎなれていない人が強すぎると感じることも勿論あります。水蒸気蒸留法によって抽出された精油というものの実体は、水にほとんど溶けないことから油という文字で表現されてはいますがその実体は、多種多様な有機化合物の集合体です。植物が、水と二酸化炭素と光から行う光合成にはじまり、生き抜くために体内で作り出したCやHやO等からできた成分と考えると精油の香りが単純なわけはありません。最近の講義では、精油だけではなくドライハーブなど自然の植物の状態に近い香りも合わせて体感してもらうようにしています。ジュニパーベリーのドライハーブは、球果をつぶすと香りを感じることができます。

ヒノキ科のこの植物は、北欧と南西アジア、北アメリカ等が原産とされ、荒野や山の斜面、針葉樹に育つということで厳しい環境が想像できます。球果の遺物が欧州の湖畔の先史時代の住居跡から見つかったという報告もあります。その芳香と殺菌作用により古代から伝染病予防に使われたという記録があることからも、この植物が人を助けていたことは間違いなさそうです。

私の知人に多忙で疲労困憊するまで働いてしまう男性がいますが、彼はこの香りを好みます。徹夜明けに仮眠したあと、この香りのお風呂に入ったり、精油を希釈したトリートメントオイルで足をほぐすと非常に楽になるといっていました。私も同感です。疲れたときに楽にしてくれたもののことは忘れません。そして疲れていないときでもこの香りから
安らぎを感じるようになっています。ビターな熱さ。回復を想起させるイメージです。

参考文献

"AROMATHERAPY FOR HEARING the SPIRIT"
GABRIEL MOJAY
1997 Gaia Books Limited,London
Healing Arts Press

2000年に前田久仁子訳の日本語版
「スピリットとアロマテラピー」(フレグランスジャーナル社)も刊行

2010年10月25日月曜日

ブログスタートしてみました

ツイッターを始めて5ヵ月。140文字のスケール感とテンポは呟やきやすいものの、もっとまとまった文量で伝えたいと感じるようになり、SAWAROMAブログをスタートさせてみました。
アロマセラピストと名乗ると、アロマテラピーの専門ですかとよくきかれますが、私の定義する「アロマ」というのは、人をより良い状態に導く芳香、と広い意味での「香り」を示します。
「テラピー」というと、治療という意味に直訳されますが、これも私は「問題解決」と広義でとらえています。

アロマテラピーに出逢う遥か前、幼少時から香水は私の密やかな楽しみであり、表現手段でした。
大学ではフランス語を専攻し、在学中のパリでの生活体験から最初の就職先をデザインの会社と志した私は、プランナー、ライター、編集者、広報、アロマトリートメント施術者、講師など様々な仕事を経て今日を生きています。そうした視点から感じるあれこれを綴っていきたいと思います。